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最高の男、最高の女たち

「『ドレスアップ』」


 屋敷の中、シルビアとナディアの二人に着せ替えの魔法を掛けていた。


 二人には同時に魔法を掛けた。セットで対比させる、というのをこころがけて。


「どうですかルシオ様」


 聞いてくるシルビア。


 子供の姿のままドレスをきた彼女は何かの発表会にこれから出るって雰囲気だ。


 そのシルビアはピンク色のドレス、横にいるナディアは水色のドレスだ。


「良い感じだと思う」


「もうちょっと大人っぽいのがいいって思う」


 ナディアが自分を見下ろしながら言う。


「ふむ、それもそうだ」


 二人の薬指にはめられてる指輪を見て、おれもそう思った。


 おれの嫁の証、結婚指輪。


 魔法で作ったちゃんとした指輪だから、こどもっぽいとちょっと違和感がある。


「『ドレスアップ』」


 魔法を再び二人に掛ける。光が二人を包んで、新しいドレスにする。


 今度は比較的大人びたデザインのドレスになった。色はシルビアが赤で、ナディアが黒だ。


「どうですかルシオ様?」


「良い感じだと思う」


「こっちなら姿は大人の方がいいかも」


「なるほど」


 ナディアの意見で、今度は見た目を大人にする魔法をかけて、見た目を調整する。


 こうして、二人の衣装合わせをしていった。


     ☆


 今日は年に一度の大型行事、英雄感謝祭という名前の日。


 ちょっと前にあったおじいちゃんの日とか、国王が無理矢理ねじ込んだ千呪公の日とかと違って、この国を作った英雄、初代国王の誕生日を元にした日だ。


 国中大盛り上がりの大行事で、王都ラ・リネアでも儀典を行ったり、お祭り騒ぎになったりする日だ。


 そこにおれは公爵として公の場に出席することを求められた。


 そこに連れて行くために、シルビアとナディアを綺麗に見せようとしているところだ。


 そのかいあって、シルビアとナディアは子供の姿ながら、おれから見てもうっとりするくらいの貴婦人に仕上がった。


     ☆


 その二人を連れて、儀典の場に姿を現わした。


 まわりは大人ばかりだ。


 ちょっと前に国王がおれを自慢するために開いたパーティーに比べて、規模も集まった参加者も、おごそか度合いも数ランク上だ。


「ルシオ様……」


「ルシオくん」


 シルビアとナディアが同時におれをよんだ。


 見上げてくる顔は不安でいっぱいだ。


「胸を張って、シルビア、ナディア」


 二人の手を握って、ささやきかける。


「おれはここに二人を連れてきた、何故だと思う?」


 二人は不思議がった。わからないという顔をする。


「屋敷の近くに住んでるおじさんがいるだろ、ものすごく大きい犬を飼ってる。あのおじさん、犬を連れて散歩してる時って犬だけじゃなくておじさんも強く見えるだろ? あれと一緒。綺麗なシルビアとナディアが一緒にいてくれる方が、おれもかっこよく見えるんだ」


 驚く二人。


「だから、綺麗でいてくれ」


「――はい!」


「任せてよ!」


 頷き二人、おれの左右に並んで、一緒になって歩き出す。


 自信に満ちた顔の二人。


 うん、綺麗だ。


 そんな二人を引き連れて、まわりの羨望の視線を集めた。


「ルシオ」


 おれ達の前に、ルビーがやってきた。


 久しぶりに会う、この国のお姫様。


 彼女はきらびやかなドレスで、やっぱり注目を集めている。


「やあ、こっちに戻ってきてたのか」


「都であおうぞ、と約束したはずだが?」


 拗ねた目で睨まれた。確かにそんな事言われたっけ。


「そうだったな」


「わらわはしばらく、都にある屋敷にいる」


「そうか」


 おれはそう言った。


 会話が途切れた。


 ルビーがますます拗ねた目でおれを見た――どうしたんだ?


「お姫様、今度遊びにいっていいですか? ルシオ様と一緒に」


 シルビアが横から口を出してきた。


「わたしたちもルシオ様も、お姫様のお屋敷って知らないから」


 シルビアが言うと、ルビーはちょっと機嫌がよくなった。


「そこまでいうのなら仕方がない、特例で招いてやろうぞ。ルシオも、それでよいな」


「あ、ああ」


「ありがとうございます」


 シルビアが礼をいった。


 そのあとはルビーとわかれ、いろんな人と話をした。


 シルビアも、ナディアも、二人はおれよりもうまくいろんな人と話した。


 小さいながらもまるで貴婦人。


 二人が注目を集めることで、その注目が巡り巡っておれにも尊敬の眼差しという形でくる。


 二人のいい女を侍らす男はいい男に違いない、という理屈だ。


「姫様」


 ふと、一人の男が入ってきて、ルビーに何か耳打ちをした。


 ルビーはそれを聞いて顔色を変えて、男と一緒に儀典の会場からでた。


「シルビア、ナディア。ちょっと離れる」


 二人にそんな事を言って、ルビーのあとを追う。


 外に出て、物陰からルビーの声が聞こえてくるので、そっちに向かった。


「で、規模はどれほどの物か」


「それが……最低でも二日は続くものと……」


「なんという事だ……」


「なんの規模だ?」


 近づいて、声を掛ける。


「ルシオ!」


 驚くルビー。


「どうしたんだ? なんかものすごく顔色が悪そうだぞ」


「な、なんでもない」


「おい、そこのお前」


「は、はい!」


 男はビシッ、と「気をつけ」のポーズをした。


 公爵様(おれ)によばれて緊張しているようだ。


「何があった」


「そ、それは……」


 男はルビーを見る。板挟みになっているのが見える。


「魔法で話させてもいいんだぞ? おれは千呪公、喋らせる魔法くらい覚えてる」


「はあ」


 ルビーからため息が漏れた。観念したっていうため息だ。


「宮廷の気象観測士から知らせがあった。魔法で観測した結果、今夜から嵐がくるらしい。しかも最低二日は続く程の大嵐なのだ」


「嵐か」


「見ての通り国中――都は大騒ぎだ、これから儀典も行う。それなのに嵐とは……」


 ルビーは難しい顔になった。


 この大きな行事が嵐とか台風とか、そういうのに文字通り水を差されるとなったらそんな顔もする。


「わかった、おれに任せろ」


「なんだと? 任せろとは何をするつもりなのだ」


 ルビーをおいて、男に聞く。


「嵐はどこから来る」


「う、海の方から」


 男はあさっての方角を指した。あっちが海のある方角で、嵐がやってくる方角か。


「どうするのだ」


 ルビーは同じ事を聞いた。


「古代魔法を使う」


 おれはそう言って、肩で風を切るように歩き出した。


     ☆


 式場を出て、飛行魔法で嵐の方向に向かって飛んでいく。


 空を飛ぶと一段とよく分かる、天気が加速度的に悪くなっていくのが。


 雲の上に出た。更に進んだ。


 すると渦巻く巨大な雲が――嵐にぶつかった。


 更に進むと、今度はぽっかり開いてるところが見えた。


 おそらく、台風の目。


 そのど真ん中に飛んでいき、魔法を詠唱する。


「『ウェザーチェンジ・サニー』」


 唱えた瞬間――全身が脱力していくのを感じる。


 はじめてこの古代魔法を使った時もそうだった。


 天気をかえる程の大魔法、それを使った時、魔力がごっそり持って行かれて脱力するのを感じた。


 それと同じもので――遙かに強い物を感じる。


 当然だ、二日続く程の嵐を晴れにかえるんだから。


 目の前がぼやけた、意識を失いそうになる。


 目の前にふたりの姿が浮かび上がった。


 シルビアと、ナディア。


 二人の晴れ姿が、大活躍してる二人の姿が浮かんだ。


 ――ギリッ。


 歯を食いしばる、体というタンクの底をさらって、魔力を搾りだす。


 天気が変わる。


 台風の目が徐々に広がっていき、荒れ狂う嵐を塗りつぶす。


 やがて、嵐は完全に消え去った。


     ☆


 残った最後の魔力で王都に、式場に飛んで戻ってきた。


「ぎりぎりだったな」


 つぶやき、深呼吸する。


 ちょっと足元がふらつきかけたから、慎重に歩いて中に戻る。


 ルビーがそこにいた。


「嵐を消してきた」


「……え?」


「嵐を消してきた。もう大丈夫だ」


「そんな馬鹿なことが」


「じゃ、あとは任せた」


 ルビーの横を通り抜けて、式場の中に戻ろうとする。


 背後からルビーが部下に命令して、気象観測士のところに確認に走らせるのを聞きつつ、中に戻った。


「ルシオ様」


「ルシオくん」


 入り口で、二人の嫁がおれを出迎えた。


「待たせたな、さあ――」


 行こうか、と言おうとした時。


 二人が腕を組んできた。


 左右に挟んで、腕を組んできた。


 おれは驚いた。なぜならそれは普通の組み方じゃなかったから。


 一見普通に見えるが、実際はおれを支えるかのような組み方。


 まるでおれが何をしてきたのかわかっているかのようだ。


「シルビア? ナディア?」


「ルシオ様、魔法をいっぱい使った時の顔をしてます」


 シルビアが言った、ナディアがこくこくと頷いた。


「……そうか」


 おれは納得した。


 一番おれが魔法を使ってるのを見てる二人にはバレバレのようだった。


「ルシオくん」


「なんだ」


「今のルシオくん、かっこいいよ」


「そうか?」


「うん!」


 ナディアは大きく頷いた。


「今のルシオくんと一緒に歩いたら、わたし達も綺麗に見えるかな」


 ナディアが言う、おれは驚く。


 さっきおれが言ったことの逆バージョンだ。


「……ああ」


 おれは頷き、二人が組んでくる腕にちょっと力を込めて、絡み返した。


「シルビアもナディアも、今は世界で一番素敵な女だ」


「はい、ルシオ様」


当然だよね(、、、、、)


 二人が笑顔で頷く。


 自信ではなく、信頼。


 そんな風に頷いた二人と一緒に、おれは式典に戻っていったのだった。

台風・天災に打ち勝ったところで、王都編終了です。

この章でいろいろやってきた要素を総合した話ですが、楽しんでいただけましたでしょうか。

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