○○の日
「助けてルシオ様!」
マンガを読んでると、おなじみになった台詞でシルビアがおれのところにやってきた。
彼女はエプロン姿で鼻先にクリームをくっつけて、何故か髪の毛が一部ちりちりしている。
「『アジアンビューティー』」
髪を直す魔法を掛けつつ、指でクリームをとってやる。
そして、聞く。
「どうしたシルビア、何があった」
「実は、ケーキを作ってたんですけど……何回やっても失敗して、うまくできなくて……」
「ケーキ?」
それでクリームがついてたり、髪の毛がちりちりしてたりしたのか。
「なんでまたケーキを?」
「今日って、おじいちゃんの日なんです」
「おじいちゃんの日?」
「はい。世の中のおじいちゃんに感謝をする日なんです」
「敬老の日みたいなもんか」
「それで、ルシオ様のおじい様にいつもお世話になってますし、ケーキを作ってプレゼントしたいな、ってナディアちゃんと一緒に頑張ってたのですけど……」
「失敗続き、ってわけか」
シルビアは頷いた。申し訳なさそうな顔をしてる。
「話はわかった、そういうことなら手伝ってやる」
「ありがとうございますルシオ様!」
シルビアと一緒にキッチンにいった。
そこには、シルビア以上にちりちりで爆発頭のナディアが途方に暮れていた。
普段の寝癖のアフロ頭よりちょっとひどい、一体何があったんだろうか。
同じように魔法で直してやりつつ、近づく。
「ルシオくん」
「話は聞かせてもらった。手作りのケーキとか、お菓子とか作りたいんだな」
「うん! 何かいい魔法はあるの?」
「ああ」
頷くおれ、ここに来るまでに頭の中から捜し出してた、こういう時にぴったりの魔法がある。
「手作りチョコでいこう。シルビア、チョコはあるか? できるだけ普通のチョコ、味がついてないのがいい」
「板チョコでいいですか」
「ばっちりだ」
シルビアにいくつも指示をして、出したチョコを湯せんにかけて溶かした。
「あとはこれを固めるだけだ」
「えっ? とかしてかためるだけですか?」
「それって手作りチョコなの?」
「まあ見てろ――『モルディングハンド』」
シルビアとナディアの二人に魔法を掛けた。
二人の手は黄金色に輝き出す。
そしてそこに、今し方溶かしたチョコを流した。
「わわっ」
「あれ、熱くない」
「二人とも、心の中で想像するんだ。粘土で何かを作る感じで」
「粘土で?」
「うーん、こうかな」
二人は素直に、言われた通り想像をはじめた。
「わっ、手、手が」
「勝手に動き出した!」
驚く二人、黄金の手は自動で動き出した。
ドロドロにとかしたチョコを、おれが説明した粘土を扱うかのように形を整えていく。
チョコが冷めて固まる頃には、それがいい感じにできあがった。
「あっ、本当にできちゃった」
「すごーい」
驚くシルビア、はしゃぐナディア。
「おいおい」
おれは呆れた。
二人が作ったのはおれだった。
ナディアが作ったのは二頭身になったおれで、いわゆるねんどろいどのような可愛らしい見た目のおれだ。
シルビアが作ったのはリアル頭身のおれ、ポーズをとって、やたらと格好いいおれだ。
二人は互いに、作ったチョコのおれをみた。
「ナディアちゃんずるい、そんな可愛いルシオ様を作るなんて」
「シルヴィの方がずるいんじゃん? そんなかっこいいルシオくん、食べずにずっととっておきたくなるよ」
なんか訳わからんことをいいあっていた。
「はいはい、それはいいから。それよりも魔法の事はわかったな」
手を叩いて、二人をとめた。
「あっ……」
「うん、わかった」
「なら、もう一度かける。今度はこう言うのじゃなくて、おじいさんにプレゼントできるようなのを作れ」
二人は互いを見比べて、「うん!」と満面の笑顔で頷いた。
☆
王宮、謁見の間。
「こんにちは、王様」
子供モードの口調で国王の前に立つ。
「おお千呪公、よく来てくれたのう。して、今日はなにようだ?」
「えっとね、今日はおじいちゃんの日だって聞いて。ぼくと妻達でプレゼントを作ってもってきたんだ」
「なんと!?」
「これ、どうぞ」
もってきた箱を開けて、国王に差し出した。
箱の中はチョコが入っていた。平べったい、メダルのような形をしたチョコ。
チョコはデフォルメされたおれとシルビアとナディアの顔になってる。
おじいさんに渡すものとまったく同じものをワンセット作ってもらって、国王のところにもってきたのだ。
「おお、おおおおお」
国王は箱をもって、ぷるぷる震えるほど感動した。
「この愛らしさ、そして勇ましさ」
国王はおれの顔のチョコをとって、言った。
その二つはなかなか両立しないと思うけど、国王の中ではそうなってるみたいだ。
「気に入ってくれたかな」
「無論じゃ!」
「よかった」
「さっそく国宝に指定し、永久保存させてもらうぞ!」
「えー、待って待って。それはただのチョコだから、そんなことしたらカビが生えちゃうよ」
「むっ」
「それに、おじいちゃんの日は毎年あるんだから、また来年も作るから。それはちゃんと食べてくれると嬉しいな」
「そうか。わかった、ならば遠慮なく食べさせてもらおう。だれかある」
「はい」
大臣っぽい人が一人やってきた。
「これを今夜食べる。もっともチョコにあう酒を用意せい」
「チョコとなりますと、300年物の紫酒がもっともあいますが」
「うむ、ならばそれじゃ」
「承知いたしました」
大臣っぽい人は下がっていった。
300年物の酒か……なんか大げさ過ぎる話になってないか?
いやまあ……国王だし、それくらいは別にいっか。
何より喜んでもらえてるみたいだしな。
「感謝するぞ、余の千呪公よ。そうだ、千呪公には何か礼をせねばならんな」
「え? いいよそんなの、おじいちゃんの日にプレゼントするのは当たり前のことだし」
「むぅ、しかしそれでは余の気が……そうだ」
ポン、と国王が手を叩いた。
なにやら悪い予感がする。
「だれかある」
「はい」
さっきの大臣っぽい人がやってきた。
「千呪公よ、そなたの誕生日はいつじゃ?」
「え? ああたしか……」
おれは自分の誕生日を言った。
なるほど誕生日プレゼントをお返しでくれるのか。
なんかとんでもないプレゼントがお返しでくる気がするけど、まあ、そういう話ならいっか。
「日付を聞いたな?」
「はい」
大臣っぽい人が頭を下げる。
「その日を祝日にするのだ。名前は千呪公の日」
「え?」
「すぐにやれ、国中に伝達するのだ」
「承知いたしました」
大臣っぽい人がそう言って去っていった。
国王は満足げにふんぞりかえって、チョコを眺めている。
斜め上過ぎるお返しになった。
相変わらずのバカジジ二号(プロット内の呼び方)でした。