マンガがダブってしまった、どうする?
この日は朝から魔導図書館にいた。
図書館の館長であるおれだが、いつも通りする仕事なんてない。ここに来て、一日中マンガを読んでるだけ。
「うん?」
「どうしたのパパ?」
「パパはやめんか」
おれをパパって呼ぶのはクリス。
半透明で、空中にぷかぷか浮かんでるこいつは魔導書の精霊で、どうやらおれが読んだ魔導書に比率して実体化するらしい。
そういう意味では「おれが産みだした」存在だが、見た目はおれが八歳、そいつは女子高生くらいの美少女だ。
パパってよばれるのは絵面的にどうかと思う。
……まあ、今の所おれとおれの嫁達にしか見えないから、絵面的にはどうでもいいのだが。
「それよりこれ」
「これって魔導書? これがどうしたの?」
「これ、かぶってる」
「かぶってる?」
「ああ」
頷くおれ。
クリスに見せた魔導書は、異世界にワープした主人公が、魔剣の二刀流で無双をしまくって、最終的にハーレムをつくりつつ、世界をすくう英雄に成り上がっていくストーリーだ。
おれと同じく異世界に転移したって事もあって、読んだ事があるって強く印象に残ってる。
「たしか……ここか?」
立ち上がって、本棚の一つに向かう。
そこから目当ての本を抜き出して、戻ってくる。
二冊の魔導書を広げて、比べる。
パラパラめくって、最後まで確認する。
「やっぱり一緒だ」
「そうだね、まったく一緒だね」
「そっか、かぶりだったのか、これ」
本を閉じて、二冊を見比べる。
マンガのダブりか、元の世界なら片方を処分すればいいだけだが、どうしようかな。
「ねえねえパパ」
「なんだ」
「ここにあるの、同じものじゃないの?」
「なんだって」
クリスのところにいって、彼女が見つめている本を抜き出した。
「確かに同じものだ」
「他にあるかな」
クリスはそう言って図書館の中を飛び回った。
おれは三冊になったダブりを見つめて、考えた。
「そういえばダブりになったのははじめてだな。おじいさんのときはダブったら買わなかったしな」
それをどうしようかと考えて、なんとなく三冊のうちの二冊を重ねた。
すると魔導書が光り出した。
重ねた二冊が光って、溶けて融合する。
しばらくすると、それが一冊になった。
「パパ! 何が起ったの?」
「魔導書が合体した」
「え?」
何が起きたのかわからないクリス、おれも自分でいってて何が何だかわからない。
融合した魔導書を手に取って、開く。
魔導書の内容は完全に変わっていた。
元になった魔導書に出てきたヒロインのキャラ、雷の魔法使いが主役になって大冒険をする話だ。
「……スピンオフか?」
思わずそういう感想だが出た。
人気漫画のスピンオフを読んでいるような感覚だ。
この世界にやってきて初めてのパターンだったから、面白くてよんだ。
そして最後まで読み終えて、魔導書を閉じる。
「読めたの?」
「ああ」
「なんか新しい魔法を覚えた?」
「そうだな……」
今まで通り、読めた魔導書の魔法を使ってみようとした。
すると、融合した魔導書が光った。
慌てて手を離す。光った魔導書は空中に浮かんで、そこから一人の女が出てきた。
ぶっちゃけ真っ黒なシルエットだった。
黒一色のシルエットで、とてもじゃないが人間ではない。
女だとわかったのは、そいつがマンガの中の魔法使いと同じ格好をしているからだ。
「なんだこれは、お前はなんだ?」
「……」
女は答えなかった。
その代わり待ってる魔法の杖をかざして、魔法を詠唱しだした。
「まさか!」
次の瞬間、稲妻が空から落ちてきた。
魔法でガードする。
「問答無用でやるつもり」
「……」
魔法使いの女は無言で詠唱を再開する。
「仕方ない」
おれも戦闘態勢にはいった。
☆
半壊した図書館の中で、影がぱしゅ、と消えていく。
「パ、パパ、もう大丈夫?」
クリスが物陰から聞いてきた。戦闘中、クリスはずっと隠れてた
「もう大丈夫だ」
「良かった……それにしてもすごいね、これ」
「ほぼ作中通りの強さだったな」
「そうなの?」
「ああ。それで――」
おれは魔法を使った。
魔法使いの女の影を倒した事で覚えた魔法を。
空がごろごろなって、雷が落ちてくる。
連続で雷が落ちてきた。
「これ、さっきのが使ってた魔法?」
「ああ」
「すごーい」
魔法使いの影を倒して覚えたのは、そいつが使ってた魔法だった。
そいつが相手でよかった。スピンオフ前の主人公が出てきてたら……どっちかが死んでたな。
にしても、今のって一体。
「ねえパパ」
「うん?」
振り向き、クリスを見る。
クリスは地面を見つめていた。
戦闘のあと、散乱した魔導書だったが、そこに同じものが一緒になって転がっていた。
またしてもダブりだ。
「……」
おれは無言で近づいて、二冊の魔導書を重ねた。
するとそれも融合して、一冊の魔導書になった。
新しい魔導書は、空飛ぶみかん箱に乗った、スカーフを巻いた子犬のたびを描いた絵本チックな話だった。
読み終わったあと出てきたのは、スカーフを巻いたかわいい子犬の影だった。
ちょっと罪悪感を芽生えたが、優しくそれを倒して新しい魔法を覚えた。
どうやら、ダブった魔導書を使えば新しい魔法を覚えられるようだった。