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ツーランク上のモテ

 この日、ナディアと二人っきりでデートした。


 おれもナディアも「グロースフェイク」の魔法で大人の姿になってる。


 大人の姿でデートしよう、って誘われてこうした。


 ちなみに今ナディアに腕を組まれてる。


 大人になったナディアはかなりの巨乳で、組んでて柔らかい感触が伝わってくる。


「ルシオくんルシオくん、あれなんだろ」


 ナディアが指したのは食べ物を扱ってる屋台だ。


「棒で果物をを串刺しにして……何かを塗ってるのか?」


「行ってみようよ」


「ああ」


 頷き、ナディアと一緒に屋台に向かう。


「へいらっしゃい!」


「ねえねえおじさん、これって何? 果物に何をかけてるの?」


「これは砂糖を溶かしたシロップさ。こうしてまぶして魔法で冷やせば――ほら」


 店の人はそういって、串刺しにした果物をシロップにつけて、言葉通り魔法で冷やした。


 すると果物の表面に硬い、パリッとしたシロップのコーディングができあがる。


 今やったのはバナナみたいな果物だ。


「一個どうだい?」


「うん! ルシオくん、いい?」


「もちろんだ」


 おれは小銭を出して、一本分の料金を払った。受け取ったフルーツ串をナディアに渡す。


 ナディアはそれをかじる、パリッ、とした気持ちいい音がこっちにも聞こえてきた。


「あはは、これすっごーい、外はパリッとしてるのに中ふにゃふにゃのやわやわだ」


「へえ」


「ルシオくんも一口どう?」


「ん」


 ナディアの食べかけをかじった。


 彼女が言ったとおり外はパリッとしてて中はふわふわだ。更にいえば外は冷たくて中は温かい。


 刺身のタタキ? それの逆バージョンを食べてるような不思議な感覚。


 でも。


「美味しいよね」


「ああ、うまい。こっちの果物も食べてみるか?」


「半分こならいいよ」


「オーケー。おじさん、こっちのも一本くれ」


 更に金を払って、今度はトマトみたいなのを串刺しヤツをコーディングしたのをもらう。


 まるで団子串みたいなのを、ナディアがまず一個、おれも一個口に入れた。


「あははは、外硬くて中プシュッってしてる」


「ちょっと皮が固いいくらみたいな感じだな」


 面白い食感だった、面白いだけじゃなくて美味しい。


「お兄ちゃん達恋人かい? 中がいいね」


「恋人じゃないよ、夫婦だよー」


「へえ、その歳でもう結婚してるのか」


「八歳の時に結婚したんだ」


「おお、じゃあ夫婦歴はおいらよりも上だ」


 店のおじさんは笑いながらそういった。


 おれ達の見た目だと、八歳から結婚してたら結婚歴十年以上に見えるだろう。


「でもお兄ちゃんは毎日気が気じゃないだろ、こんなに可愛い嫁さん、モテモテで心配なんじゃないのか?」


「大丈夫、あたしはルシオくん一筋だから」


「熱々だねえ」


「それに、ルシオくんの方があたしよりもずっとすごくて、ずっとモテモテだから、心配するのはこっちよ」


 ナディアは楽しそうな笑顔で言った。


「おおっと、こいつあごちそうさまだ」


 のりのいい店主に別れを告げて歩き出した。


 腕を組んだまま。


「あっ、ルシオくん、ちょっとここでまっててくれる?」


「うん? どうした」


 聞き返すと、ナディアが顔を赤らめてもじもじしてるのが見えた。


 きいてからちょっと後悔した。多分、トイレかなんかだ。


「いいよ、待ってる。行ってらっしゃい」


 だからそれ以上何もきかず、送り出す。


 ナディアは恥じらったまま頷き、小走りで去っていった。


 おれはそこでしばらく待った。


「あの……」


 横から声をかけられた。


 見ると、身なりのいいお嬢様っぽい女の子が声をかけてきた。


 女子高生くらいの女の子はおずおずとおれを見上げて、きいてきた。


「る、ルシオ様ですよね」


「うん? ああそうだが」


 ちょっと驚く。「グロースフェイク」で大人になったおれの姿を知ってるのかこの子は。


「わたしアナスタシアっていいます。先日の国王陛下のパーティーでお会いした……」


「ああ」


 頷き、納得した。


 確かに、おれの大人の姿を知ってるのはほとんどあのパーティーにいる人間だけだ。


 おれはその時の事を思い出そうとしたが、目の前にいるアナスタシアの事はどうしても思い出せない。


「ご、ごめんなさい。お会いしたのは嘘です。あの日遠くから見てただけです」


「そうか」


 じゃあ思い出せないのも仕方がない。


「あの!」


「な、なに」


 鬼気迫る表情で詰め寄られる。あまりの剣幕にこっちがたじろいだくらいだ。


「あ、握手! してもらえませんか?」


「握手?」


「はい!」


 おれは自分の手を見つめて、それからアナスタシアに差し出した。


 アナスタシアは両手で握り締めてきた。油断してたらちょっと痛いくらいの強い力だ。


「ありがとうございます! これからもルシオ様の事を遠くから見守らせてもらいます!」


「そうか」


「本当にありがとうございますう! 失礼します」


 お嬢様のアナスタシアは腰を九十度に曲げる、何度も頭を下げて、その場から去っていった。


 その姿をじっと見つめて。


「『フェアリーウィスパー』――魔法に興味あったらいつでも図書館に遊びに来て良いぞ」


 魔法をかけて、言葉をおくった。


 離れた場所にいる人間の耳元でささやきボイスを届ける魔法だ。


 アナスタシアは立ち止まって、びくっとして、おそるおそるおれを向く。


 笑いかけてやると、満面の笑顔で頭を下げて、今度こそ立ち去った。


 一人になって、ナディアを待つ。


 ……遅いな。


 いくら何でもちょっと長いと、おれはナディアを探しに行った。


 しばらく探すと、ナディアを見つけた。


「いいじゃん、一緒に遊ぼうぜ。おれの事を田舎貴族だと思ってない? こうみえてもおれ、メチャクチャ都の事詳しいんだぜ」


「は、はあ」


 なんとナディアがナンパされていた。


 しかも珍しい事に、それに困ってる。


 それもそのはず、ナディアをナンパしてるのは。


「……なにしてるんだ、兄さん」


 近づき、声をかけた。


 ナディアをナンパしてるのはイサークだった。


「はあ? なんだお前は」


「……」


 おれはあきれ果てて、魔法を解除した。


 瞬間、おれもナディアも元の姿に……八歳の子供の姿に戻る。


「ルシオ! それにナディアか!」


「お久しぶり、お義兄さん」


「お、お前だったのか……」


「兄さん、よりによって弟嫁をナンパするのはどうかと思うぞ」


「う、うるさいな!」


 イサークは逆ギレ気味に言って、去っていった。


 プンプンおこって大股で立ち去ったかと思えば、途中で別の女の子を見つけて、ナンパ用の顔をつくって声をかけた。


「あっ、断られた」


 ナディアがつぶやく。


「あの誘い方じゃ無理だろ」


「どう誘えばいいの?」


「どう誘えばって?」


「誘う方法知ってるような言い方だったじゃん? どうやるのか見せてよルシオくん」


「おいおい、デート中だろ」


「うーん、でもルシオくんのかっこいい所みたい」


 そっちの方が優先順位高いのか。


 まあ見たいって言うのなら仕方ない、さてどうしようかと考えたその時。


「あの! すみません!」


「公爵様ですよね!」


 声をかける前に、逆に声をかけられた。


 かけてきたのはやはりお嬢様風の、今度は姉妹っぽい顔つきが似てる二人の少女だ。


「ああ、そうだ。前のパーティーで会ったのか?」


「はい! 遠くからずっと見てました!」


「一度公爵様にご挨拶したいってずっと思ってました」


 姉妹はやはり大興奮で、思いの丈をぶちまけてきた。


 それを横で見てたナディアはものすごく納得した顔で。


「そっか、ルシオくんはもう、黙ってても向こうから声をかけられるレベルなんだ」


 と言っていたのだった。

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