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にゃんことわんこ

 パシャーン。


 屋敷の外に水音が聞こえた。


 読みかけの魔導書を置いて立ち上がる、窓の外にびしょ濡れのマミが見えた。


 猫耳の少女は耳からしっぽ、服まで完全にびしょびしょ。


「どうしたの……マミちゃん!」


「濡れちゃった」


「たいへん、着替えなきゃ」


 駆けつけたシルビアがマミの手を引いて屋敷の中に連れてくる。


 気になって後をおった。


 床の水滴を道しるべにする。


 マミの部屋にやってくると、シルビアがタンスの前にして困り果ててるのが見える。


「どうした」


「あ、ルシオ様。実はマミちゃんの服がないんです」


「ない?」


「全部洗濯中でないんです。マミちゃんとココちゃん、洗濯物多いから」


 そりゃそうだ。


 ココとマミは一心同体的な存在だ。


 ココは犬耳の少女で、マミは猫耳の少女だ。


 二人は同じ体を共有してて、水をかぶるともう片方に変わってしまうという体質の持ち主。


 そのせいか二人の洗濯物はシルビアやナディアの倍以上で、今はそれで困ってるという。


「すぐに乾かすから、ちょっと待っててねマミちゃん」


「……」


「ああいや、こっちで何とかする」


「ルシオ様が?」


 部屋の外に駆け出そうとしたシルビアが立ち止まっておれを見る。


 マミも首をかしげておれを見る。


 おれはパチンと指を鳴らして魔法を使った。


「『ドレスアップ』」


 おれがよく使う魔法の一つ、服装を変える魔法だ。


 魔法の光がマミの体を包んで、服装を変える。


「わああ、かわいい!」


 シルビアが目を輝かせた。


 マミに変えたそれは「メイド服」だ。


 アマンダが着てるクラシックタイプのメイド服ともまた違う、いわゆる「萌え系」のメイド服だ。


「ああ、前から思ってたけど、お前とココはこういうのが似合うな」


 おれはメイド服マミを見つめて、うんと頷いた。


 猫耳のにしっぽの美少女、可愛いメイド服。


 ネコだから表情が乏しい感じなのもまたあってていい。


 おれとシルビア、二人がガン見する。


 マミはぶすっとして、いやそうな顔をした。


「これいや、もどして」


「そんな、もったいないよ」


「……戻さないなら、服が乾くまでどっかいってる」


 そう言って部屋から逃げ出そうとするマミ。


 おれは新しい魔法をかけた。


「『アンチツンデレ』」


 光の輪っかが出て、マミの体を縛った。


 縛られて動けないマミ。


「捕まえる魔法ですかルシオ様?」


「……ああ」


 半分だけあってる。


 捕まえる魔法なのはそうだけど、本気で嫌がる人間はすぐにふりほどけるというものだ。


 マミはもがいたけど、ふりほどけなくて、こっちに拗ねた顔を向けてきた。


 ふっ、そんな顔をしても無駄だ。


「せっかくだし、色々着せ替えてみるか」


「でも……」


「『ドレスアップ』」


 シルビアに構わず魔法をかけた。


 マミはメイド服から体操服になった。


 猫耳に体操服。


「わあ、これも可愛い。ルシオ様、これってなんって服ですか?」


「体操着だ、見た事ないか?」


「はい」


「でも似合ってるだろ?」


「はい、すごく!」


 小さな握り拳をあわせて力説するシルビア。


「どうしてだろ、すごく似合ってて可愛い」


「こんなのもあるぜ……『ドレスアップ』」


 今度はスクール水着に替わった。


「これも可愛いです!」


「スク水っていうんだ。『ドレスアップ』」


「わあああ、わああああ」


 一段と興奮し出すシルビア。


「かわいいいい! なんですかこの下着、胸もとがにゃんこちゃんだ」


「これはな――」


「にゃああああ!」


 説明の途中でマミが魔法を振りほどいて逃げ出した。


 羞恥の限界を超えて、本当にいやになったらしい。


 ここまでだな、さすがに本当にいやなら無理強いはしない。


 そう思ったとき。


 パシャーン。


 部屋を飛び出した直後、マミが水をかぶった。


 コップを持ってたナディアとぶつかって水をかぶってしまった。


 それでココに――犬耳の少女に変身した。


「ごめーん、ぶつかっちゃった」


「大丈夫だ、それよりも着替えてこい」


「うん!」


 着替えのあるナディアは自分の部屋に着替えに戻った。


 シルビアはココに近づき、手を引いて連れてきた。


「ご主人様、お願いします」


 そう話すシルビアは、珍しく目に悪戯っぽい光があった。


 何を求めてるのか理解できた。


「『アンチツンデレ』――『ドレスアップ』」


 マミの時と同じ流れで魔法をかける。


 ココの体を光の輪が拘束して、直後に犬耳メイドになった。


「か・わ・い・い!」


 大興奮するシルビア。その気持ちはわかる。


 一方のココは自分の姿をみた。


「――っ!」


 魔法をふりほどき、声にならない声を上げて逃げ出した。


「あらら」


「ど、どうしたんだろ」


「本当にいやだったんだな。マミと比べてあれだけど……まあそこは人それぞれだ」


 ココはどうやら着せ替え人形に対する耐性がないらしい。


「そっか、残念」


 シルビアはとても残念がった。


 そして床の水滴を拭きだした。


 そこにココが戻ってきた。


 ドアの影に隠れてこっちの様子をうかがっている。


「ココ?」


 不思議がってると、ココが更に勇気をだして、部屋の中に入ってくる。


 そして、おれとシルビアの前にだつ。


「ど、どうぞですぅ」


 目をつぶって、思い切った様子で言う。


「うん?」


「ご主人様の……お好きにどうぞですぅ」


 ぷるぷると恥ずかしさをこらえる様子は可愛かった。


 いやそうな顔してたけど、本当にいやな限界値まで残ったマミ(ネコ)


 心底いやだけど、飼い主のために戻ってきてガマンをしようとするココ(イヌ)


 それぞれの特徴がでて、面白かった。


「ねえねえルシオ様、ココちゃんは何が似合うと思う?」


「そうだな」


 ココの健気さに報いるために、おれとシルビアはその後しばらく、ココにいろんな服を着せて遊んだのだった。

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