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嫁に乗ろう

 おれとナディア、二人で昼間っから風呂に入ってる。


 今日は朝からのんびりしてて、昼過ぎにナディアに風呂に誘われた。


「よいっしょ……よいっしょ」


 湯気がたっぷり充満してる風呂の中、ナディアは一生懸命おれの背中をごしごししている。


「ルシオくん、どっかかゆいとこない?」


「大丈夫だ、いまので丁度いい」


「そっかー」


 そういって、背中から腕、そして足も洗ってくれた。


 至れり尽くせりで、体も心もほこっとする。


「ああもう! また水かぶっちゃったじゃない!」


 声とともに、ガラガラガラと扉が開く。


 そこに猫耳娘のマミがいた。マミはずぶ濡れで、それで体を温めるために風呂に来たみたいだ。


「マミちゃん、ヤッホー」


「ナディ――きゃああああ」


 おれを見た途端マミが悲鳴をあげて、まわり右して脱兎の如く逃げ出した。


 まあ、真っ裸の男(ただし九歳)を見ればそう言う反応もするわな。


「マミちゃん?」


「ほっといてやれ。それよりもお前は大丈夫なのか?」


「なにが?」


 ナディアはきょとんとする。


「裸を見て、見られて恥ずかしくないって事だ」


「夫婦だから恥ずかしくないもん」


 ナディアは上機嫌にそう言って、更にごしごししてきた。


 どっかで聞いたような台詞だけど、あっちよりも説得力がある。


 そのままナディアにごしごし洗われて、流してもらって、それから一緒に湯船に入った。


「あー、きもちいー」


「そうだな」


「湯船に浸かるのって気持ちいーね」


 ナディアは足を湯の上にだしてバタバタさせた。


 おれは湯船の中にあるオブジェにもたれ掛かった。


 温泉を思わせるようなオブジェいりの湯船は見た目いい感じだが、その分ちょっと狭い。


 シルビアはいいけど、ナディアにはちょっと狭いんじゃないかと思う。


 案の定、落ち着いてられないナディアはこんなこといい出した。


「もうちょっと広かったら泳げたのにね」


「泳ぎたいのか? のんびりしようぜ」


「のんびりだからおよぎたいんじゃん? こんな温かいお湯のなかで泳げたらきっと気持ちいいと思うんだ」


「ふむ」


 なんとなくわかるようなきがする。


 水ならともかく、お湯の中ってのがみそだ。


「よし、泳いでみるか」


「どうやって?」


「『スモール』」


 おれとナディア、二人の体に魔法をかけた。


 ゴキブリ退治の時にも使った魔法で、二人の体がみるみるうちに小さくなる。


「ここに上がれ」


「うん!」


 小さくなりきる前に、おれがもたれてたオブジェの上に上がった。


 そこでサイズが小さくなりきった。


「すごーい、湖に島みたい」


 ナディアが感想を言った。おれも同じように感じた。


 小さくなったおれ達は、まるで湖の上に浮かぶ小さな島にいるかのようだ。


「あははは、湖のがあったかーい」


「これなら泳げるだろ?」


「うん! えい!」


 パシャーン、とナディアが飛び込んだ。


 大はしゃぎで泳ぎまくる。


 おれは川岸に腰を下ろして、落ちないようにして、下半身を湯の中に浸かる。


 ふと何かが流れてきた。


 よく見るとそれはおれの髪の毛だった。


 細い細い髪の毛が、サイズのせいでちょっとした縄に見える。


「あー、たのしかった。ルシオくんは泳がないの?」


 オブジェ――島に上がってきたナディアはそう聞いてきた。


「いやおれはこうしてまったりしてるだけでいい」


「そっかー、じゃああたしもまったりするー」


 そう言って、おれの横に腰を下ろして、肩を並べて座った。


 足でパシャパシャお湯を蹴りながら、とにかくまったり。


 しばらくして、足音が聞こえた。


「ルシオ様、夕ご飯は――あれ?」


 ドアが開いてシルビアが姿を見せた。


「あはは、シルヴィまるで巨人だ」


「確かにそう見えるな。シルビア、おれはここ――」


 言いかけた途中でナディアに口を塞がれた。


「ナディア?」


「面白いからもうちょっとこのままで」


 何が面白いんだろうか。


 一方で、シルビアは風呂の中におれが居ない事を不思議がる。


「どこに行ったんだろルシオ様、それにナディアも。服はあるのに……」


 きょろきょろ中を見る。


「ルシオ様なら大丈夫だろうけど」


 シルビアはそう言って中に入ってきた。


 手を湯船に入れてきた、湯を抜こうとしてるみたいだ。


「これ……ルシオ様の髪……?」


 シルビアの動きが止まった。さっきおれが見た髪の毛をまじまじと見た。


「ルシオ様の髪……ルシオ様が入ったお湯……」


 ぶつぶつ何かつぶやくシルビア。


「お、お湯を抜く前にわたしもはいろうかなー」


 なんか白々しかった。


 いったん外に出て、もそもそと物音が聞こえて、そのあと戻ってきた。


 服を脱いだ裸の姿。


 フォルムは八歳の子供のまま、しかしサイズは巨人。


 普通ではあり得ないアンバランスさだ。


「あははは、シルヴィ面白ーい」


 ナディアも同感のようだ。


 シルビアは体を洗ってから湯船に入ってきた。


 肩まで浸かって、ほぅ……、と息を吐く。


「ルシオ様に包まれてるみたい……ルシオ様」


「だって」


 ナディアがおれを肘でつんつんした。なんかちょっと恥ずかしい。


「気持ちいい……そうだ」


 シルビアが浮かんだ。


 体が脱力しきって、お湯の中に寝っ転がるようにして浮かび上がった。


 湯船の中でたゆたうシルビア、その姿は見るからに幸せそうだった。


 それを見ていたかった、が。


「よいしょ、よいしょ」


 ナディアがシルビアに近づき、よじ登った!

「ナディア!?」


「え? ナディアちゃん!?」


「やっほー」


 気づいたシルビアに、手をあげて陽気に声をかけるナディア。


「ど、どうして?」


「ルシオくんの魔法でちっちゃくなって、お湯の湖を楽しんでたの」


「ええええ? じゃあルシオ様も?」


「ここにいるぞ」


「あわわ……」


 ちょっと焦りだすシルビア。


 ナディアが乗っかってるのでまともに動けない姿がちょっとおかしくて、可愛い。


 そのナディアはシルビアの上に寝そべった。


 まるで砂浜でうつぶせになって日光浴するかのように。


「シルヴィ号だね、お船の」


「お、お船?」


「ルシオくんもきなよ。一緒に乗ろ? シルヴィ号」


「ふむ」


 ちょっと考えて、おれはそうした。


 楽しそうだったからだ。


 シルビアの上に乗って、おれは仰向けになって寝る。


「たしかに気持ちいいな、これ」


「でしょー」


 仰向けのまま頭をのけぞらせると、シルビアと目が合った。


 にこりと笑いかけた。シルビアははにかんだ。


 それを機に、三人の動きがとまった。


 湯船に浮かぶシルビア、その上に乗っかってごろごろする小人のおれとナディア。


 ごろごろして、たまにつんつんして、ナディアに手で湯をかけてもらう。


 湯が冷えるまで、おれ達はそのままのんびりしたのだった。

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