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嫁のおねだり

 庭でココと遊んでいた。


「今度は少し難しくなるぞ……それ」


 ボールを山なりに投げる。


 野球のものとほぼ同じサイズのボールが放物線を描いて飛んでいく。


 ココがそれを追いかけた。スカートの中からしっぽをバタバタさせて追いかけていった。


 パチンと指を鳴らす。


 空中でボールが三つに分裂して、はじけるように三方向に飛んでいった。


「わあぁ」


 慌てると思いきや、ココは楽しそうだった。


 飛んで一つをキャッチして、急な方向転換でもう一つキャッチ、全くの反対方向に飛んでいったヤツをヘッドスライディングでキャッチする。


 三つのボールを全部落とす事なくキャッチした。


 それを持って戻ってきた。


「もう一回行くか?」


「うん!」


「今度はもうちょっと難しくなるぞ……それ」


 更にボールを投げた、同じように途中で魔法をかけた。


 今度はものを透明にする魔法をかけた、ボールが空中で透明になって見えなくなる。


 立ち止まるココ。さすがに難しすぎるか?


 と思いきや、鼻をスンスンと鳴らし出した。


 そこで方向修正をして、飛びかかる。


「やったぁ」


 おれには見えないけど、キャッチしたみたいだ。


 それでまた戻ってきて、おれにボールを渡す。


 魔法を解いて、ボールを元に戻す。


 そしてまた投げる。


 魔法をかける、ボールが消える。


 さっきのとは違う魔法。ものを違う場所に瞬間移動させる魔法だ。


 それでもココは止まって、匂いを嗅いで、まったく違う方にかけていった。


 さすがワンコ、瞬間移動でも匂いは辿れるんだな。


 その場で待っていると、視線に気づいた。


 真横から来る視線。


 そっちを向くと、おれと同じくらいの年頃の男の子がいた。


 8歳くらいの、生意気そうな男の子だ。


 目が合うと、そいつはこっちに向かってきた。一応おれの屋敷の敷地なんだけど。


「おいお前」


「なんだ」


 (見た目は)子供同士だから、子供モードじゃなくて普通に返事した。


「おまえの嫁、浮気してるぞ」


「……は?」


「さっさと離婚しろ」


「意味がわからないんだが」


「さっさと離婚して彼女を解放しろ、いいな!」


 男の子はそう言って逃げる様に立ち去った。


 敷地を出て、物陰に隠れて……隠れきってないけど……おれをじっと見つめてくる。


「シルビアー」


 まずシルビアを呼んだ。屋敷の中からシルビアが出てくる。


「どうしたんですかルシオ様」


「ちょっとこっちに来て」


 シルビアを呼び寄せて、抱きついた。


「ルシオ様?」


 シルビアが不思議そうにしてる。力を抜いておれに体を預ける。


 おれは男の子の方を見た、特に表情に変わりはない。


「どうしたんですかルシオ様、いきなり」


「何でもない、それよりもナディアを呼んできて」


「はい」


 不思議そうにしながらもシルビアは屋敷の中に戻った。


 しばらくして、ナディアがやってくる。


「よんだー? ルシオくん」


「ああ、ちょっとこっちきて」


 同じようにそばにやってきたナディアにも抱きついた。


「えー、なになに」


 ナディアはシルビアと違って、おれの体に腕を回して、同じように抱きついてきた。


 ぎゅうってしがみつき、愛情表現をする。


 男の子の方を見た。


 ものすごく悔しそうだった、憎しみで人が殺せそうな目をしてる。


 なるほど、ナディアの事か。


 ナディアを離す。手を見る。


 左手薬指にはめてる指輪が健在だ。


 魔法で作られた指輪で、浮気をした瞬間に壊れるってアイテムだ。


 それが普通にある。


「どうしたのルシオくん」


「うーん。あの子を知ってる?」


 といって、男の子の方をさした。


 ナディアが男の子を見た。


「うーん」


 首をひねる、頑張って考えてる。


「うーん」


 唸って、必死に考える。


「うーん」


「わかったわかった、もういいから」


 いくら考えても出てこない、そんな雰囲気がしたからナディアを止めた。


「ちなみに、最近誰かに好きって言われた事なかった? それか何かプレゼントされたことは」


「ないよー。意地悪された事とかあるけど」


「意地悪?」


「うん、木の枝に毛虫乗っけてこわがらせようとするの――ってそうだあの子だ」


 いきなり思い出したナディア。


「おいおい」


 そっちかよ、って思った。


 小学生男子が好きな子に意地悪するパターン。


 でも話がわかってきた。


 あの子はナディアが好きで、その旦那のおれにわかれろっていいに来たのか。


 悲しいことに、ほとんどナディアの記憶に残ってない、存在すらほとんど認識されてない。


 逆に悲しく思えてきた。


「またいたずらに来たんだね。ちょっと文句言ってくる」


「いいから」


 おれはナディアを呼び止めた。


「ほっといてやれ」


「でもさあ」


「いいから」


「うん、わかった」


 ナディアは素直に頷いた。


「代わりにお願いしていいかな」


「なんだ?」


「今度またあの子がいじめてきたら、ルシオくんが退治して」


 退治って、穏便じゃないな。


「ねっ、お願い」


 手を合わせてお願いされた。


 ナディアのその仕草はめちゃくちゃかわいかった。


「わかった」


 おれは頷いた。


「わーい。じゃあ今日は見逃す」


 そういって、いったんおれに抱きついてから、大喜びで屋敷の中に戻っていくナディア。


 おれは男の子を見た。


 その時が来たらせめて手加減はしてやろう、おれはそう思ったのだった。

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