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パパとママと魔導書の精霊

「ふう……今日はここまでにしようかな」


 図書館の中、丸一日魔導書(マンガ)を読んでたおれが伸びをした。


 体がばっきばきする、目がしょぼしょぼする。


 今日だけでも30以上の魔法を覚えたけど、その代わりものすごく疲れた。


「えー、もっと読もうよ」


「続きは明日だ、さすがにもう疲れた」


「えー」


「……」


「ねえねえ、今日はもうこれで良いけど、あしたはもっと読んでくれる?」


「……」


「ねえ」


「お前誰だ!」


 普通に会話してたけど、途中からおかしい事に気づいた。


 パッと横をむく、そこにすっけすけの女の子がいた。


 すけすけといっても服がじゃない、女の子全体だ。


 女子高生くらいの女の子は、体が透けて向こうが見えて、その上空中に浮かんでる。


「……幽霊か?」


「うーん、ちょっと違うかな。どっちかって言うと精霊?」


 女の子は少し考えて、答えた。


「あっ、わたしの名前はクリスティーナ、クリスって呼んじゃっていいよ」


「クリスか、おれはルシオ。で、精霊ってどういう事だ?」


「うんとね、魔導書の精霊なの、わたし」


「魔導書? こいつの精霊か」


 今し方読んだヤツを掲げて見せた。


 読み終わったあとに現われたから、そういうことなのかなって思った。


「ううん、違うよ。あっ、守護霊って言った方がいいかも?」


「ますますわからない」


 幽霊だったり精霊だったり、守護霊だったり。


 一体何なんだ?


「もっとわかりやすく一から説明してくれ」


「あなたがいっぱい魔導書を読んだから、その魔導書の魔力がたまって、形になったのがわたし。えっとね、人って誰でも『種』を持ってるのね。その種を育てるのが魔導書の魔力で、魔導書を読み続けると、こんな風にわたしみたいなのが生まれるのさ」


「へえ」


「へえって、なんか反応うっすーい」


「いや薄いって言われてもな」


 つまり、マンガをたくさん読んだから、そのマンガの精霊が生まれた、って事なのか。


「だから、もっと魔導書を読んで?」


 クリスはシナをつくって、おねだりしてきた。


「なんで?」


「だってさ」


 手を伸ばしておれが持ってる魔導書に触ろうとした。


 が、すり抜けた。幽霊だからな。


「今は触れないんだ、何も」


「ふむ」


「でもあなたがもっと魔導書を読んだら、ますます魔力が集まって、わたしの体の密度も上がって――」


「ああ、より具現化するってことか」


「そう! だから、ね。もっと魔導書を読んで」


「話はわかった」


 おれは読んでた魔導書をぱたんと閉じて、本棚に戻した。


 そしてすたすたと歩いて、図書館から出る。


「ちょ、ちょっとまってよー」


 クリスがついてきた、おれの真横をぴったりと飛びながらついてくる。


「あそこから出られるのか」


「そりゃ出られるよー。わたしはどこにでも行けるしなんにでもなれるんだから」


「マンガみたいな台詞だな」


 なんかのマンガで読んだ事ある気がする。


「それよりももっと読んでよ、ねっ」


「……」


「ねえ、パパー」


 立ち止まった。


 目を見開いてクリスを見た。


「パパー?」


「うん、パパ。あなた、わたしの、パパ」


「何故片言! じゃなくてパパってなんだ」


「だってわたしを産みだしてくれる存在だから、パパじゃん? それともママ? お前がママになるんだよ! っていえばいいの?」


「なんだその台詞!」


「うーん、なんとなく頭の中にポンと出た? なんだろこれ」


 クリスは自分でもわからないって顔をした。


 ネタはわからないのか。


 マンガの力が具現化したものだからな、そういうのも頭の中にあるか。


 ……エロ方面だけど、あれ。


「とにかく今日はなしだ、本当に疲れた」


「えー」


「あそこにある魔導書はそのうち全部読むから、ゆっくりまて。それとも待てない理由でもあるのか」


「ううん、ないよー」


 クリスはけろっと答えた。


「パパが死ぬまでに読んでくれればいいから」


「なら素直にまて。ゆっくり読んでくから」


「ぶー。わかった、そうする」


 おれはクリスと一緒にあるいた。


 といってもおれが街中を歩いてるのを、クリスが飛んでついてくるだけなんだが。


「……だれも気にしないな」


 すけすけの女の子が飛んでるのにだれも気にしない、やっぱり見えてないからだろうか。


「そういえば、お前みたいなのは他にもいるのか?」


「わたしみたいなの?」


「魔導書を読んでできた精霊」


「今はいないよ? わたしで5000年ぶり3人目」


「甲子園か! ってそんなに離れてるのか、前の人と」


「みんな読めないからね、魔導書」


「……そうだったな」


「あっ、でもそう考えるとパパってすごいのかも? 五千年に一人の天才だ」


 褒めすぎだ――って思ったけど、事実がそうだし、悪い気はしない。


「ちなみに」


「うん?」


「完全に実体化したら史上初だよ」


「ほう」


 それはちょっと心引かれる。


 まあ、ゆっくりやっていこう。


 どうせやる事は今までと変わらない。マンガを読むことだからな。


 そうしてるうちに屋敷に帰ってきた。


「ただいまー」


「お帰りなさいルシオ様」


 パタパタとシルビアが出てきた。


 シルビアはおれを見て固まった。


 正確には、おれの横にいるクリスを見て。


「……きゅう」


 そのまま、何も言わずに倒れてしまった。


 慌てて抱き留める。ゴキブリの時と同じだ。


「おいどうしたシルビア」


 シルビアは気絶したまま答えない。


 直前の事を思い出し、クリスに聞く。


「おい、まさか今の――お前が見えたのか」


「そうみたいだね、なんか目があったし」


「おいまて、見えないんじゃなかったのか」


「そのはずなんだけどね……あっ」


「どうした」


「その指輪」


「指輪?」


 クリスがゆびさす、そこはシルビアの薬指で、魔法がかかった結婚指輪がはめられてる。


「まさかその人、ママなの!?」


「ママって言うな! ってまあ、おれの嫁だけど」


「じゃあそれだよ。ママに見えて当然じゃん?」


 クリスはけろっと言った。


 いや当然って。


「でもすっごい、パパ子供なのにもう結婚してるんだ」


「見た目の事を持ち出すのならパパはやめろ」


「えー、いいじゃんパパはパパだし」


 おれはため息ついた、さてどうしたもんかなと思った。


 ふと、ある事に気付く。


 気づいた瞬間、それがやってきた。


「ただいま、あっルシオくんだ――ってこれ誰?」


 ナディアが外から帰ってきた。


 そして当然の如く、クリスの姿が見えている。


「またママ!?」


 台詞がおかしい!

「ルシオくん、彼女誰? なんか透けてない?」


「パパすごーい、ちっちゃいのにお嫁さんがふたりもいるー」


「あたしナディア。あなたは?」


「クリスティーナ。クリスってよんで」


「わっ、握手しようと思ったらすり抜けちゃった。何これルシオくん」


「握手できなかったよパパ。ねえはやく魔導書もっとよんで」


 気絶するシルビア、とことなく楽しそうなナディア、いろいろ突っ込み満載なクリス。


 これからどうなるのか、それを考えると頭痛がしてきそうだった。


「できる人の悩みだね」


 うるさいわい。

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