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ドラゴンレース

 空の上にドラゴンが二頭いる。


 二頭のドラゴンはそっくりだ。


 それもそのはず、どっちもおれだからだ。


「おいおれ、しっかりシルビアを乗せろよ、落としたらぶっ殺すからな」


「そっちこそナディアを落としたら三代祟るからな」


 向こうとののしり合った。


 なんというか、むかつく。


「うわぁ……これがナディアちゃんがいつも見てる光景なんだ」


「うん! いいでしょこれ」


「うん、すごく綺麗。それに風も気持ちいい」


「でしょでしょ」


「それに……ナディアちゃんかっこいい。さすが噂の竜騎士ナディアだね」


「シルヴィもそのうちそうよんでもらえるって」


 おれ達の上でシルビアとナディアがほのぼのな会話をしていた。


 おれの上にナディア、おれ′の上にシルビア。


 シルビアは普通の格好で、ナディアは竜騎士の扮装で。


 なんでこうなったのかというと……。


     ☆


「空を飛びたい!」


 くつろいでるところにナディアがいきなり部屋に飛び込んできた。


 何となくよんでる魔導書を開けたまま腹の上に置いて、ナディアを見た。


「空?」


「うん、空! ほらここに来てからまだほとんど空を飛んでないじゃん?」


「ああ、あれか。竜になってナディアを乗せて空を飛ぶヤツ」


「うん! そろそろここの事をもっとよく知りたいな……ルシオくん、行こうよ、空へ」


「そうだな、よし」


 ナディアが空を飛びたいのと同じように、おれにもやりたいことがある。


 竜騎士ナディア。


 おれがドラゴンになって、鎧姿になっておれの背中に乗るナディア。


 バルサの町ですごく有名になって、ナディアにファンがついたほどだ。


 その勇姿を王都の人間にも見せたい。


 おれの可愛い嫁を自慢して回りたい。


 おれはナディアに腕を組まれて立ち上がった。


「ルシオ様――あっ、ナディアちゃんとお出かけ?」


 シルビアが入ってきた。


 おれ達を見て何か察したようだ。


「どうかしたのか?」


「ううん、お茶のお代わりいらないかなあ、って」


 そういうことか。確かにそろそろシルビアが聞いてくる時間だった。


 そういうことなら遠慮なく出かけるかな。


「行ってらっしゃい」


「ああ、行ってくる」


「……」


「ナディア? どうしたそこで考え込んで」


「そうだ! ねえルシオくん、シルヴィも一緒にいっていい?」


「シルビアも? おれは全然構わないけど」


「シルヴィもいい?」


「どういうことなのナディアちゃん」


「ぐふふ」


 にやにやするナディア。そこまで悪企みするような事でもないんだがな。


 おれ達は庭にでた、そこで魔法を使って、まずドラゴンになろうとした。


「トランスフォーム・ドラ――」


「あっ、待って待ってルシオくん」


 ナディアにいきなり止められた。


「まずはタイムシフト」


「タイムシフト? なんでまた」


「未来のルシオくんを連れてきて、そのルシオくんにもドラゴンになってもらうの」


 ちょっと考えて、はっとした。


「ナディアお前……頭いいな。その組み合わせ思いつかなかったぞ」


「もっちろん! いつもルシオくんの事を考えてるからね」


 それはちょっと恥ずかしかった。


     ☆


 ってことで今、おれはタイムシフトで連れてきた、一日後のおれ――おれ′と二人でドラゴンになって、それぞれの背中にマグネティクスでくっつけたシルビアとナディアを乗せて、大空を飛び回っていた。


 のってるシルビアとナディアは大騒ぎ、大喜びだ。


 やって良かったと思う。


「おい」


 おれ′が目配せしてきた。


 おれをみて、前をみる。


 自分の事だから、何をしたいのかよく分かった。


「バルサまでな」


「ああ」


 それだけで全部が決まった。


「ナディア、しっかりつかまってろ」


「シルビア、いくぞ」


「いけいけごーごー」


「えっ、えっ?」


 おれとおれ′は一斉に加速した。


 嫁を乗せて、空で加速する。


 この先にある、馬車で何日もかかったさきにあるバルサまでのレースだ。


 ぐんぐん加速していく、あっという間にトップスピードに乗った。


「あははは、はっやーい、ルシオくんよりずっとはやーい」


 どっちもおれだからスピードは一緒……だと思っていたけど、向こうのおれに少しずつ差をつけられた。


 おれのスピードが99だとすると、向こうは100。


 それくらいの小さな差。だけどどっちも最高速になってのそれだから、どんどん引き離されていく。


「おっかしいな、どっちもルシオくんなのになんで向こうのほうが速いんだろ」


「おれも知りたい」


「うーん、あ、ルシオくんルシオくん」


「なんだ」


「魔法で前の空気無くすことってできないかな」


「空気――はっ」


 おれはおれ′を見た。そいつはドラゴンの顔でにやりと笑った。


 そうか、そういうことか。


 そいつは明日のおれ、すでにこのドラゴンレースをやったあとのおれ。


 今のナディアのアドバイスを最初からしって、最初からやってたんだ。


 おれは魔法でルート上の空気を取り除いて加速したけど、相手は同じおれ、トップスピードで並んだだけだった。


 10分後、結局最後まで差は縮まらないまま、おれ′とシルビアに先にバルサに着かれたのだった。

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