わたしのために争わないで!
「ルシオや、いるかのう」
声に呼ばれて、おれは玄関にでた。
そこにおじいさんがいた。
実家にいるはずのおじいさんが何故かそこにいた。
「あれれー、どうしたのおじいちゃん」
「上がってよいか」
「もちろんだよ」
おじいさんを上げて、リビングに通した。
「お客様ですか――あっ、おじいさま」
シルビアが顔を見せた。
「お客様だとおもったらおじいさまだったんですね」
「客としてもてなしてくれてもよいぞ。ここはルシオの屋敷、わしは文字どおりの客じゃからな」
「えっと……」
シルビアはちょっと困った顔でおれをみた。
「じゃあシルビア、お客様用に、一番美味しいお茶と一番美味しいお菓子をだして」
「はい、わかりました!」
シルビアがリビングから出て行った。
おじいさんはリビングの中を見回した。
「ここがイサークが買った屋敷か」
「うん、そうだよ」
「……負担をかけてしまったようじゃな、ルシオに」
「そんなことないよ。丁度お屋敷がほしかったところだったし。家族も増えたし、丁度いい広さでたすかったよ」
子供モードで答える。
おじいさんは目を細めて、おれの頭を撫でた。
転生した二年ちょっと前からおじいさんがよくするなで方だ。
「そうかそうか。ルシオはさすがだな」
「ありがとう」
「ルシオくん、お客さんだよ-」
ドアがいきなり開いた。そこにナディアと、国王の姿があった。
国王はお忍びようの、質素な服を着ている。
「余の千呪公よ、遊びにきたぞ――むっ」
国王は機嫌のいい顔で入ってきたけど、一瞬でむっとなった。
おれをみて――いやおれを撫でてるおじいさんをみて不機嫌になった。
「余の千呪公よ、その老人はだれかな」
「え?」
「余の? ルシオや、こちらはどなたかな」
「えっと?」
なんか変な雲行きになってきたぞ。
「……あたし、シルヴィの手伝いしてくるね」
それをさっしたのかナディアが逃げ出した。
……あとでちょっとお仕置きしよう。
今はそれよりも二人の事だ。
おれの実のおじいさんと、王都にきてからお世話になってる国王。
二人の老人が真っ向から向き合って、パチパチ火花を散らしている。
……なんで?
「何者なのかは知らぬが、余の千呪公になれなれしいぞ」
「余の? ルシオは誰のものでもないぞ。誰なのかはしらんがそちらこそ図々しいのではないか」
火花が更に散った。
どういうこと、ねえどういうこと?
えっとこの場合、こういうのをおさめられる魔法って――そんなのあるか!
そもそもどういう状況なのかもわからないのに魔法もくそも。
とりあえずなんとかしようと思い、二人の間にはいった。
「王様、この人はぼくのおじいちゃん。普段は実家にいるんだけど、今日遊びにきてくれたんだ。おじいちゃん、この人は王様。ぼくが魔導図書館ですっごくお世話になった人なんだ」
「千呪公の祖父?」
「魔導図書館じゃと?」
二人の眉が同時にぴくりと動いた。
えっ、まさかこれも地雷?
と思ったけど。
「失礼した。千呪公の祖父であったとはな。余はエイブラハム三世、この国の国王だ」
「こちらこそ失礼した。わしの名はルカ・マルティン。ルシオの実の祖父じゃ」
「あえて光栄だ、マルティン殿」
「こちらこそ光栄ですじゃ、陛下」
「エイブラハム、それかエイブでよい」
「ではわしの事もルカとお呼び下され」
あれ? あれれれー?
なんだか、二人が意気投合したぞ? どうなってるんだこれ。
☆
針のむしろだ。
「ほう、つまりルシオは魔導書を読み解いて、古代魔法を再びこの地上に復活させたと」
「うむ、あれには驚いた。天気を操る古代魔法をまさかな。今となってはさすが千呪公といったところだが」
「そういうエピソードはわしにもあるのじゃ。しってるか、ルシオは魔導書の二度読みが趣味じゃ」
「二度読み?」
「そうじゃ、一度読んだ魔導書をもう一度、趣味で読むのじゃ」
「なんと! 魔導書をそのように読むとは」
「さすがルシオじゃ」
「うむ、さすが千呪公じゃ」
リビングの中で、すっかり意気投合した二人の老人が仲良く話している。
さっきまでの一触即発な雰囲気はない、が、これはこれでいたたまれない。
盛り上がってる二人、間に入ってるおれは褒め殺しにされて、穴があったら入りたい気分だ。
「そういえば、千呪公にこれをつくってもらったぞ」
国王はそう言って、おれが作ったアニメの宝石を取り出す。
それを起動させて、壁にアニメを流す――持ち歩いてるのか!
「むっ。そうだ、わしはルシオからこんなものをもらったのじゃ。ルシオ、前にお前が買ってくれた魔導書、なんと読めたのじゃ」
「むっ」
……仲良くしてると思ったら、二人はまた火花を散らし出した。
あれれれー、これ一体どうなってるの?
この日、二人のおじいさんが意気投合したり火花を散らしたり。
その繰り返しを何度もされて、おれは板挟みになって生きた心地がしなかった。
ジジイ・ミーツ・ジジイ。
ルシオラブな二人が遭遇した、というお話。




