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アニメ化

 この日、朝から国王は図書館に来て、くつろぎスペースで魔導書を読んでいた。


 服装はいつぞやの清掃員の格好、あの質素な服だ。


 おれが30分一冊のペースで読んでいる横で、国王はずっと同じ魔導書を、おれが前にすすめた魔導書を読んでいた。


「ふむ」


「どうしたの? 読んじゃった?」


 顔をあげて、子供モードで聞く。


「いや、まったく読めん。なんなのじゃこれは、こんなに難しく描くなんて、魔導書をかいたものは他の人間に読ませる気がないとしか思えん!」


 国王は怒り出した、かなりご立腹のようだ。


 難しいって、全然難しくないんだよなあ。横から国王が持ってるそれをのぞき込むけど、やっぱり普通のマンガにしか見えない。


「これを誰かわかりやすくしてくれんかのう」


 愚痴る国王。


 いや、マンガ以上にわかりやすくするのは無理だろ、それこそアニメとかにしないと――。


「アニメ?」


「どうしたルシオ」


 不思議そうな顔をする国王。


 一方でおれは自分のつぶやきを考え込んだ。


 この世界の魔導書はマンガだ、そしてマンガと言えばアニメ。


 おれの中ではアニメはマンガよりわかりやすいし、見るのが楽だ。


 もしかして、アニメならいけるんじゃ? って思った。


 となると必要な魔法は……。


 おれはしばらく考え込んだ。


 そろそろ2000くらいに届く魔法の中から使えそうなものを探した。


 ふたつの魔法の組み合わせと……協力者でなんとかなりそうだ。


「王様、ちょっとこれ借りるね」


 と言って、国王が持ってるマンガを手に取った。


「何をするのじゃ?」


「いいから、ちょっと待っててね」


「うむ? なんだか知らんが待ってるぞ」


 国王を置いて、魔導書を持ったまま外に出た。


 移動しながら、魔導書を読む。


 一度読んだ事のある内容だから、すぐに頭に入った。


 それを反芻する、最初から最後まで通しで思い浮かべる。


 パタンと本を閉じて、一つ目の魔法を唱える。


「クリエイトデリュージョン」


 妄想の内容を現実の世界に映し出す魔法だ。


 魔法は成功した。


 おれがマンガをよんで、頭の中で再構築したものが立体映像になって出た。


 さっきのマンガの内容そのままだ。


 歩きながらやったから、それを見た通行人がぎょっとした――けど無視する。


 歩いてるうちに屋敷に戻ってきた。


「ただいま! シルビア、ナディア、いる?」


 玄関で二人を呼んだ、すぐに足音がして、二人がバタバタ走ってきた。


「お帰りなさいルシオ様」


「はやかったじゃん。今日は遅くなるって言ってなかったっけ」


「それより頼みたい事があるんだ」


「あたしたちに?」


「そう――クリエイトデリュージョン」


 もう一度魔法を唱えてさっきの映像を出力する。


「わわ、これはなんですかルシオ様」


「動いてる、人形劇の魔法?」


「似たようなもんだ――これに合わせておれが言う台詞を言ってほしい」


 そういって、二人に耳打ちする。


 キャラクターの台詞を教えた。


「台詞、ちゃんと覚えた」


「うん、なんとか」


「これくらい余裕余裕」


「よし、じゃあ行くぞ。クリエイトデリュージョン――レコーディング」


 二つの魔法を連続で唱えた。


     ☆


 図書館に戻ってくると、国王がのんびりお茶をすすってるのが見えた。


「またせてごめんね、王様」


「よい、それよりも何をしにいったのじゃ?」


「うん、これを」


 おれが差し出したのは一つの宝石。


「これは?」


「これを持って念じてみてよ」


「こうかな?」


 国王は言われた通り、宝石を持って念じてみた。


 宝石が光り出した。光が一方向にすすみ、壁に映像を映し出した。


 プロジェクターのような感じだ。


「これはなんじゃ? 可愛い娘が二人で戦っているみたいじゃが」


「あっ、わかるんだ」


「むろんじゃ。むっ? この声は――ルシオの妻の声じゃな」


「うん、二人に声を当ててもらった」


「で、これは一体何じゃ?」


「あのね、これの内容」


 そういって、さっきの魔導書を国王に返した。


「おお、わしが読んでいた魔導書」


「その内容がこれなんだ。王様、わかりやすくしてほしいっていったから」


「おお、それでこんな風に翻訳してくれたのか」


 翻訳って言うか、アニメ化だけど。


「どう?」


「うむ、わかる、わかるぞ。むっ、この娘たち、親友同士なのか?」


「うん、親友だけど敵味方に分かれて戦う話だよ」


「それはむごい。なんとかやめさせられないものか」


「そう言う話だからね」


「むむ、こっちの黄色い髪の子がやられたのじゃ。あっちは何故親友に全力をだしたのじゃ」


「えっとね」


 おれと国王はおれが作ったアニメをみて、話に花をさかせた。


 普通に見れて、普通に内容の話ができる。


 そうか、アニメにしたらわかるんだ、それもすぐに。


 動画が最後まで流れたあと、おれは国王にきいた。


「ねえねえ、魔法は覚えたの?」


「むっ、そうかこれは魔法書の翻訳だったか」


「うん。ねっ、ライト、って唱えてみて」


「うむ――ライト」


 国王は魔法を唱えた。


 しーん。


 何も起らなかった。


 あの魔導書を読めたら、ライトという魔法を覚えられるんだが……。


「ダメのようじゃな」


「うん、だめみたい。ごめんね王様」


 ちょっと申し訳なくなった。


 国王は魔導書をよんで魔法を一度使ってみたいって言ってたからアニメにしたんだけど、やっぱりちゃんと魔導書を読まないとダメみたいだ。


「気にするなルシオ。その気持ちだけで十分じゃ」


「うん、ごめんなさい」


「それよりもじゃ。この宝石は何度でも使えるのか? 映像はおわったがまだ残ってるみたいじゃが」


「うん、何度でも使えるよ。そういう風に想い出を保存する魔法だから」


「よし。だれかー」


 国王が大声を出して呼ぶと外で待ってたお付きの人が入ってきた。


「お呼びでしょうか」


「うむ。今夜パーティーを開く、用意と招待を」


「かしこまりました」


 お付きの人が出て行った。


 パーティーって、この前みたいなヤツか?


 なんでいきなり。


「では、これをもらっていくのじゃ」


 国王はそういって、宝石を持って立ち上がった。


「え?」


「今日はこれの上映会じゃ。千呪公が余のために作ってくれたと、すごいだろうと自慢してくるのじゃ」


「ちょ、ちょっとちょっと」


 止めようとしたけど、国王は老人らしからぬ、軽やかな足取りで出て行った。


 というか、自慢って……。


 止めるべきかと一瞬悩んだけど。


「まっ、いっか」


 別に何か害があるわけじゃないし、国王のそれが、おじいさんがおれの事を――孫を自慢する時の姿とダブったから、止められなかった。


 後日、国王がしょんぼりとおれにパーティーの話を聞かせた。


 映像そのものよりも、集まった賓客は声優――シルビアとナディアの声の方が気に入ったらしかった。

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