夢の中へ
春眠暁を覚えず。
この日も朝からずっと、シルビアとナディアと三人で、ベッドの上でごろごろした。
魔法を使わなくてもベッドの上は温かくて快適で、すごく快適にごろごろできた。
「あっ……」
「うん?」
横でシルビアが声をだしたから、彼女の方を向く。
目が半開きで、目覚めたばかりみたいだ。
「夢……なの?」
なんだ夢を見てたのか。
シルビアはしばらくきょろきょろしてから、また目を閉じてそのまま寝た。
寝顔は気持ちよさそうだ。それを見てるだけでおれは幸せな気持ちになった。
「シルヴィ、なんの夢を見てたんだろ」
「うん?」
ナディアの方を見た。ナディアの方はごろごろしてるけど完全に起きてる。
「なんの夢なんだろうな」
「えへへ……ルシオ様ぁ……」
シルビアが寝言を言った。
「ルシオくんの夢を見てるらしいね」
「そうみたいだな」
「どんな夢なんだろ……二度寝する位だから、いい夢だよね」
「そうだな」
その気持ちはわかる。
いい夢を見て、もう一回見たくて二度寝して、それでもっといい夢を見る。
それはおれにも経験がある事だ。
「どんな夢なのか、あとでシルヴィに聞いてみよっと」
「……なんだったら今のぞいてみるか?」
ナディアに提案した。
「のぞくって、どうやって?」
「魔法」
「できるの!?」
驚くナディア、ベッドの上からパッと起き上がった。
顔がワクワクしてる、やれるのなら是非やりたい、そんな顔だ。
おれも体を起こす。丁度そう言う魔法を魔導図書館で覚えてきたばかりだ。
「やるか?」
「うん!」
「ならおれの手を掴んでて」
「こう?」
「それでいい、いくぞ――『ドリームキャッチャー』」
呪文を唱えて、魔法の光が二人を包み込む。
目の前が真っ白になった、全身を浮遊感が包んだ。
しばらくして、ぼんやりとした背景のないところにやってきた。
「ここは――あっ、この感じ、夢だ」
ナディアはすぐに理解した。ふわふわとしてて、焦点があってなくて背景とかがないこの感じ。
夢の中、明晰夢を見た時の感じそっくりだ。
「ここがシルヴィの夢の中?」
「ああ、そう言う魔法だ」
「すっごーい。ルシオくんすっごーい」
「さて、シルビアはどこかな」
ナディアにおだてられながら、シルビアの姿を探す。
ふわふわとした夢の世界の中、それはすぐに見つかった。
「あれ、シルヴィ?」
「ああ」
ナディアがわからないのも無理はなかった。
なぜならそこにいたのは大人版のシルビア。先日のパーティーでおれが魔法をかけて大人の姿にしたのとまったく同じシルビアだ。
彼女の横に一人の男がいる。
……メチャクチャキラキラしてて、イケメンの男だ。
「じゃああっちはだれ?」
「……誰だろうな」
おれはすっとぼけた、あまり言いたくなかった。
ナディアはしばらくじっとみつめて、ポン、と手を叩いた。
「わかった、あれルシオくんだ!」
「……」
「そうでしょ」
「……ああ」
おれは苦い顔をして頷いた。
そう、そこにいるのはおれだ。シルビアと同じように大人になったおれだ。
しかしそれはメチャクチャイケメンだった。おれが魔法をかけて大人にした自分よりも遙かにイケメンだ。
かなり美化されていて、あれがおれだ、っていうのが恥ずかしいくらい美化されてる。
そんな夢の中のおれとシルビアが向き合っていた。
「ルシオ様、あなたはどうしてルシオ様なの?」
おいおい。
「キミと出会うためさ」
うげえ……。
背中に悪寒が走った。夢ルシオの台詞で全身に鳥肌が立ってしまった。
こんな夢を見てるのかシルビアは。
「ああ……ルシオ様かっこいい」
いやいや……。
「甘い、甘すぎる!」
ナディアが大声をだして、大人の二人の間に割って入った。
「な、ナディアちゃん?」
「甘すぎるよシルヴィ。ルシオ様はこんなんじゃない」
どうやらシルビアの夢を――ある意味妄想を止めに入ったみたいだ。
軌道修正してくれるみたいだから、様子を見る事にした。
「じゃあ、どうなの?」
「うーん」
目を閉じて、額に人差し指をあてて考えるナディア。
「こんな感じ!」
ぱっと目をあけて言った後、夢のおれ――夢ルシオが姿を変えた。
それは一言で言えば……覇王だった。
精悍な顔つき、王冠つけてマントをなびかせ、自信に満ちた顔で遠くを見つめている。
その視線はやがて二人に注がれ。
「シルビア、ナディア。取りに行くぞ――世界を」
「はい! ルシオ様」
「ああんもうどうにでもしてルシオくん!」
うっとりしきった目のシルビア、自分を抱きしめるポーズで体をくねくねさせるナディア。
覇王ルシオのことを、二人とも気に入ったみたいだ。
「でも、これもちょっと違うかな」
「じゃあシルヴィが本当のルシオくんを見せてよ」
「うん、ちょっとまってて」
今度はシルビアが考える番になった。
しばらく考えた後、同じように夢のおれが姿を変える。
覇王ルシオと大体同じだった。
違うのは服装の色が白メインになってて、マントはあるけど、王冠はなく代わりに頭の上に輪っかが浮かんでいる。
おい……それってまさか。
「われはこの世の全てをすべし神なり」
やっぱり神かよ! つうか、やけに俗っぽい神だなおい!
「すごい……やっぱりルシオ様だわ」
「うん、ルシオくんじゃん……」
「えええええ?」
思わず声に出てしまった。あんなんでいいのか?
ぶっちゃけこの神より、最初のイケメンの方がよっぽど普通にいいと思うぞおれは。あれはあれでちょっとアレだけど!
「ねえシルヴィ、このルシオ様だと偉いのはぎりぎりで届くけど、かっこよさが足りないって気がするの」
「そっか……でも難しいよ、だってルシオ様はすごくてかっこいいんだから、わたしの想像力じゃ追いつかないよ」
……。
「それ賛成。そうだ、二人で一緒に考えてみようよ。あたし達二人なら一番素敵なルシオくんを作り出せるよ」
「うん! そうだね」
……。
盛り上がるシルビアとナディア。
おれは二人を置いて、夢から出た。
ベッドに戻ってきたおれは、顔が火を噴きそうな位恥ずかしかった。
覇王とか、神とか、しかもそれでもまだ足りないとか。
……なんか美化されすぎて、ちょっと恥ずかしい。
「ルシオ様……素敵」
「ルシオくん……素敵」
いつの間にかお手々をつないで寝ている二人の嫁。
顔はにやけてて、いかにも幸せそうだ。
本気でおれのことをそんな風に思ってるみたいで、おれはますます、恥ずかしくなったのだった。