自慢の嫁
パーティーに来ていた。
宮殿の中で開かれる、夜のパーティー。
主催者は国王、そのため参加者はほぼ全員貴族かお金持ちかっぽい、セレブっぽい外見だ。
もちろん会場もものすごくきらびやかだ。
「わわ……」
おれの横でシルビアが気後れしている。
ドレスアップの魔法でドレスを着せて一緒に連れてきたけど、パーティーの規模にあたふたしてる。
「る、ルシオ様」
「うん?」
「わたしなんか場違いのような気がします」
「そんな事ないだろ」
「でも、まわりはみんなすごく大人で、みんな紳士と淑女です。わたしのような子供はいません」
「それを言ったらおれのようなガキも他にいないさ。まあそんな事を気にするな。シルビアはおれの嫁、だから堂々としてればいいんだ」
「はい、わかりました」
頷くシルビア、でもがっちがっちにかたい。
ちゃんとしないとって緊張してるのがありありと見える。
「あっ、ルシオ様のお飲み物とってきますね!」
そういって、パタパタと走って行った。
いやそういうのは会場の人間に任せればいいんだが。
まあ、緊張させっぱなしより、何かする事あった方がシルビアも気が紛れるだろう。
それを遠くから見てると、シルビアに一人の男が絡んでるのが見えた。
イサークと同じような16・7の少年で、着てる服はおれが遠目から見てもわかる位高価そうなものだ。
おれは近づいていき、後ろから声をかけた。
「ねえねえ、ぼくの妻がどうかしたー?」
子供モードで話しかけた。
「ルシオ様!」
「ルシオ様ぁ?」
シルビアがおれのところに駆け寄ってきて、男が値踏みするような目でおれを見た。
「どうかしたの?」
「えっと……その」
「なんでおまえのような子供がここにいるんだ? ここがどんなところか、今日のパーティーがどんなものかわかってるのか?」
「ごめんなさい、わからないの」
ぶっちゃけこれは本音だ。
何かあるのか? 国王からの招待をうけたから来たんだけど、なんか違う真の目的とかあるのか。
「だろうな。おまえたちのような子供にはわからない事だ。子供はさっさと帰って、おままごとでもしてな」
少年はそういって、大股で去っていった。
離れた所にいる同じ位の年齢のお嬢様に声をかけて、楽しそうに話す。
「もどろうか」
「はい」
シルビアを連れて、元の場所に戻った。
「ごめんなさいルシオ様」
「うん?」
「わたしが子供だから、ルシオ様にご迷惑かけてますよね」
「別に迷惑なんかかかってないぞ」
「うん……でも……」
シルビアは大人達を見た。
視線を追うと、すごく大人びた美女をじっと見つめているのがわかった。
「早く大人になりたい……」
「なってみるか?」
「え?」
シルビアは驚き、おれをまじまじと見つめた。
「なってみるかって、どういう事ですかルシオ様」
「あんな風な大人の美女になってみるか、って意味だ。おれの魔法で」
「あっ……ルシオ様の魔法」
一瞬目を輝かせたシルビアだけど、すぐにしゅんとなった。
「いいです、わたしが大人になっても、あんな美女になれませんし」
「うん? いやそんな事はないだろ。シルビアが大人になったらあの人より美人になるぞ。毎日シルビアを見てるおれが保証する」
「でも……」
「百聞は一見にしかず」
シルビアの言葉をとめて、手をかざして魔法を使った。
近くにいる何人かがざわめく。おれがいきなり魔法を使い出したからだ。
それを無視して、シルビアに魔法をかけた。
「グロースフェイク」
魔法の光がシルビアを包み込んだ直後、体が成長した。
9歳のシルビアの体が一瞬で成長した。
おれが指定した16歳の姿に成長した。
シルビアは自分の姿を見て、驚いた顔でおれを見下ろした。
「こ、これって?」
「成長したあとの姿に変身する魔法だ。16歳くらいに設定した。つまり今の見た目が、シルビアが本当に16歳になったときの見た目そのものだ」
「すごい……こんな魔法もあるですね……」
感嘆するシルビア。おれはそんな彼女をじっと見つめた。
「うん、綺麗だ」
「え?」
「思った通り綺麗だぞシルビア。そうだな、この場にいる誰よりも綺麗だ」
「そそそそんな事ないです」
赤面して手をふるシルビア。が、おれのそれは素直な感想だ。
今のシルビアは綺麗だ。間違いなく、今日この場にいるどの女よりも綺麗。
もとが美少女だけど、ドレスアップされて美女になったのはあるが、それを抜きにしても一番綺麗だと本気で思ってる。
「あるさ。おれは幸せ者だ、シルビアと結婚出来たんだから」
「うぅ……る、ルシオ様ぁ……」
盛大に赤面して、困り果てた顔のシルビア。
でも、まんざらでもなさそうだ。
「ほら、もう照れるのはやめて。ぼくの妻としてもっと綺麗な表情をして」
「もっと、ですか?」
「そうだ、ぼくが自慢できるくらいもっと綺麗に」
「が、がんばります!」
シルビアはそういって、深呼吸して、表情をつくった。
今のは魔法の言葉だ、違う意味での魔法の言葉だ。
おれのために、っていう言葉はシルビアによくきく。
さっきまでの赤面が引っ込んで、落ち着いた表情になった。
ますます綺麗に見えるシルビア。彼女じゃないけど、こうなるとおれの方が釣り合わないように思えてくる。
自分にも魔法をかけて、せめて見た目は同年齢にしようか、と思ったその時。
「麗しい人よ」
聞き覚えのある声がシルビアに話しかけた。
さっきの少年だ。向こうからやってきた彼はなにやらきざっぽいセリフでシルビアに声をかけた。
「わたし、ですか?」
「他に誰がいますか。今日は素晴しい日だ、あなたのような美しい人と巡り会えるなんて」
「えっと……」
シルビアが困っている。
「わたしの名はディエゴ。よろしければあなたの名前を教えていただけませんか」
少年――ディエゴが貴族っぽい仕草で一礼して、シルビアを見つめた。
ますます困り果てるシルビアはおれを見た。
さっきと違う意味で困ってるのがわかった。おれの目から見てもまるっきりナンパだ、困って当然である。
「ねえねえ、ぼくの妻がどうかしたー?」
「むっ、なんだまたお前か」
ディエゴは冷ややかな目でおれを見る。
「場違いだから帰れって言ったはずだぞボウズ」
「ごめんなさい」
「というか今なんて言った、妻?」
「うん、妻。おいで」
シルビアに手招きをする、シルビアは笑顔を浮かべて、おれの横にやってきた。
身長差があるから腕を組めないけど、代わりに手をつないだ。
「ぼくの妻だよ。ねっ、シルビア」
「はい、ルシオ様」
「綺麗だよ、シルビア」
「わたしが綺麗なのはルシオ様のおかげです」
シルビアがそういって、従順な妻そのものの顔でおれを見つめた。
まわりからクスクス笑い声が聞こえる。
ナンパに失敗したディエゴを笑っている。
ディエゴはぷるぷる震えだして、顔を真っ赤にさせた。
さっきとは違って、妙齢のシルビアに実質ふられたのはいたたまれないものがあるんだろう。
「だ、だからなんなんだお前は、なんでお前の様な子供がいる!」
逆ギレのような感じで聞いてきた。
「余が招いたからだが」
「なに――陛下!」
国王がいつの間にかやってきて、ディエゴがそれをみて慌てて頭を下げた。
「申し訳ございません陛下、陛下の客人とは知らず」
「客人でもないのだがな」
「え?」
戸惑うディエゴ、国王はおれに話しかけてきた。
「よく来てくれた千呪公よ」
「千呪公? なにそれー?」
「千の魔法を操る公爵、千呪公。そなたの爵号だ、余が考えた。気に入らないのならまた考えるが」
「ううん? かっこいいからそれでいいよ。ありがとうね陛下」
「うむ。話を聞いていたけど、この娘がそなたの妻だというのはまことか?」
「うん、ちょっと魔法をかけてるけど、本当はこういう姿なんだ」
そういってシルビアの魔法を解いた。
元の9歳の姿に戻ったシルビアはほっとして、おれに腕を組んできた。
「はっはっは、なるほど、これはお似合いだ」
「ありがとう」
「お似合いだけではないな。これほど可愛らしい公爵夫人は我が国の宝だ」
「そんな……ありがとうございます」
恥じらうシルビア。
「ちなみに今の魔法はなんじゃ?」
「成長した姿に変装する魔法だよ。こんなかんじで」
もう一度グロースフェイクを使った。今度はおれとシルビアの両方にかけた。
見た目十六歳のカップルになった。
「お似合いの美男美女だな」
「それに今の魔法、あれはほとんど使い手のいない高等魔法だぞ」
「千呪公の名は伊達ではないということか」
まわりから称賛の声があがる。おれはいいけど、シルビアがまた恥ずかしいモードにはいった。
そんな風にシルビアと一緒に、国王と世間話をした。
大恥をかいたディエゴはひっそりと、しっぽを巻いて逃げ出したのだった。