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できる弟とダメ兄貴

 屋敷の食堂で、メイドに給仕されて、昼飯を食った。


「どうぞ、お坊ちゃま」


 朝におれの着替えを手伝ってくれたメイドだ。


 名前はアマンダで、若くて綺麗な人だ、そんな人にお坊ちゃまっていわれるのはちょっと落ち着かない。


「あのー、そのお坊ちゃまってのはやめてくれない?」


「はあ、ではルシオ様とお呼びしますね」


「いや様でもさ……こっちの方が年下だし、呼び捨てでいいよ」


 向こうも若いけど、こっちは見た目がまるっきり子供だ。


 客観的に小柄に見えるメイドでも、いまのおれは見上げなきゃいけない。


「それはできませんよ、マルティン家のお坊ちゃまを呼び捨てにするだなんて」


「マルティン家?」


 話の流れからしておれの家ってことか?


「はい。代々大地主でいらっしゃるマルティン家のご次男様に、ただのメイドであるわたしが呼び捨てにするなんてできません」


「……そっか、ごめん」


 メイドはなんか悲壮感漂う表情をしてた。どうしてもって言うのなら従うけど、でも……って顔だ。


 別にそこまでしてもらわなくていいので、無理強いすることはやめた。


「それよりも、兄さんはどこいるの?」


 いまおれの事を次男だといった、なら長男がいるはずだ。


「イサーク様は旦那様とお仕事でお出かけになってます」


「そっか」


 イサークという兄がいるんだな。


 最後にもう一つ、聞きたい事があった。


「どころで、日本って国をしってるか? それと地球って星は?」


「いえ、どちらも存じませんが」


「……そっか」


 それを聞いて、おれは上の空で昼飯を食べた。


 ルシオ・マルティン、in地球じゃない異世界。


 一体どうなってるんだろうな。


     ☆


 昼飯を食べた後、おれはまたおじいさんの書庫に向かった。


 実はさっき、じいさんから鍵をもらった。あそこにある本はどれも好きによんでいいぞって言われた。


 魔導書(※中身はマンガ)を普通に読めたことで、おじいさんにかなり気に入られた。それで鍵をもらった。


 マンガを読むのは好きだから、せっかくだし、読ませてもらうことにした。


 書庫に着いて、鍵を使って中に入る。


 本は山ほどあるから、とりあえず端っこから一冊を本棚抜き取って読もうとした。


「何をしてるんだルシオ」


「え?」


 顔をあげると、15、6位の少年の姿が見えた。坊ちゃん刈りでちょっとふっくらしてる見た目。


 そいつは廊下からこっちを睨んでくる。


 だれだ? こいつは。


「おまえは――」


「おまえだって?」


 少年は眉を逆立てた。


「何度も言ってるだろ、兄さんを見たらまず挨拶!」


 こいつがおれの兄貴なのか。


「えっと……こんにちは、イサーク兄さん」


 軽く頭を下げて挨拶した。


「ふん。それよりお前、こんな所で何してるんだ。ここはお爺様が大事にしてる書庫、無断で入ったら怒られるだけじゃすまさないぞ」


「それなら大丈夫、おじいさんから入っていいって言われたから」


「はあ? 嘘つくなよ」


 嘘じゃないんだけど。


「そもそもお前がはいってどうするんだ? なんだその手に持ってるの」


「え? 今から読もうかと」


「見せてみろ」


 イサークはおれの手から本を奪って、ぱらぱらめくりだした。


 パッと見た感じ、氷の魔法を使って人間サイズのカマキリと戦って裏庭の平和をまもる、という流れのマンガだ。


「よめるの?」


 おれはイサークに聞いてみた。


 イサークはなぜか間をおいてから。


「もちろんだろ」


 といった。


「ふむ、ならばその本の魔法をつかってもらおうか」


「えっ」


「あっ、お、お爺様」


 いつの間にかおじいさんが姿を見せた。


 イサークの顔が青ざめた。


 さっきまでおれに大いばりしてたのはなんだったんだ? って位青ざめた。


「庭にでよう、その魔導書に記された魔法を使ってもらおう」


「お、お爺様っ」


 イサークは抵抗するが、じいさんに無理矢理中庭に連れ出された。


 そしておれの時と同じように、魔法を使えという。


「さあ、使ってみるのじゃ」


「……」


「どうした、読めたのなら使える様になってるはずじゃ」


「うぅ……」


「それとも、わしの書庫に無断で足を踏み入れたあげく、出来ない事をできたと嘘ついたのか、お前は。マルティン家の男子にあるまじき行為をしたというのか?」


「そ、それならルシオも同罪です。あいつが読めるなんて言うから」


 話がこっちに飛び火した。


 おれは例の本を持ち出して、歩きながら読んで、今最後まで読み終えた所だ。


「言ったのか? ルシオ」


「うん」


「なら、魔法を使ってみろ」


「わかった」


「え?」


 イサークがビックリした。それを無視した。


 二回の試し打ちで黒焦げになった木に向かって、魔法を唱える。


「アイシクル!」


 数本の氷の槍が出現して、木に突き刺さった。


 さっきと同じように、本を読んだだけで魔法が使える様になった。


 ファイヤーボール、ファイヤーレーザー、アイシクル。これで三つ目の魔法だ。


「な、なななな……」


「おお、その本は氷の魔法か」


 おじいさんは感心していた。


「おじいちゃん、知らなかったの?」


 コ○ン口調で聞いた。


「わしには読めない魔導書じゃったからな」


 おじいさんはおれの頭を撫でた。


「ルシオは出来る子じゃな」


 や、マンガを読めただけなんだけど。


「だれか」


 おじいさんが屋敷に向かって呼びかける。メイドが一人現われる。


「イサークを離れに閉じ込めておけ、期間は三日間じゃ」


「かしこまりました……イサーク様、こちらへどうぞ」


「ちょっと待ってくださいお爺様! おれは今父さんの仕事を手伝ってるんです! おれがいなくなったら――」


「それは本当か? それともまた嘘か?」


「――っ!」


 イサークは慌てて口を押さえた。弁解しようとしてまた地雷を踏みかけたらしい。


 嘘はマルティン家ではあまりよろしくない行動らしい。


 イサークは何も言えなくなって、メイドにつれてかれた。


 ちょっとかわいそうだけど、自業自得だしな。


「さあルシオ、また本読みに行こうか」


 イサークを見るおじいさんの目は呆れた目だけど、おれを見る目は優しい目だ。


 出来のいい孫を見るような目。


「うん!」


 おれはじいさんと一緒に書庫に戻った。

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