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ノンストップ・ルシオ

 ウーゴが図書館から出て行ったあと、国王がなにやらため息を吐いた。


「どうしたの?」


 国王って知って微妙につっかえたけど、何とか子供モードのまま聞いた。


「そなたの事がふと羨ましくなったのだ。ルビーから聞いた話では、魔導書を1000冊以上読み解いたというではないか」


「うん、読んだよ」


「余は一冊も読めておらん。これほどの魔導書を収集しておいてな」


「うーん、それは仕方ないと思うな。だって王様なんだから。王様は忙しいから、魔導書なんて読んでる暇はないよ」


 今のは本音だった、そして本音はもう一つあった。


 この世界の魔導書はマンガだ、そしておれは元いた世界でマンガがどういうものなのかを覚えてる。


 国王ともあろうものがマンガを読んでる暇なんてないのは仕方ないことだ。


「……本気で思っているのだな」


「うん、本当にそう思ってるよ」


「それでも読めればと思うのだ。余も、魔法を使うのがどういう事なのかを一度は体験してみたいとおもう」


「そっか……ちょっとまって」


 国王をそこにおいて、おれは図書館の中をかけずり回った。


 おれが読んだ1000冊の魔導書から、更にいくつかの心当たりを抜き出して、それを図書館の中から探してきた。


 そうして持ってきたのは三冊の魔導書を国王に差し出した。


「はい、これ」


「これはなんだ?」


 国王が首をかしげて聞いてきた。


「こっちがね、ぼくのおじいさんが読んでた魔導書。一番読みやすいって言ってたヤツだよ。で、こっちはあるおばあちゃんが唯一よめたっていう魔導書、ドラゴンになる魔法をおぼえるものだよ。こっちがいろんな人に聞いて、一番読める人が多かった魔導書」


「ほう?」


「これならどれかは王様にも読めるんじゃないかな」


「……読めるのか」


「ごめんなさい、ぼくが読み方を教えられればいいんだけど……」


 ちょっとだけ申し訳なさを感じた。


 今までいろんな人に読み方を教えたけど、誰一人に教えられていない。


「だから、せめて読みやすいかもしれないって本を持ってきたの」


「そうか。よし」


 国王は魔導書を受け取った。


「卿の推薦だ、じっくり読ませてもらう」


     ☆


 国王と別れ、魔導図書館から宿に戻ってきた。


 宿の中に入ると、何故かロビーにイサークがいた。


「ようやく帰ったかルシオ。どこをほっつき歩いてた」


「ちょっとな。それよりなんで兄さんがここにいるの?」


「せっかくだから挨拶にきたんだ」


「挨拶?」


「ああ、おれもこれからラ=リネアに住むことになった、一応それを知らせに来た」


「そうなんだ」


「屋敷もかった。そのうちお前を招待してやるよ」


 いや別にいいよ。招待されても困る。


 そもそもなんでイサークがラ=リネアに来たんだ?


 それを聞こうとした時。


「ルシオ・マルティン様はおられるか」


 ドアを開けて一人の男が入ってきた。


 初めて見る顔の男だけど、ウーゴと似たような服を着てる。


 国王の使いの者かな?


「ぼくがルシオだよ」


 子供モードになって、男の前にたった。


「国王陛下のお言葉である、謹んで拝聴せよ」


「はい」


 男は羊皮紙を取り出して、広げてそれを読みだした。


「ルシオ・マルティン。その方の古代魔法復活の功績をたたえ男爵に任命する」


「ありがとうございます」


 さっき図書館で言ったやつだな。


 しかしこう来たか。古代魔法復活の功績、うん、筋は通る。


 国王はとにかく男爵にしろって言ってたはずだから、側近だか大臣だか、誰かがこの落とし所を考えたんだろう。


 おれは羊皮紙を受け取った。


 これ男爵になったのか――と、思っていたその時。


「ルシオ・マルティン様はおられるか」


 ドアを開けて別の男が入ってきた。


 さっきの男と同じような服装だが別人だ。


 ……どういう事だ?


「ぼくがルシオだけど?」


「国王陛下のお言葉である、謹んで拝聴せよ」


「はあ……」


「ルシオ・マルティン。第一王女救出の功績をたたえ子爵に任命する」


「……はあ」


「どうした、勅命を受けぬのか」


「いえ、えと……ありがとうございます」


 羊皮紙を受け取ると、男は満足げに出て行った。


 まさか連続で来られるとは思わなかった。まあ、ルビーを助けたのもそれなりの功績だしな。


「ルシオ・マルティン様はおられるか」


「またぁ?」


 またまた違う男が入ってきた。


 まったく同じ服装で、同じ流れで。


「ルシオ・マルティン。魔導書推挙の功績をたたえ伯爵に任命する」


 …………。


 マンガをすすめたから?


 いやまさかそんな――と思っていた。


「ルシオ・マルティン様はおられるか」


「うぇ?」


「ルシオ・マルティン。前人未踏の1000の魔法を覚えた功績をたたえ、侯爵に任命する」


「えと、はい――」


「ルシオ・マルティン様はおられるか」


「また!? どうなってるの?」


「ルシオ・マルティン。魔導書を本棚に戻した功績をたたえ、公爵に任命する」


「そりゃ戻すよ! というかもうなんでもいいわけ?」


 五人の使者が立て続けにやってきて、おれに五枚の羊皮紙を押しつけていった。


 怒濤の数分間、訳わからないうちに公爵になった。


 えっと……。


「ルシオ――」


「今度は何!?」


 パッと入り口を向いた。今度は違った。


 なんとそこにいたのはアマンダだった。


 実家の屋敷で働くメイド、融通は利かないけど、仕事はものすごく出来る人だ。


「アマンダ? どうしてここに?」


「先代様のご命令で参りました」


 アマンダはそう言って、おれの横をすり抜けて呆然となってイサークの前にたった。


 そういえばいたっけ、イサーク。


「イサーク様」


「――はっ、な、なんだアマンダ」


「先代様のお言付けです」


 アマンダは息を大きく吸い込んだ。


 そして、表情と雰囲気が一変する。


「家の金を無駄遣いするとは何事じゃ! 今すぐ屋敷を手放して戻ってこい!――でございます」


 最後はいつものアマンダに戻って言った。


 ていうか……イサーク。勝手に金を使って勝手に屋敷を買ったのか。何がしたいんだお前は。


 間接的におじいさんに説教されたイサークは真っ青になった。かと思えば顔を真っ赤にしておれを睨んだ。


「……お」


「お?」


「覚えてろよーーーー」


 と、懐かしい捨て台詞を残して、宿から飛び出していった。

 おれはため息ついて、アマンダにいった。


「アマンダ、おじいさんに伝えて」


「何をでしょう」


「兄さんが買った屋敷、ぼくが買い取るからって。それと図書館に入る許可をもらったから、いつでも遊びにきてって」


 アマンダは一瞬驚いた、しかしすぐに頷いて感嘆するように言った。


「さすがルシオ様でございます」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 公爵は王家の血筋の者しか拝命されないはずですが·····
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