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こども館長

 バルサを出て、シルビアとナディア、ココ/マミを連れて王都・ラ=リネアについたのは春先の事だった。


 道中は馬車の中でシルビア・ナディアとだらけきったいちゃいちゃをしてたから、意外と早く着いたって感じだ。


 ラ=リネアに入って、とりあえずの宿を取った。


 それなりの宿屋で、おっきい部屋を一部屋。


 泊まるのが嫁とペットだからこれでいい。


 ナディアとココが窓から外を見ていて、シルビアはおれの方に向かってきた。


「お出かけですか、ルシオ様」


「ああ、とりあえず王立魔導図書館に行ってくる、その後すむ家を探してくる」


「わたし達は何をしてればいいんですか?」


「適当に都の見物をしてていいぞ」


「わかりました。行ってらっしゃいませ」


 シルビアが言うと、窓辺にいるナディアとココも手を振ってきた。


「いってらっしゃーい」


「い、いってらっしゃいですぅ」


 三人をおいて部屋をでた。カウンターで筋肉マッチョのオーナーがいたので話しかけた。


「ねえねえ、王立魔導図書館ってどこにあるのー?」


「図書館? あんなところになんのようだ」


「ちょっとね、興味があるんだ」


「ふうん。それならここをでて、左にまっすぐ行って三つ目の通りで右に、そこから直進して行けばたどりつくぞ。他とは違う建物だ」


「他とは違う建物?」


「行けばわかる」


 筋肉マッチョは同じ言葉を繰り返した。そんなにわかりやすい、目立つ建物なのかな。


「わかった、ありがとうおじちゃん」


 子供モードでお礼を言って、宿屋を出た。


 マッチョマスターの言われたとおりの道を進んだ。


 ラ=リネアは王都だけあって、かなり賑やかだった。


 人々が行き交い、活気に満ちあふれ、その上バルサにいた頃は見た事の無い様な商品があっちこっちの店で売られている。


 落ち着いた色々見て回りたい、シルビアとナディアと一緒にあっちこっち回りたいと思った。


 しばらく歩いていると、それが見えてきた。


「……なるほど、これはわかりやすい」


 その建物は上下が逆さまだった!

 大きくて、立派で、「王立」って言葉にふさわしいくらい綺麗な建物だった。


 ただし上下が逆さまだ! まるで屋根が地面に突き刺さっているような、そんな感じのする建物。


 他と違うって意味なら、間違いなくこれのことだ。


 おれは入り口っぽいところから中に入った。


 中は更におかしかった。


 内部も上下逆さに出来てるのに、カウンターとかテーブルとか椅子とかは普通だ。


 それでいて本棚は上下逆さで屋根から生え降りてる。


 誰が、どうやってこんなものを作ったのか、ちょっと気になった。


「おう坊や、ここは子供が来る場所じゃないぜ」


 声の方に振り向く、そこにでっかい男がいた。


 身長は余裕で二メートルを超えてる。図書館ってよりはスタジアムが似合いそうな男だ。


 その男は手に積み上げた本を持ってる。男に比べて本はものすごく小さく見える、感覚がちょっと狂う。


「迷子か? うん?」


「ねえ、ここって王立魔導図書館だよね」


 おれは子供モードで聞いた。


「ああ、見ての通り国中から集めた魔導書を保管してる場所だ」


 男はちらっと背後を見た。


 広い空間に、多数の魔導書。


 おじいさんが集めたものの数十倍はあって、さすが王立って言うだけある光景だ。


「じゃああってるよ」


「うん?」


「ぼくはルシオ・マルティン、これ」


 ルビーからもらった羊皮紙を取り出して、男に渡した。


 男は積み上げた本を片手で持って、羊皮紙を受け取って器用に開いた。


 それを読む。最後まで読むと、男の顔色が変わった。


「坊やが新しく来る館長だったのか!」


「うん?」


 男が驚いた、おれも驚いた。


 館長?


「何それ」


「上の方から言われてたんだ、近いうちに新しい館長が来るって。王女様直々にスカウトしてきた大魔道士だって」


「ぼくそんな事を聞いてないよ? ルビー様には魔導書をもっと読みたいから、図書館に入る許可をもらっただけなんだけど」


「ちょっと待って」


 男はカウンターの奥から紙を取り出した。


 その紙をじっと見つめて、いう。


「やっぱりそうだ、バルサのルシオ・マルティンを新たに王立魔導図書館の館長として任命する。丁重に扱い、説明するように」


「あらら」


 本当だったのかそれ。


 でもまあ、よく考えたら図書館の本を自由に読みたいなら、館長ってのはすごく便利な立場だ。


 ありがたく受けて、魔導書を全部読ませてもらおう。


「あー、おれはファン・クルス。よろしくな」


「ぼくはルシオ・マルティン。よろしくお願いします」


 おれとファンは握手した。


 あまりにも体のサイズ差があって、おれの手はファンの指くらいしかなくて、奇妙な握手になった。


「しかし、なんでまた坊やみたいなのが館長になったんだ? 名誉職かな」


「ぼくがこの世で一番、魔導書を早く読めるからかな」


「でっかく出たな」


「本当だよー」


 多分だけどな。


「ふーん、そうだ」


 ファンは何かを思い出したように図書館の奥に行った。そこから一冊の魔導書をとって、戻ってきた。


「ほら」


「なあに、これ」


「新しい魔導書だ。まだ見つかったばかりの、この世界で一冊しかない魔導書。だれも読めてないし、どんな魔法になるのかわからないヤツだ」


「へえ」


 ファンはそれをおれに突き出した、ちょっと意地悪な顔だ。


 読めるなら読んで見ろ、って言う顔である。


 おれは魔導書を受け取って、開く。


 切ないマンガだった。


 雨を題材にした泣ける系のシナリオだけど、最後は大団円の感動エンドを晴れと共に迎えるって構造だ。


 それを最後まで読むと、頭の中に魔法が浮かび上がった。


 なるほどそう言う魔法か。


「どうだい」


「うん、覚えたよ」


「へっ?」


「ちょっと試して見る」


 魔導書をおいて、外に出た。


 ひんやりする図書館の中とは違って、春を迎えた王都・ラ=リネアは温かい南風が吹いていた。


 ファンがついてきた。


「何をするんだ?」


「あの魔導書の魔法を使ってみる」


 そう言って、目を閉じてイメージした。


 そのイメージを強く持って、手をかざして、唱える。


「ウェザーチェンジ・スノー」


 唱えた後、今までで最大級の脱力感を覚えた。


 魔力がごっそりと持って行かれる程の脱力感。


 それは、成功を感じさせる脱力感でもあった。


「な、ななななな!」


 ファンが驚く、おれは目を開けて空を見る。


 さっきまで暖かい陽気だった空が曇り、雪が降ってきた。


 天気を変える古代魔法。魔力を大量に必要だけど、相応の効果・現象を引き起こす魔法だった。


 成果をだしたおれはファンに聞いた。


「どう?」


「しゅ、しゅごい……」


 目を見開き、開いた口がふさがらないファンだった。

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