だらけきったいちゃいちゃ
この日は朝から寒かった。
その寒さに目を覚ますと、シルビアとナディアの二人がぴったりくっついて来てる事に気づく。
「おはようございます、ルシオ様」
「おはようルシオくん。すっごく寒いね」
二人はもう起きてて、おれにくっついたままいった。
キングサイズよりも広いベッドの上で、三人はひとかたまりになってまるまってる。
まるで白米の中にある梅干し、日の丸弁当みたいな感じだ。
「確かに寒いな……って雪降ってるのか」
「はい、夜中からずっと降ってました」
「そりゃ寒いはずだ」
窓の外、雪が降ってるのを眺める。
二人がくっついてきてるところは温かいけど、ふれあってないところは寒かった。
「オートヒート」
ベッドに魔法を掛けた。ベッドの中から熱を放つようになった。
電車のシートのような、温かい空気が体の下から上ってくる。
「温かい……」
「すごい、これ気持ちいいね」
二人に好評だった。
温かくなったから、ぴったりくっつく事はなくなった。
体の一部を重ねたまま少しだけ離れた。
例えばナディアは腕をおれの太ももの上に置いて、シルビアは頭のてっぺんをおれの脇腹にくっつけた。
ぬくもり目当てではないスキンシップ。
ベッドの上でごろごろしながら、スキンシップを続けた。
「ぎゅるるるる」
「今のは……ナディアか」
「えへへ、ごめんなさい、ちょっとお腹すいちゃったかも」
「ちょっと待ってて」
シルビアはベッドから跳び降りた。ぶるっと体を震わせながら部屋の外に出て行った。
ちょっとして、焼いたパンをボウルに入れて持ってきた。
「はいナディアちゃん」
「ありがとう」
「ルシオ様もどうぞ」
「ああ、お前も食え」
三人でパンを分け合って食べた。
ベッドの上でごろごろしながら食べた。
「あっ、食べかすが落ちちゃった」
「いいよ、後でまとめて掃除すれば」
「そうねー」
怠け者になったくらいの勢いでごろごろした。
最初は仰向けでパンをむしゃむしゃ噛んでたけど、それだと飲み込むのに苦労するから、顔を横にして何とか飲み込んだ。
それも実は面倒臭かった。
二人を見る、二人も同じような感じだ。
何をするのも面倒臭い、ごろごろしてたい、そんな雰囲気を感じる。
「もそもそするね、なんか飲み物ない?」
「あっ、ちょっと待って」
シルビアはそう言ったが、動かなかった。
なかなか動かず、ナディアが聞く。
「どうしたのシルヴィ?」
「……はっ! ちょ、ちょっと待ってね」
慌てて起き上がろうとする。ごろごろしすぎて起動が遅くなったみたいだ。
おれはシルビアを引き留めた。
ベッドにポスンと倒れ込んで、驚いた目でおれを見る。
「ルシオ様?」
「ちょっと待ってろ」
頭の中の魔法を検索――あった。
「シックスセンス」
魔法の光がシルビアを包み込む。
光は更に収束して、髪を包み込む。
「これって?」
「これをキャッチしてみな、それ」
おれはそういって、パンを放り投げた。
ごろごろしてておれもおっくうだけど、なんとか投げれた。
パンは放物線を描いてベッドの外に飛んでいく。
「あっ……」
シルビアはびくっとなった。
おれに言われてキャッチしようとしたけど、ごろごろが心地よすぎて動きだすのがおくれた、って感じだ。
直後、異変が起きる。
シルビアの髪がのび出して、飛んでいったパンをキャッチした。
「えっ?」
「なになに、なにそれシルヴィ」
「わたしにもわからない」
二人揃っておれを見る。
「人間には五感があって、それ以外でもう一つつけられる魔法だ。今回は髪にかけたから、その髪を手のように使いこなせるはずだ」
「手ですか」
「それで飲み物をとってきてみて」
「はい、わかりました」
シルビアはベッドの上でごろごろになったまま――髪を伸ばした。
髪は伸びていって、ドアを開けて、部屋の外に出て行く。
しばらくして、コップに入った水を持って戻ってきた。
「わあ、すっごーい」
「えっと、ナディアちゃん、どうぞ」
「うーん、飲ませて!」
ナディアもごろごろしてて、動きたくない様子。シルビアに至れり尽くせりを要求した。
「シックスセンス」
見かねて、ナディアにも魔法をかけた。
同じようにナディアの髪が伸びて、動き出す。
「ほら、自分でやって」
「はーい」
ナディアはそういってシルビアからコップを受け取った。
髪から髪で渡されたコップ、ちょっと面白かった。
飲んだあと、コップを部屋の外に持っていく。
その間も、本体はずっとごろごろしてる。
おれはごろごろした、シルビアもごろごろした、ナディアもごろごろした。
温かいベッドの上、とにかくごろごろした。
ふと、つんつんと脇腹をくすぐられた。
ナディアが髪をつかってツンツンしてきたのだ。
それを見習って、シルビアもツンツンしてきた。
ごろごろして、髪の毛だけでツンツンしてきた。
さっきと同じ、微妙なスキンシップ。
それも悪くなかった。
「シックスセンス」
おれは自分にも魔法を掛けた。髪の毛がうねうねし出して、二人の髪の毛に絡んでいった。
おれたち三人はごろごろしながら、髪の毛だけでいちゃいちゃしたのだった。