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交換日記からの初対面

「おはよう」


 朝のリビング、そこにマミがいた。


 マミはじっと天井を見つめていたが、おれが声を掛けたからこっちを向いた。


 昨夜の事を思い出す、また撫でてやろうと思って近づいた。


「……どいて」


 マミはおれの横を通り抜けて、リビングから出て行った。


「あれ?」


 おれは首をかしげた。


 昨夜とは180度違う、つんつんした態度だ。


「しらない内になんかやって怒らせたのか? いやあれから寝て起きただけだし……」


 何があったのかまったくわからなかった。


 そんな風に首をかしげていると、遠くからパシャーン、という水音が聞こえてきた。


 大量の水をぶちまけた音が、家の外から聞こえてきた。


 おれは外に出た。そこにココがいた。


 可愛らしい、マミよりちょっと小柄な犬耳の少女、ココ。


 ココは濡れていたが、ぷるぷると体を震わせて、水をはじいた。


 まるっきり犬のような仕草だ。


「どうしたんだ?」


「ごめんなさいぃ、多分マミだと思うですぅ」


「多分?」


「はい……」


 ココはそう言って足元を見た。そこに空のバケツがあった。


 かぶった水はこのバケツの中にある物なんだろう。


「マミが自分から水をかぶってお前に変身したっていうのか?」


「はい……多分そうですぅ」


「多分? マミとお前は同じからだの違う人格なんだろ? わからないのか?」


「わたしとマミは直接話せないんですぅ。どうしても話したいときはこうして……」


 ココはその場でしゃがんだ、指を出して地面をなぞって土の上に文字を書いた。


「こうして手紙を書いたあと水をかぶるんですぅ」


「文通……いや交換日記みたいだな、まるで」


 というか……それは不便だし、何より切ない。


「おれはてっきり、おまえたちは心の中で話せるもんだと思ってたよ。多重人格ってそういうのが約束だしな」


「?」


 ココは首をかしげた、おれが言ってることがわからないって顔だ。


「じゃあ、本当に一回も話した事がないのか。声を聞いたことも?」


「ないですぅ」


「ふむ」


 おれはあごを摘まんで、考えた。


 読んできた1000冊以上の魔導書、使える1000以上の魔法を脳内検索する。


 一つだけ、使えそうな物があった。


「ちょっとじっとしてろよ?」


 ココに言って、手のひらをかざして、魔法を唱える。


「タイムシフト」


 光がココの体を包む。


 次の瞬間、その横にマミがあらわれた。


「えっ?」


「えっ?」


 二人同時におどろいた。


「あなた……ココ?」


「マミなんですかぁ?」


 顔合わせ自体はじめてみたいだ。二人は互いを見て驚いてる。


 ココがおれをみた。


「ど、どうなってるんですかぁ?」


「タイムシフトって魔法だ。ものすごく簡単に言うと、未来にある物を一時的に前借りする魔法」


「みらい?」


「そう、そこにいるマミは五分後くらいから持ってきた、未来のマミだ」


「何言ってるのかよく分からないんだけど」


 マミがぶすっとした顔でおれをみた。


 もうちょっとわかりやすく説明した方がいいか。


「魔法で五分間だけ会える様にしたんだ」


「そうなんですねぇ!」


「そんな事が出来るなんて、あなた何者」


「そんな事より」


 おれは二人の肩をつかんで、互いに向き合わせた。


 ココとマミ、犬耳の子と猫耳の子。


 二人は互いを見た。


「は、初めましてぇ……、ココです」


「し、知ってるわよそんなの。その毛、いつも抜け毛でみてるもん」


「わたしもですぅ! マミの匂い……残り香をいつも嗅いでますぅ」


「そう。あんた……そういう声だったんだ」


「マミはそういう顔だったんだぁ……」


 二人は互いをまじまじと見た。


 ぺたぺた触って、感触を確かめ合った。


「マミッ!」


 ココが感極まった様子でマミに抱きついた。


「ちょ、ちょっと何するの!」


「会いたかったですぅ、ずっと会いたかったですぅ」


「……」


 最初は困っていたマミだが、ココの告白を聞いて目を細めた。


 抱きしめてきたココをそっと抱きしめ返す。


 体を寄せ合う犬と猫は見てて微笑ましかった。


 やがて、時が来る。


 現われた時と同じように、マミがフッと消えた。


「マミ?」


「時間切れだ」


「そうですかぁ……ありがとうございますぅ。あなたのおかげでマミに会えましたぁ」


「よかったな」


「はい!」


「それじゃあ、回収しないとな」


「回収ぅ?」


 不思議がるココ、おれはバケツをとって、水を汲んできた。


 そのまま何も言わず、水をぶっかける。


「きゃあ!」


 ココがマミに変身した。


 朝起きたときと同じ、ツンツンしてたマミに。


「ちょっと、何するのよ」


「三、二、一――はい」


 マミが突然消えた。タイムシフトの後払いで、五分前に飛んだのだ。


 今ごろココとあってるんだろうな。


「……いや、過去に飛んでるんだから今ごろとかじゃないか」


 くっくと笑った。なんかちょっと面白かった。


 そこで五分間待った。マミが戻ってきた。


「お帰り。ちゃんと会えたか」


「……会えたわよ」


「そりゃ良かった」


 タイムシフト自体は使ったことあるけど、生き物に使ったことはなかったから、ちょっと不安だった。


 でも成功したみたいで、何よりだ。


 ココとマミ、二人が抱き合ってる姿を思い出す。


 たまにまた、会わせてやろうかなと思った。


「……ありがとう」


 マミが何かつぶやいた。考え事してたから聞き取れなかった。


「なんか言ったか?」


「――っ、なんでもない!」


 マミはそう言い捨てて立ち去ってしまった。


 さり際の顔がにやけてるように見えたから、おれはますますやって良かったと思った。

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