魔導書の内容はマンガだった
どうみてもマンガにしか見えないものを、おじいさんはものすごい真剣な顔で見つめている。
普通のマンガだ、おれは十秒くらいでその見開きの二ページを読めたけど、じいさんはページをめくらない。
どういうことなんだろう。
チェアから飛び降りて、一番近くにある本棚から一冊の本を抜き取った。
開く――これもマンガだった。
おれはそれを読んだ。
シュールなマンガだ。
何となく進学塾の宣伝用マンガを連想させられる展開で、ファイヤーボールって魔法を覚えればやせっぽちだったおれがムキムキのモテモテになるという超展開だ。
あまりにも突飛すぎて、一周回って面白く感じてくる。
それを、ついつい最後まで読んでしまった。
まあ、結構面白いマンガだった。
と、マンガをパタンと閉じてから、おじいさんがおれの事をじっと見つめてる事にきづいた。
「な、なあに」
「ルシオ、お前それを読めたのか?」
「え?」
おじいさんのようすがちょっとおかしかった。
なんかものすごく驚いてるって顔だ。
読めたら……まずいのか?
「どうなんだ?」
せっつかれて、おれはおずおず頷いた。
「よ、よめたよ」
「……ちょっと来い」
おじいさんはそう言って歩き出した。おれは慌ててついていく。
廊下に出て、建物を出た。
ここではじめて、ちょっとした屋敷、洋館のようなものだとわかった。
その中庭に出て、おじいさんはおれに言った。
「あそこにある木がみえるか?」
「うん、見えるよ」
「あれに向けてファイヤーボールを撃ってみるのじゃ」
「ふ、ファイヤーボール?」
なんか魔法の名前が出てきた。
初級魔法っぽい名前だけど、そんなの使える訳がない。
「さっきルシオが読んでたのはファイヤーボールの魔導書じゃ。あれをちゃんと読めたのならもう使えるようになってるはずだ。さあ、やってみろ」
そんな事をいっても。マンガを読めたら魔法が使えるなんてことが……。
だけどおじいさんは真剣な目でおれを見つめるから、とりあえず、やるだけやって見ることにした。
えっと、どうするんだ?
わからないから、とりあえず手のひらを突き出して、魔法名を言ってみた。
「ファイヤボール」
次の瞬間、おれの手からドッジボールくらいの大きさの火の玉が飛び出して、木に向かってすっ飛んでいった。
火の玉が木にあたって、木が燃えだした。
屋敷の中かでメイドが飛び出してきたけど、おじいさんが「大丈夫だ」といって下がらせた。
「……うそ」
おれは自分のてのひらをみた。
今の、本当に魔法が?
「ちゃんと使えた、本当に読めたのか」
おじいさんも驚いている。
「ルシオ、今まであの魔導書を読んだことは?」
「ううん、ないけど?」
「……」
「だ、ダメだった?」
おじいさんがすごく険しい表情をした。本当に何か良くないことをしてしまったんじゃないかって気持ちになった。
「いや、書庫に戻ろう」
おじいさんに連れられて、また書庫に戻った。
おじいさんは棚の上にある一冊の魔導書を抜き出して、おれに渡した。
「この魔導書を読んでみろ」
なんだかわからないけど、受け取って、読んでみた。
今度はファイヤレーザーって名前が出てきた。
三人の子供の受験のために、襲いかかってくるスベリ虫をファイヤレーザーで応戦するお母さんの話だ。
やっぱりシュールで、突き抜けたおバカ展開が面白かった。
最後まで読んで、顔を上げる。
おじいさんがずっとおれを見つめてた。
「読めたか」
「はい」
「いくぞ」
またおじいさんに連れられて、中庭にでた。
さっき燃えた、半分になってる木をまだ指した。
「あれに、今度はファイヤーレーザーを撃ってみろ」
「ふ、ファイヤレーザー」
人差し指で指して、魔法を唱えた。
赤いレーザーが飛び出して、木を貫いた。
また魔法が使えた。
「おおお」
おじいさんが感心した声を上げた。
そして、おれの頭を撫でる。
「本当に魔導書が読めるみたいじゃな。さすがわしの孫じゃ」
と、目尻が下がりっぱなしだった。
それよりももしかして。
魔導書ってのは、全部マンガになってるの?
第二話です、いかがでしたでしょうか。
マンガを読めば対応した魔法を覚える世界、という設定です。