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猫と兄

 家に猫を連れて帰った。


 サーカスでの扱いがひどくて、服は妙にぼろぼろ、体も汚れている。


 だから、まずシルビアに風呂に入れてもらうことにした。


「きゃあ!」


 シルビアの悲鳴と、パシャ! って水音がした。


 どうしたんだろうって思って廊下に出ると猫耳の子が走ってくるのが見えた。


 風呂に入る直前の薄着姿だ。


「ごめんなさいルシオ様、捕まえてください」


「ああ」


 こっちに走ってきた猫耳の子をひょいって避けて、首根っこを捕まえた。


 すると途端に大人しくなった。


 恨めしそうな目でおれをみつめる。


「ほらもどって、体をちゃんと洗ってもらえ」


「やだ」


「やだって……」


「あの人に洗われたくない」


「うん? 相手の問題なのか。ナディアー」


 声をだして、ナディアを呼ぼうとした。


「その人もやだ」


「やだって、ナディアと会ってもないのに?」


「とにかくやだ」


 なんかわがままを言われた。


「じゃあ自分で洗うか?」


 聞くと、猫耳の子がおれを指した。


 まっすぐおれを指して、じっと見つめて来た。


「おれ?」


「そう」


「いやでもおれは男だし、色々まずいだろ」


 迷っていると、シルビアが追いついてきた。


 さっきの水音のせいで、彼女はビジョビジョになってる。


「シルビア、ちょっとそのまま立ってて」


「はい」


「アピュレス」


 手をかざして、シルビアに魔法をかけた。


 魔法の光がシルビアを覆って、姿形を変える。


 光が落ち着くと、シルビアの見た目はおれになっていた。


 並んで立っていると双子にしか見えないくらい、おれとそっくりになった。


「これでどうだ? これならシルビアに洗ってもらってもいいだろ?」


 猫耳の子に聞くが、ほとんど即答で首を振られた。


「こっちがいい」


 と、またしてもおれを指でさしたのだった。


     ☆


 風呂の中、おれは真っ裸にした猫耳の子を洗った。


 何となく目をそらす。


 裸の彼女はオッパイがすごかった。


 美人の巨乳、一言でいうとそんな感じ。


 恥ずかしくて直視出来ないので目をそらして、当たり障りのない会話をした。


「お前の名前は?」


「マミ」


 意外と素直に答えた。


「わたしはマミ。もう一人の方はココ」


「もう一人って、犬耳の子の方か」


「そう」


「名前が違うのか、そもそも別人なのか?」


「うん、別人。わたしとココは別人」


「へえ」


 姿だけ変わるって訳じゃないみたいだ。


 水をかけると肉体が変化して、人格も入れ替わるって事なのか。


 犬耳の子の名前がココ、猫耳の子の名前がマミ。


「水をかぶると入れ替わるんだよな。なんでそうなんだ?」


「わからない。物心がついた時にはもうこうだった」


「かぶるのは水? お湯は?」


「水だけ」


「ならながしても大丈夫だな」


 とりあえず背中の泡を流してやった。


 今度は腕をとって洗う。


 洗ってる最中も、気をそらすためにしてる世間話の最中も、おれはマミから目をそらした。


「……」


 マミはおれをみて、体を移動させた。


 自分の体をおれのそらした視線の方に移動して、そこからおれをじっと見つめる。


 当然裸――オッパイが見えるから、おれは更に目をそらした。


 するとマミはまだ移動する。


 移動して、おれは目をそらす。


 目をそらして、移動する。


 それを繰り返した。


 するとどういうわけか、マミがどんどん笑顔になっていった。


 楽しそうな笑顔。


 元が美人で、それが笑顔になった。ますます直視してられなくて、おれは目をそらす。


 さすがにまずい、このまま悪循環を繰り返すのはまずい。


 思い切って流して、逆にまっすぐ見つめて、聞いた。


「他に洗ってほしいところは?」


 作戦成功。見つめられたマミは逆に目をそらした。


 少し考えて、答える。


「こ、ここ」


 と、しっぽの付け根当たりを指した。


「うん? ああここは確かにちゃんと洗った方がいいな」


 しっぽの付け根、お尻としっぽの境がかなり汚れていた。


 土とか埃とか、そういうのが塊状になってこびりついてる。


「わかった、じゃあお尻をこっちに向けて」


「うん……」


 マミは四つん這いになって、おれにお尻を突き出した。


 おれは尻を、しっぽの付け根を洗った。


 せっけんを手につけて、思いっきり泡立たせて、丁寧に洗った。


 ごしごし、ごしごし。


 最初は汚れでざらざらだったお尻としっぽの付け根が、次第にスペスペになっていった。


「一回流すぞ」


「ひゃん!」


 お湯で泡を流した。


 大分綺麗になったけど、まだちょっと汚れてる部分があった。


 もう一回石けんで泡を作って、ごしごしと洗う。


「にゃあ……にゃああ!」


 なんか猫っぽい声を出された。


「力入れすぎ? 痛いのか?」


「そ、そんな事ない……」


「? じゃあ続けていいんだな」


 こくりと頷くマミ。


 洗いを再開する。ごしごしして、お湯で流す。


「うーん、まだちょっとよごれてるな。もう一回洗うぞ?」


「う、うん。お願い……」


 お願いされたから、またお尻を洗った。


 じっくり、丁寧に洗った。


     ☆


 洗い終わった後、何故かマミがヘトヘトになってたから、服を着せて空いてる部屋に休ませた。


 おれは自分の部屋に戻ってきた。


 巨乳美人を洗うのは初めてだったから、おれも相当ヘトヘトになった。


 一息ついて、飲み物とかほしいな、と思ったその時。


「うわあああ、な、なんだお前は!」


 家の外から悲鳴が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。


「イサーク?」


 悲鳴はおれの兄、イサークのものに聞こえた。


 慌てるとかなり間抜けさが出る声だ、きっと間違いない。


 なんか用事があってきたのか? とおもって表に出ようとすると。


 部屋のドアが開いた。入ってきたのはさっきまでヘトヘトになってるはずのマミだった。


 彼女は何かを引きずっていた。よく見るとそれは、簀巻きにされたイサークだった。


「兄さん!」


「おいこらルシオ、これはどういう事だ」


「えっと……どういう事って言われても」


 さすがに困った。


 マミを見る。マミは簀巻きイサークを引きずってこっちに来た。


 そしておれの前にぽいと放り出して、言った。


「怪しい人、家の前でうろうろしてたから」


「……うろうろしてたんですか? 兄さん」


「うっ、そ、そんな事はないぞ」


 あるのか。


「いいから、そんな事よりもこれをほどけ!」


 それもそうか。


 簀巻きになってるイサークをほどいてやった。


「で、なんか用なんですか、兄さん」


 聞くと、にらみつけられた。


「もういい! お前に話す事は何もない!」


「はあ……」


「ばーかばーか」


 イサークはそう言い残して立ち去った。


 いやあんた……いい歳して「ばーかばーか」はないだろ。


 ちょっとあきれた。


 まあどうでもいいので、マミを見た。


 マミは目をきらきらさせて、おれをみた。


 何かを期待してる顔だ。猫耳がヒクヒクしてる。


 これってもしかして……褒めてほしいのか?


 簀巻きイサーク(えもの)をとってきたから、褒めてほしいのか?


 試しに手を出して、頭を撫でてやった。


「にゃあ……」


 マミの顔がとろけた。どう見ても気持ちよさそうな顔だ。


 頭を押しつけてきた、もっとなでて、と言わんばかりに押しつけてきた。


 おれも楽しくなってきた、試しに耳の付け根を撫でてやると更にうっとりした。


 しばらくの間、おれはマミをなで続けた。


 ふと、マミの体がビクンってなった。


 顔を上げて、壁をじっと見つめる。


「どうした?」


 聞くが、答えてくれなかった。マミはそのまま部屋を飛び出した。


 一体どうしたんだろう、と思っていると。


「うわあああああ! またお前か!」


 イサークの声が聞こえた。しばらくするとまたマミが簀巻きになったイサークを引きずってきた。


「こらルシオ! これをはずせ!」


「いや、何をしたいんだあんたは。帰ったんじゃ無かったのか」


 あまりにも呆れて、素が出てしまった。


「そ、そんなのお前には関係ないだろ?」


「はあ……」


 話にならないから、放置してマミをなで続けた。


 マミは気持ちよさそうに、すっかり心を許してくれたみたいになった。


 猫だし、飼いたいな、とおれは思った。



 ちなみにイサークは放っておくと天丼で三回目の簀巻きがありそうだったから、簀巻きのまま実家に連れ帰った。


 その後めちゃくちゃおじいさんに説教された。

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天丼てwww
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