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いぬとねこ

「まずはここを読む、で、次はここのコマ。ああ、その前にそこの擬音あるだろ。それはみ出してるけどこっちのコマの擬音だから」


「うーん」


 ナディアが魔道書を見つめながらうんうん唸ってる。


 読み方を教えてほしい、っていったナディアにマンガの読み方を教えてる。


「こっちのは?」


「こっちの擬音は二つのコマにかかってる」


「へえ、そうなんだ」


 ナディアがまじまじと見つめてる。


「うん!」


 しばらくしてマンガを閉じた。


「読めたのか?」


「読めない」


 あっさり言われた。


「読めなかったのか? どこがわからないんだ? 言って見ろ」


「どこがわからないのかわからない」


「……だめだな、そりゃ」


 教えようがない。ここがわからないって言うのがあればそれを教えられるんだけど、それすらもわからないんじゃ教えようがない。


 ちなみにマンガそのものは結構普通のマンガだ。


 「子供の頃の約束」って言葉をキーワードにした、男女のラブコメだ。


「わかんないけど、ルシオくんが読めるしいいや。ねえねえ、これってどんな魔法なの?」


「プロミスって魔法だ。使うと、約束をしたことを強制的に守らせる事ができる。約束をしてない事は強制できないけど、約束したこと絶対に破られない魔法だ」


「へえ」


「例えば、ナディアにその指輪を贈ったとき」


 ナディアの薬指をさす、そこにおれがおくった結婚指輪がある。


「それにこの魔法を使えば、一生一緒にいるって約束を守らせる事ができる。ちなみに後から掛けてもオーケー。結婚式で約束はしてるから、今掛けてもちゃんと守らせる事ができる」


「ふーん、あんまり意味ないね」


「意味ないのか?」


「うん、だってルシオくんとはずっといるし」


 ナディアがあっさりいいはなった、おれは面食らった。


 直後にちょっと嬉しくなった。


 魔法なしでずっと一緒にいるって言ってくれたのが嬉しかった。


 嬉しくて、ちょっとなにかしてやろうかな、とおもったその時。


「ルシオ様! 助けてください!」


 家の外からシルビアが飛び込んできた。


 せがんでくる顔は、目がうるうるしていた。


     ☆


 シルビアと街の広場に来ていた。


 そこに流れのサーカスがあった。


 おれたちは金を払って、テントの中に入る。


 テントの中は結構賑わってて、客がいっぱいいた。


 そこでちょっと待ってると、サーカスの人間、一人の男が女の子を連れて出てきた。


 男は三十半ばくらいの中年で、太ってて、ひとのよさそうな笑顔を浮かべてる。


 女の子は結構可愛くて、犬耳の女の子だ。首輪をつけてる。


 犬耳だからか、従順そうで忠犬ハチ公を連想させる様な大人しい見た目だ。


 ……犬耳か。異世界に転生してきたからそのうちそういうのに遭遇するかもしれないって思ってたけど、まさかここで遭遇するとは。


「レディースアンドジェントルメン。本日はようこそお越し下さいました」


 男は芝居がかった口調で言った。


「こちらにいるのは世にも珍しい、犬耳の少女でございます」


「犬耳なんてそんなに珍しくないだろー」


 客の一人がヤジを飛ばした。


 そんなに珍しくはないのか。


「その通りでございます、ただの犬耳少女ならばそうでございます――しかし!」


 男は力説して、横に置かれているバケツをとった。


「ここに入っているのはただの水、ご覧の通り、普通に飲めるただの水でございます」


 一口飲んで、続けた。


「この水を――掛けますと!」


 バケツの水を犬耳の少女にぶっかけた。


 まわりにどよめきが起きる。


 今まで犬耳だった女の子が、猫耳になったのだ。


 顔つきは一緒だった、しかし今までが可愛い従順系だったのが、強気の美人系に見えた。


 まるで顔が一緒の別人、そんな雰囲気のかわりそうだ。


「こんな風に、猫耳に早変わり」


「おおおおお!」


「さらに、もう一回かけますと! ほおら、また犬耳に」


 男は女の子に何回も水をぶっかけて、その変化を見せものにした。


 さすがにそれは珍しいのか、観客は歓声を上げて、大いに喜んだ。


「ルシオ様……」


 ここに連れてきたシルビアが、服の裾を掴んで、切なそうな目でおれを見上げてきた。


     ☆


 ショーが終わった後、シルビアと一緒にテントの裏に向かった。


 言い争いの声が聞こえていた。


「一体いつまで働かせるんだ!」


 女の怒鳴る声が聞こえてきた。かなりの剣幕だ。


 シルビアと一緒に足を止めて、それをみた。


 さっきの男と女の子がいた。


 女の子は猫耳になってて、つり上がった目で男を睨む。


 男は冷めた目で女の子を見ている。客の前とは180度と違う、人を見下す様な目だ。


「なんの事をいってるんだね、キミは」


「すっとぼけるな! 話が違うぞ!」


「話? なんの話だ」


「すっとぼけるな、お前についていって1年間見世物として働いたら、家の借金をチャラにして解放してくれるって話だっただろ? もう一年たつじゃないか!」


「うーん? そうだったかな」


「すっとぼけるな! そもそも――」


 女の子が更に何かを言おうとしたけど、男はつまらなそうな顔で、女の子に水をぶっかけた。


 猫耳が犬耳になる。


 雰囲気も豹変する。それまで食って掛かっていたのが、瞬時に従順になった。


「うぅ……ひどいですぅ」


「ああん?」


「うっ」


 犬耳の時は気が弱いのか、男のどうでもいい恫喝にすくみ上がった。


「ふん。後片付けと明日の準備、ちゃんとやっとけよ」


「……あ、あの」


「なんだ」


「や、約束を……」


「まだいうか!」


 男はからになったバケツを投げつけた。犬耳の子の近くの地面にたたきつけられた。


 犬耳の子は小さくなって震えた。


 シルビアを見る、悲しそうな、すがるような目でおれを見ている。


 話はわかった。


 おれは男に向かっていった。


「ねえねえ、おじちゃん」


 子供モードで話しかける。


「うん? どうしたのぼく、ここは舞台裏、勝手に入っちゃダメだよ」


 さっきまでのを見られてるともしらず、男は商売用の笑顔でおれにいった。


 中腰で微笑み掛けてくる姿は善人に見えてしまう。


「あのお姉ちゃんの事、解放してあげてよ」


「何をいってる――」


「あのお姉ちゃんはいっぱい働いたんでしょう? だったらもういいじゃない」


 いうと、男の顔色がかわった。


「ボウズ。これは大人同士の話、商売の話なんだ。ボウズみたいなのが口を挟んじゃいけないよ」


 まだ優しい口調、だけどあきらかに子供扱いで、見下した言い方だ。


 ……商売ね。


「じゃあぼくがお金出して、お姉ちゃんの事を身請けするよ」


「ボウズが?」


「うん、いくらなの?」


「そうだな……1000万セタって所だな」


「えええええ、借金は100万セタですよぅ?」


「うるさい、借りた金には利子がつくんだよ。お前が返した分と利子を引いて、今1000万セタになってるんだよ」


「そんなぁ……それじゃいくら働いても返せないですぅ……」


「……呆れたな」


 普通の口調に戻った。


 男が「あん?」とおれを睨んだ。


「まるで高利貸しだな」


「なんとでも言え、借りたあっち、あいつの親が悪いんだ。金を借りたら返す、ボウズ、それが大人の世界だ」


「約束は守らなくてもいいのか」


「約束? そんなのは破るためにあるんだ」


「いいや、約束は守るためにあるんだ」


「なにを言って――」


「プロミス」


 男に魔法を掛けた。


 約束した事を守らせる、それを強制する魔法。


 本当に約束したのなら――。


「ち、仕方ねえ」


 男はそう言って、犬耳の子に向かっていった。


 彼女についてた首輪をはずす。


「ほらどこへでもいきな」


「い、いいのぉ?」


「約束だからな、けっ」


 男はつまらなそうに吐き捨てて、テントの中に消えていった。


 魔法は成功、効果をちゃんと発揮したようだ。


「ありがとうございますルシオ様」


「大したことはしてない」


「でも、ありがとうございます」


 シルビアに感謝された。


「あのぉ……」


 おずおずと声を掛けられた。


 犬耳の子が近づいてきて、おそるおそる話しかけてきた。


「助けてくれてありがとう……あの」


「とりあえず着替えようか」


「え?」


 「びしょ濡れじゃ風邪引くだろ。シルビア。先に帰って風呂を沸かしといて」


「――っ! うん!」


 シルビアは大喜びで、家に向かって走り出した。


「とりあえず行こうか」


 犬耳っ子に手を差し伸べた。


 彼女はちょっとためらって、それからおれの手を取った。


 犬だからか、なんかものすごく信頼された、熱い目でみつめられた。


 とりあえず、彼女を家に連れてかえることにした。

ちょっと長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。

次回でねこの方もしっかり落ちます

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