表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/120

雪の女王達

「ルシオくんルシオくん」


 寝てるところを、体を揺すられて起こされた。


 目をこすった体を起こす、ナディアが興奮した顔でおれを見ている。


「ふあーあ。おはよう。どうしたんだ」


「外!」


「外?」


「うん外! 良いから来て!」


 手を引っ張られて、部屋から連れ出された。


 家からも出て、庭に出た。


 そこは一面の銀世界、雪が積もっていた。


「ルシオ様」


 シルビアもそこにいた。彼女もうきうきワクワクの表情をしてる。


「夜の間に降ったのか」


「すごいよね! あたしこんなに雪が積もってるところはじめて見たよ」


「そうなのか?」


「うん! 昔すんでたところはほとんど降らないし、ふってもべちょべちょの雪だから」


「ああ、なるほど。……じゃあこういうのもやったことはないのか」


「こういうの?」


「見てろ」


 おれは頭の中でポーズを想像して、そのポーズをとって、雪の中に飛び込んだ。


 体が雪の中にめり込む。柔らかい雪がおれの全身を包む。


 普通はここでちょっともったいない事になるけど、今は魔法がある。


「フライ」


 空を飛ぶだけの魔法を使って、雪の中から浮かび上がる。


 そしてナディアのところに戻ってきて、着陸する。


「ああいうの、見た事ないだろ」


「わあ、ルシオ様の形になってる」


「あはははは、なんか面白い」


 雪は綺麗にくっきりと、おれがとったポーズの形でめり込んでいた。


 ポーズが面白かったからか、シルビアもナディアも大うけだった。


「新雪でこれをやるのが定番なんだ。後は雪合戦とかもそうだな」


「雪合戦? 何それ」


「わたし知ってる……こう」


 シルビアは雪玉を丸めて、ナディアに軽く投げつけた。


「こういう風にぶつけて遊ぶゲームのことだよ」


「普通はチーム分けしてやるもんだ。そうだな、シルビアとナディアがチームを組んで、もう片方はおれ一人で十分だから」


 三人で、男女の事を考えてそのチーム分けを提案した。


「えー、あたしルシオくんと同じチームがいい」


「わたしも、ルシオ様と同じがいいです」


「じゃあ三人で同じチームにしよう」


「うん」


「いやいや、三人で同じチームなら相手どうするんだよ」


「ルシオくん何とかして」


 ナディアはあっさり言い放った。


 当たり前の様に言い放つ、その顔はおれなら何とかできるって思ってる顔だ。


 いやまあできるけど。


「じゃあ、まずは雪だるまを作ろう」


「雪だるま?」


「こういうのだよ、ナディアちゃん」


 シルビアはサッと、二つの雪玉をくっつけて、手乗りサイズの雪だるまを作った。


「ここに目と、手と……あっ、ちょっとまって」


 部屋の中に飛び込んで、小さい布きれを持ってきた。


 それを雪だるまの首に巻き付けて、マフラー代わりにする。


「こうするの」


「わあ、可愛い!」


「じゃあこれを」


 おれは雪だるまに魔法をかけた。


 命のないものに命を吹き込む、即席のホムンクルスを作る魔法だ。


 雪だるまが動く、シルビアの手から跳び降りて、雪の上をぴょんぴょん跳び回る。


「すごい、可愛い!」


「こんなのもあるぞ」


 おれはちょっと違う雪だるまを作った。


 ちょっと四角い、「●」の目と「▲」の口をかいた雪だるまだ。


 ぶっちゃけダ○ボーだ。


「か・わ・い・い!!!」


 ナディアが盛大に目を輝かせた。うん、かわいかろう。


 雪だるまを何体もつくって、それに命を吹き込んでいった。


 そしておれたち三人と、雪だるまでわかれて雪合戦を始めた。


「わたしが雪玉を作るから、ルシオ様とナディアちゃんはどんどん投げて」


「うん!」


「わかった、任せる」


 シルビアの提案に乗った。


 シルビアが雪玉をつくって、おれとナディアが投げる。


 雪だるま達も雪玉をつくってどんどん投げてきた。


 雪玉と笑い声が飛びかう。


 相手が雪だるまのせいで、雪玉があたるとどんどんくっつき、膨らんで動きが鈍くなって、更にあたりやすくなって、膨らんで――の繰り返しだ。


 五分もしないうちに、全部の雪だるまが雪玉にうもれて動けなくなった。


「あはははは、勝利!」


 ナディアはVサインをした、のりのりだ。


「たのしいね! 雪合戦」


「そうだな」


「あー、動き回ったから喉渇いた」


「あっ、飲み物持ってくるね」


「ああちょっとまって」


 シルビアを呼び止める。


 一方で新しい雪だるまを作る、▲と●のかわいい雪だるま。


 それを何体もつくって、まとめて命を吹き込んだ。


「飲み物、それと食べ物」


 命令すると、雪だるま達は一斉に動き出した。


 家の中に入って、命令通りに飲み物と食べ物を準備する。


 ▲と●の雪だるまがわらわら動く。


 お茶を出して、お菓子を出して、しまいにはシルビアとナディアの肩を揉み出した。


 最初は所在なさげだったシルビアも、次第にまんざらじゃなくなって、ナディアと一緒に至れり尽くせりを楽しみだした。


 おれはというと、至れり尽くせりされる二人の笑顔が嬉しかったから、雪だるまをこっそり量産し続けていた。


 最後の方は100体をこえて、ふたりはまるで女王みたいになっていた。

おかげさまで週間一位になりました。本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ