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嫁と空のデート

 ドラゴンになって、ナディアを背中に乗せて空を飛んだ。


 人が豆粒くらいに見えるくらい高いところを飛ぶ。


 青い空、地平線の果て。胸がすっとする程の素晴しい景色で、体をふく風も心地よかった。


「すごい……空を飛ぶのってこんな気持ちだったんだ!」


「空を飛んだのははじめてか?」


「当たり前だよ! 空を飛ぶなんて普通できるわけないじゃん!」


 ナディアは興奮気味のまま言った。


「そっか。ちなみにナディアは高いところは平気か」


 今までの事で大丈夫だと思うけど、一応聞いてみる。


「うん、平気」


「もっと面白いことがあるけど、やってみようか」


「どんなの?」


「ちょっと待って――マグネティクス」


 追加の魔法を使った。


「あっ、ルシオくんの背中にくっつく」


「磁力の魔法だ。大丈夫だと思うけど、一応つかまってて」


「うん」


「じゃ、行くよ」


 おれはそういって、急降下をはじめた。


 それまでゆるゆると空をとんでたんだけど、ジェットコースターみたいに急降下と急上昇を繰り返した。


「きゃあああああ、あはははははは、なにこれすごーい!」


 黄色い悲鳴が聞こえた、どうやら好調みたいだ。


 女の子は絶叫マシーン好きな人が多いって聞いたけど、ナディアもそういうタイプっぽい。


「よし、じゃあもっと行くよ。それ一回転!」


「わあああ」


「ひねりも加えてみる!」


「うおおおお」


「急停止! ――からの垂直落下!」


「きゃっほーい!」


 ナディアはおれの背中ではしゃいだ。まるっきりジェットコースターに乗った女の子のテンションだ。


 喜んでもらえるのが嬉しくて、おれは色々やってみた。それが全部好評で、ナディアは大いにはしゃいだ。


「ルシオくんすごいな、色々できるんだもん」


「まあな」


「ねえねえ、あとでシルヴィにも乗せてあげようよ、シルヴィきっと喜ぶよ」


「喜ぶかな。こういうの苦手な女の子もいるんじゃないのか?」


「大丈夫だよ、シルヴィは絶対好きだよ」


「じゃあ聞いてみて、好きだったら乗せよう」


「うん!」


 ゆっくり、まったりと空を飛んだ。


 遠くに塔が見えた。


 寂れた、二十メートルくらいの塔だ。


 ナディアを乗せたまま、最上階に降り立った。


「いい風だね」


「景色もいいな」


 ナディアはおれの背中に乗ったままだ。


 磁力の魔法は解いてある、ナディアは自分の力でおれにつかまってる。


 手のぬくもりが心地よかった。


「ルシオくん」


「うん?」


 ナディアは動き出した。


 ジャングルジムとかアスレチックスとかで遊ぶように、おれの背中をよじ登って、頭のところにやってきた。


 そして、おれの顔にキスをする。


 チュッ、って音を立てるキス。


「ありがとう、ルシオくん」


「大したことしてないよ」


「ううん、すごいよ。空を飛ぶルシオくん、かっこよかった」


 かっこいい、か。


 あんまりかっこいいって言われた事はない。


 言ったのが八歳の嫁だけど、心地よかった。


 もっともっと、かっこいい所を見せたくなる。


「ドレスアップ」


 ナディアに魔法をかけた。


 見た目をかえる、服装を変える魔法。


 普段着姿だったのが、鎧姿になる。


 女戦士とか、女騎士とかそんな格好だ。


「うわあ、すごい」


「背中に戻ってみろ」


「うん」


 ナディアは言われた通り、背中に戻った。


 竜のすがたのおれの背中に乗る鎧姿のナディア。


 幼いけど、パッと見かっこよかった。


「騎士様、次はどちらに行かれますか」


 おれは芝居がかった口調で言った。


 ナディアは更に興奮した。


「空を飛ぼう!」


「御意」


 そう言って、再び大空に飛び立った。


「ライトニング」


 雷の魔法を使ってみた。


 おれが飛ぶまわりに稲妻が次々とおちる。


「すっごーい!」


 さっきから同じ言葉を繰り返すナディア。その目は輝いている。


 さっきはジェットコースター気分で飛んだ、今度はファンタジー全開の、コスプレっぽい感じで飛んだ。


 さっきほど大騒ぎの大興奮にはならなかったけど、ナディアは静かに興奮してる。


 やって良かった、と思った。


「ねえ、ルシオくん、あれみて」


「うん?」


「ほらあそこ、あそこ誰か襲われてない?」


 目を凝らした。


 ナディアが言うとおり、地上で旅人っぽい格好の人が虎みたいなのに襲われてるのが見えた。


「助けなきゃ!」


「わかった。マグネティクス」


 魔法をかけて、急降下する。


 一瞬で襲われてる現場について、着陸する。


 急速で着陸したから、ドーン、と地面が揺れた。


「ルシオくん」


「ぐおおおおおおお!」


 竜の声で鳴いた。


 空気がビリビリする程の大きな声だ。


 それだけで、虎が逃げていった。


 竜と虎じゃ当たり前の光景だ。


「大丈夫だった?」


 ナディアは旅人に聞いた。


「だ、大丈夫です、ありがとうございます」


 旅人は大いに感謝した。


「あの、あなたは……」


 おれは振り向いてナディアを見た、ウィンクをして見せた。


 ナディアはそれで理解した。


 悪戯っぽく、旅人に言った。


「竜騎士ナディアっていうんだよ」


 と、それっぽく名乗った。


 そして旅人に感謝されながら、再び大空に飛び上がった。


 日が徐々に沈んでいった。


「楽しかった。ありがとうね、ルシオくん」


「またやろうな」


「今度はシルヴィも一緒にね」


「ああ」


 茜色の空の中、バルサの街に向かって飛んでいく。


 楽しい――ひたすら楽しい一日だった。


 余談だが、竜騎士ナディアはその後しばらくうわさになった。

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