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お菓子の家

 昼下がり、屋敷の庭でマンガをのんびり読んでいた。


 ちょっと離れたところにバルタサルがいた。

 彼女はあっちにふらふら、こっちにふらふらと、庭の蝶々を追いかけ回している。

 蝶々を「胡蝶ちゃん」とよぶくらい大好きなバルタサル、そんな彼女をそっとみまもりつつ、マンガを読む。


 読んでるのは魔導図書館から持ち出したシリーズ物のマンガだ。

 人相の悪いピカレスクヒーローみたいな主人公が、伝説の魔剣の使い手になったばかりでなく、その魔剣を孕ませて娘の魔剣を産み出すというトンデモ展開な一作。


 魔剣との夫婦漫才とか、まわりのヒロインが可愛くて安心して読めるマンガだ。


「ルシオちゃん」

「うん、どうした――ってそれなに?」

「それはこっちのセリフなの? これはどういうものなの?」


 キョトンと小首を傾げるバルタサル。

 彼女が抱えるように持ってきたのは大きな蜂の巣だった。


 だぶだぶの袖で抱える姿を可愛いやら、蜂の巣で恐ろしいやらな光景だ。


「それは蜂の巣だよ。危ないから戻してこい」

「あぶない? でもこれ、すごくいいにおいがするのよ?」

「そりゃ中にハチミツがあるからな――とと、そこから垂れてるのがそうだ」

「ハチミツ?」


 バルタサルは蜂の巣を抱えたまま、器用にその真下をのぞき込んだ。

 そして垂れているハチミチをぺろっとなめる。


「甘い」

「ハチミチだから――っておい」


 止める間もなくバルタサルはそのまま蜂の巣にかぶりつき、顔に「×」をつくった。


「まずい……」

「そりゃ蜂の巣、蜂の家だから」

「こんなに甘い匂いがするのに……」

「……ふむ」


 甘い匂い……家。

 おれはある魔法を思い出した。


「バルタサル、それを食べたいか」

「ハッちゃんって呼んで? 美味しくないからもうたべたくないのよ?」

「美味しかったら?」


 きょとんとするバルタサル。

 彼女の鼻をそっと摘まんで、持ってる蜂の巣に魔法をかけた。


「『ヘクセンハウス』」


 魔法の光が蜂の巣を包んだ。


「これで食べられるはずだ」

「あっ、チョコレートだ」


 躊躇なくかぶりついたバルタサルはほっこり顔をした。

 見た目は蜂の巣で変わらないが、どうやらチョコレートになってるようだ。


「もぐもぐ……るひおひゃんは……もぐもぐ……にゃにを」

「食べながら話さない。これはお菓子の家の魔法なんだ。簡単にいうとどんな建物でもお菓子にしてしまうんだ」

「家をおかしに?」

「ああ」

「家?」


 バルタサルは屋敷を指した。


「魔法をかければな。屋敷はダメだぞ、みんなが住んでるところだからな」

「……ルシオちゃん、こっち来るのよ?」


 バルタサルに引っ張られて立ち上がった。

 そのままむりやりつれて行かれる。


 屋敷の裏側にやってきた。

 そこに大きめの犬小屋があり、中でココが丸まって昼寝している。


 獣人であるココは屋敷の中にいる事もおおいが、こういういかにもな犬小屋の方が落ち着く事もある。


 まさかココの家を食べるのか……と思いきやそこを素通りされた。

 更に進んでいくと、普段あまり来ない、屋敷の裏の裏にやってきた。

 そこに使われなくなった、寂れた物置小屋があった。


「これも家なのよ?」

「食べたいか」


 バルタサルははっきり頷いて、瞳を輝かせた。


「わかった。『ヘクセンハウス』」


 物置小屋に魔法をかけて、お菓子の家にする。

 魔法をかけ終えるや、バルタサルはすぐ様とびついた。


「あまくておいしい」

「どれどれ……お、窓は飴っぽいな」

「ドアはクッキーの味がするのよ?」

「壁はスポンジケーキになってるな。うんいける」


 おれとバルタサルはお菓子の小屋を食べた。

 さすがに量が多くて全部は食べきれないから、あれこれをちょっとずつつまむって感じだ。


「な、何をしてらっしゃるのルシオ!?」

「え」


 振り向く、ベロニカが晴天の霹靂って顔でこっちを見ていた。


「……あっ」


 彼女の驚きの理由に気づく。

 『ヘクセンハウス』はお菓子の家になるけど、見た目はそのままだ。

 つまり何も知らない彼女からすればおれとバルタサルが壊れかけた物置小屋を喰ってる事になる。


 そりゃそういう顔もする。


「ルシオに……そんな趣味があったなんて」

「まて誤解するな。バルタサル、お前もなんか説明してやってくれ」

「わあ、クモちゃんのお家もある、ルシオちゃんこれも食べるのよ?」

「むぐっ」


 口の中に蜘蛛の巣を突っ込まれた。


「美味しい?」

「わためみたいだ」

「わー。これは胡蝶ちゃんにたべさせないと。積年の恨みを晴らさせるのよ?」


 バルタサルは物置小屋の中に張り付いていた蜘蛛の巣を剥がして、バタバタとどこかへ走って行った。


「蜘蛛の巣まで食べるなんて……しかもわたあめっぽいって……」


 ベロニカはポロポロ泣き出した。


「夫がそんな人だったなんて」

「ちょっとまって説明するから」


 危うく迎えた離婚の危機、おれはベロニカを引き留めて魔法を必死に説明して何とか納得してもらった。


 物置小屋はその後、家族で美味しく頂いたのだった。

下の同時連載作品も、読んでくれたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] だんだん残念な話になって行きましたが、無事完結したことは 素晴らしいと思う [気になる点] 最初の勢いが続けれない 難しいのでしょうね [一言] 今までありがとうございました。 楽しめまし…
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