MAGIシステム
図書館から屋敷に戻ってくると、ナディアがリビングでうーんうーん唸ってるのが見えた。
リビングに入って、彼女に話しかける。
「どうしたナディア」
「ルシオくん!」
「なんか唸ってるけど、どうしたんだ?」
「うんとね、あたし今眠たくて昼寝したいんだけど、でも今ねちゃうと夜眠れなくなるから、どうしようかなって迷ってるんだ」
「なるほど」
まあ、よくある悩みだな。
気持ちもわかる、ついでにどっちにも決めにくい今の状況も。
正解がない事もまたよく分かる
「ねえルシオくん、あたしどうしたらいいかな」
「そうだな……自分に決めてもらうか」
「自分に? もうっルシオくんってば、それが出来ないから困ってるんじゃん」
「まあまあ、見てなよ」
ナディアから一歩離れて、手をかざした。
おれが魔法を使うことを理解して、彼女は眠たいのもどこへやら、途端にわくわくしだした。
もう魔法なんて必要ないんじゃないのか? なんて思いつつ予定通り魔法を使った。
「『マギ』」
魔法の光がナディアを包む。
ひかりが収まって、ナディアは三人に分裂した。
オリジナルの約三分の一くらいの、ぬいぐるみの様なサイズになった。
服に名札みたいなのがついてて、それぞれ、
「ルシオくん好き」
「シルヴィ好き」
「みんな好き」
とある。
「なにこれなにこれ、どうなってるの?」
「なんか可愛くなっちゃってる」
「ルシオくんこれどういう魔法?」
三人のちびナディアが文字通り姦しくきいてきた。
「その人の中にある性質を三つに分けて、一時的に分裂させる魔法だ。その胸もとのに書いてる通り三タイプのナディアって事だな」
読んだマンガでは「女の自分」「母の自分」「科学者の自分」みたいな話だった。
ナディアの場合おれスキーと、シルビアスキーと、みんなスキー。
おれとシルビアが抜きん出てて、他の家族(多分)がまとめて別枠って事か。
ナディアらしいな。
「へえ、そうなんだ」
「おもしろいじゃーん」
「でもなんで三人なの?」
「三人っていうのが、一番少人数で多数決をビシって決められる数だからな」
「「「おー」」」
チビナディアは三人揃って納得した。
「さあ、三人で多数決取ってみなよ。昼寝するかどうか」
「うん! じゃ……昼寝しない方がいいって思う人――はい!」
「はい」
「はいはい!」
三人揃って手をあげた。
これは驚いた、迷ってるからてっきり多数決割れると思ったんだが。
多数決を取った直後ナディアは元に戻った。
そんな彼女にきいてみた。
「満場一致で昼寝しないになったな」
「だって、ルシオくんが面白い魔法をつかったんだもん。昼寝なんてしてる場合じゃないもーん」
「なるほど」
これまたナディアらしい理由だ。
眠いから昼寝をするかどうかで迷ってても、新しい魔法を見れば全部吹っ飛ぶってことか。
「ねえねえ、この魔法って三人にするだけなんだよね、別に多数決とかしなくてもいいんだよね」
「ああそうだ」
「ちょっと待ってて!」
ナディアは外に駆け出していった。
何事かと待ってると、彼女はすぐに戻ってきた。
「どうした」
「もうちょっと待って」
ニコニコしながら言うナディア。
待つのは問題ない、おれは言われた通りもう少し待った。
図書館から持ち帰った魔導書を読んでのんびり待った。
しばらくして騒がしい物音がして、飼い猫のマミが入って来た。
マミだけじゃない、彼女は簀巻きにしてるイサークを連れてきた。
「狩ってきた」
「おー、偉いねマミ。いい子いい子」
「……」
ナディアはマミの頭を撫でた。
マミはつまらなさそうにしつつも、まんざらでもなさそうに頬を赤らめた。
「ルシオくん、お義兄ちゃんにも」
「そうだな」
イサークを三つに分けたらどうなるのか興味はある。
「『マギ』」
魔法を使って、彼を三つに分かる。
魔法の光の中からあられたのは三分の一大になった、三人の簀巻きにされたイサークだった。
簀巻きのムシロにそれぞれ、
「かっこいいおれ」
「モテモテなおれ」
「世界最強なおれ」
「あはははは! お義兄ちゃんすごい自信だ」
ナディアに大うけだった。
しかし、イサークよ。
その自信は一体どこかからくる。
マミにイサークを元に戻すように言って、ナディアは更におねだりしてきた。
「ねえねえ、もっと色々やってみようよ色々」
「そうだな」
「あっ、シルヴィだ。シルヴィこっち来て」
「どうしたのナディアちゃん」
「ルシオくんお願い」
「うん」
魔法をかけて、シルビアも三人にする。
「お淑やかなシルビア」
「泣き虫なシルビア」
「おねしょが直らないシルビア」
「「「きゃああああ」」」
三人のチビシルビアが同時に悲鳴を上げた。
元に戻ると、シルビアは真っ赤な顔で逃げ出した。
「大丈夫なのかな」
「大丈夫大丈夫、あたしが後で叱っとくから」
「え? 叱る?」
「おねしょは早く直さないとね」
「ああ……」
もうここまで来たら治さなくてもいいかなって思う気もするけど。
その後も色々な知りあいに『マギ』をかけて回った。
みんなそれぞれ違う三人になって、結構面白かった。
そして、アマンダさんと出会う。
「……」
「……」
「……」
「……」
「どうなさいましたか、旦那様、奥様」
「アマンダさんはやめよっか」
「うん、やめよう」
なんか怖い気がする。
アマンダさんのそれ、暴かない方がいい気がした。
おれもナディアも危機管理は完璧だった――が、その分不完全燃焼感がした。
そんなときに、
「おーい、余の千呪公や」
国王が屋敷を訪ねてきた。
「いけルシオくん! 王様に魔法だ!」
「ガッテン!」
ナディアのコマンドにおれはノリノリで魔法を使った。
『マギ』を国王にかけると、
「余の千呪公LOVE」
「余の千呪公LOVE」
「余の千呪公LOVE」
と、こんな三人になった。
「「「会いたかったぞよ余の千呪公よ」
ぬいぐるみサイズになった国王三人は一斉に、おれにしがみついてきたのだった。