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いぬあつめ

「ルシオ様、わたし魔法を覚えました」

「へえ?」


 昼下がり、惑う図書館から帰ってくると、シルビアがそんなことを言ってきた。

 彼女は手に本を持ってる。装丁からみて、小説タイプの「新魔導書」らしい。


 新魔導書は誰にでも読めるが、読んだ後一度しか魔法を使えないという制限がある。

 前にナディアに見せてもらったことがある、シルビアはその時のナディアと同じ、小説を読破して一発限りの魔法を覚えたんだな。


「なんの魔法なんだ?」

「使いますね。『キャットコレクション』」


 シルビアは魔法を使った。

 魔力の光が体から立ちこめた後、庭を包み込んで、消えた。

 そして庭の真ん中に絨毯のような、カーペットのような長方形の場所が現われた。


「場所に作用する魔法か。どんな効果なんだ?」

「なんでもホイホイです。魔法を使った時に決めたものがふらふらと集まってきちゃうって魔法です」

「へえ」


 名前でGを連想したが、言わないでおいた。

 何がふらふら集まってくるのって聞こうとしたが、すぐにそれが分かって、聞く必要がなかった。


 敷地の外から子いぬがふらふらやってきた。

 白くてちっちゃくてまんまるで、まるでわたあめのような子犬だ。

 子犬はカーペットの所にやってきて、そこでごろごろし始めた。


「ああああああ、かわいいいいい!」


 シルビアは瞳を輝かせて、子犬に近づいた。

 子犬は寝そべったまま逃げない、顔を上げてちらっとシルビアみただけで、そのままごろごろを続行した。


「なるほど、わんこホイホイにしたんだな」

「はい! 他にどんなわんちゃんが来るんでしょうか。わくわく、わくわく」


 シルビアはわくわくしながら次の犬がホイホイされるのを待った。

 が、いくら待っても次の犬は来なかった。


「どうしたんでしょうか……わんちゃん来ないです」

「……もしかして」

「え?」

「一回限りだから、ホイホイ出来るのは一匹だけなんじゃないのか?」

「あっ……」


 シルビアはハッとした、直後にものすごく落胆した。

 多分そうなんだろう。

 新魔導書は覚えた魔法を一回しか使えない、そしてこの魔法の効果は一回こっきりであるようだ。


 そのためホイホイされてくるのは一匹だけ。

 多分わんちゃんパラダイスをシルビアは期待したんだろう、その分落胆した。


「ルシオ様……キャットコレクション、使えませんか?」

「それは知らない魔法だ」

「そうですか……」

「が、わんこを集める事は出来る」

「本当ですか!」


 シルビアはキラキラ目でおれに詰め寄った。

 可愛い。

 可愛い嫁の為だ、ちょっと犠牲(、、)になってもらうか。


「ココ――、ココいるか――」


 大声でココを呼ぶ、しばらくすると、屋敷の裏からイヌミミの少女が姿を見せた。

 うちの飼い犬、ココだ。


「どうしたんですかぁご主人様ぁ」

「ちょっとそのカーペットの上で座ってて」

「はいですぅ」


 ココは素直に、カーペットの上でちょこんと正座した。

 うん、これもかわいいかわいい。


 そんなココに手をかざして、魔法をかけた。


「『エストレス』」


 魔法の光がココを包んで、消えた。


「ほえ?」

「これでどうなったんですかルシオ様」

「まあ見てなって。あ、ココはそこでごろごろしてていいぞ」

「はいですぅ」


 ココはまたまた素直に、その場で丸まって寝始めた。

 人間っぽい外見に、イヌミミと尻尾を持つ獣人の少女。

 こういう所は本能がでてて、可愛いと思う。


 そんなココのまわりに犬が集まってきた。

 一匹また一匹と集まってきて、ココのまわりをうろうろし始めた。


 やがてみんな、ココに体を擦りつけた。

 ココはうっすら目をあけて、犬を確認すると、べろっと顔を舐めた。

 やっぱり本能がちょっと出てる、かわいい仕草だ。


「うわあああ、かわいいです!」

「そうか」

「わんちゃんがいっぱいきます、ルシオ様ルシオ様! あのわんちゃんの目がすごくかっこいいです、イケメンさんです!」


 集まってくる犬に、特にあとからやってきたハスキーっぽいのに大興奮するシルビア。

 たちまち犬だらけになった庭を、シルビアはうっとりしながら眺めていた。


 『カストレーション』


 おれは密かにフォローの魔法をかけた。

 こうしないとココがヤバイからだ。


 最初にかけた『エストレス』は動物のフェロモンをダダ漏れにさせる魔法で、ココがそうなった事で()犬ばっかり集まってきた。

 その後の『カストレーション』は強制的にエッチな気持ちを抑制する魔法で、ココを守る為だ。


「かわいいです……」


 まさか交尾するためにホイホイされてきたなんて知らないシルビアはわんこ天国にうっとりしていた。

 知らぬが仏だと、おれはそう思いつつ、彼女と一緒に犬たちを眺めるのだった。

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