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嫁と合体したら……

 朝、鳥のさえずりの中、ゆっくりと目が覚めた。

 今日もマンガを読んだりのんびりしたりする一日が始まる――と思っていたら。

 真上から、ベロニカがおれをじっと見下ろしていた。


「……どうしたんだ?」

「ルシオの顔を見ていましたの」

「それはわかるけど、なんで?」

「ルシオ、一度大人になっていただけません?」

「……わかった」


 理由は不明だけど、ベロニカがそう望むのなら是非はない。

 ベッドから降りて、魔法『グロースフェイク』を自分にかけた。

 見た目をごまかすだけの魔法で、おれは自分を大人の格好に変えた。

 ちょこちょこやってる、大人のおれの格好だ。

 ベロニカはそれをじっと見つめてから、更に言った。


「あたくしも大人にしていただけます?」

「姿だけ? それとも心も?」


 嫁の中でベロニカだけちょっと特殊だ。

 彼女だけ元が大人で、本当は妖艶な美女である。

 そんな彼女は今、おれと同じくらいの八歳の姿だ。

 かけた魔法は『リコネクション』。見た目だけじゃなくて、人格を見た目相応の年齢に一緒に変える魔法だ。

 そんな彼女を大人の姿に戻すのなら、人格面もどうするんだ、と聞く必要がある。


「見た目だけで結構ですわ」

「わかった――『グロースフェイク』」


 魔法をかけて、ベロニカを大人の姿にした。

 赤い髪が長くなって、露出の多いドレスになって。

 妖艶な美女・ベロニカに姿を変えた。

 ベロニカはおれの横に立った。

 腕を組んで、部屋の隅っこにある姿見の前につれて行った。

 並んで、一緒に鏡に映って、それをじっと見つめる。


「……」

「どうかしたのかベロニカ」

「今度は二人とももっと子供にかえて下さるかしら。そうですわね、三歳くらいに」

「分かった」


 何も聞かないで、もう一度『グロースフェイク』をかけた。

 大人な二人がみるみるうちに縮まって、元の姿よりも更に幼い三歳児になる。

 ベロニカはお手々をつないできた、鏡に映っておれ達はちょっと可愛かった。


「……なるほど」

「どういう事なんだ?」

「ルシオとの子供がどんな見た目になるのか気になりましたの」

「子供!? ああそれで大人になったり子供になったり」

「そうですわ。おかげで大体わかりましたの」

「どうせなら本物にあうか?」

「本物? そういう魔法がありますの?」

「ああ」


 頷くおれ。ベロニカは少し考えて、頷いた。


「お願いできるかしら」

「任せろ――『タイムシフト』」


 おれはまず、『タイムシフト』で一時間後の自分達を呼び出した。


「よう」

「待ってましたわ」


 一時間後のおれたち、ルシオダッシュとベロニカダッシュがニコニコしたまま現われた。


「未来のあたくしたち、ですの?」

「ああ、この二人に――」

「おれがやるよ」


 未来のおれが言って、魔法を使った。


『ネクストジェネレーション』


 お手々をつないで、魔法を唱えた途端、ルシオダッシュとベロニカダッシュが光になって、その光が溶け合って一つになった。

 光は徐々に収束して、やがて一人の女になった。

 女は真っ赤な長い髪を伸ばして、露出の多い鎧――いわゆるビキニアーマーを身につけて、体くらい大きい剣を持っていた。


「ここは――って父ちゃん母ちゃんじゃないか。その姿って、また魔法でなんか遊んでるのか?」

「あなた……は?」

「何とぼけてんだ母ちゃん、自分の娘の顔を忘れたのか?」

「娘!?」


 ベロニカはびっくりして、ぱっとおれの方をむいた。


「『ネクストジェネレーション』、男と女が合体して、その二人の子供に姿を変える魔法だ。結婚前にちょっとした相性占いとかにも使えるぞ」

「実際に生まれない子供でも?」

「そうだ、この二人だったらこういう子供が生まれる、って魔法だ」

「そうでしたの……」

「なにごちゃごちゃ言ってるのかわからないけど――ってここ都の屋敷? っていうか新しい? なんだこりゃ」


 おれとベロニカの娘はガッシャンガッシャンと鎧をならして窓際にかけていった。

 見た目は大人のベロニカによく似てる。

 性格は――ヤケにがさつっぽいな、誰に似たんだろ。


「見た目はあたくしに似てますわね」

「そうみたいだ」

「ナディアにでも育てられたのかしら」

「おじいちゃんたちに甘やかされてああなった可能性も」

「たしかに!」


 将来生まれるかもしれない娘を、ベロニカと二人で評論しあった。

 そうしてる間に合体の魔法が切れて、未来から呼び寄せる魔法も切れた。

 ルシオダッシュとベロニカダッシュはおれたちにウインクを残して、未来へ帰っていった。


「ねえルシオ、あれって」

「ああ。せっかくだから他の子供もみるか」


 ベロニカと頷きあう。

 もう一回『タイムシフト』を使って、今度はおれとシルビアを呼び出した。

 ウインクを残して行った未来のおれは何もいわないで、すぐに『ネクストジェネレーション』をつかった。


「あれー、ここどこ?」


 現われたのは、金色のロングヘアーで、アイドル衣装を纏った女子高生くらいの女の子だった。

 見た目は間違いなくシルビアの子供だってくらいそっくりだが、性格がかなり活発で明るそうなかんじだ。


「ってパパじゃないの。ライブ見に来てくれたの?」

「ライブってなんの事ですの?」

「ベロママもいる、あれ? これどういう事?」

「それよりもライブ前に一曲聴かせてくれるか?」

「うーん、わかった。リハーサルがてらに歌ってみる」


 おれの提案に乗った娘が歌い出す。

 ノリノリで歌って踊った。

 パフォーマンスはほぼ完璧だった。

 振り付けも歌も、全身から放っているオーラもアイドルそのものだった。


「シルビアの娘はこうなるのですわね」

「一度飲ませてみたいな、母親と同じ泣き上戸なのかどうか」

「……あたくしの子は飲まなくても脱いでましたわね」


 複雑な顔をするベロニカ。

 前に酒を飲まなくても酔っ払う魔法・『リバースソーバ』を使った事がある。

 その時に酔っ払った嫁達はそれぞれ普段とは違った一面を見せてくれた。

 シルビアは泣き上戸で、ナディアはキス魔、ベロニカは脱ぎたがりになっていた。

 ベロニカの娘がビキニアーマーを着ていたのがそれと関係あるとは思えないけど、ベロニカ本人は複雑そうだ。

 やがて曲が終わって、アイドルな娘は『ネクストジェネレーション』からおれとシルビアに戻って、『タイムシフト』も切れて二人は消えた。


「次はナディアがいいですわね」

「わかった」


 三回目のタイムシフト、そして三回目のルシオダッシュによる合体魔法。

 みらいのおれとナディアが合体して、緑髪の赤ん坊になった。

 赤ん坊はハイハイをやっと出来るくらいの年齢で、まわりをきょろきょろと見回して、あれこれイタズラをはじめた。

 カーテンによじ登ろうとしてひきちぎったり、ベッドシーツを噛んでよだれでべとべとにしたり、どこからともなく取り出したクレヨンで床に落書きをはじめたり。

 元に戻って消えるまで、とにかくやりたい放題だった。


「彼女の娘らしいわね」

「まだまだ子供だけど――確かにそうだな」

「最後、いきますわよ」

「ああ」


 最後のタイムシフト、未来のおれとバルタサルを呼び出した。

 現われたおれとバルタサル。そっちが『ネクストジェネレーション』をつかった。

 バルタサルはそれに誘発して盛大にくしゃみをした。

 魔力の爆発がこっちにきた。

 ちょっと予想外で慌ててガードした。


「ルシオ!? 大丈夫ですの?」

「ああ、問題無い。それよりも子供は?」

「えっと……あっ、いましたわ」


 部屋に充満する魔力の煙が晴れていき、そこに一人の男が現われた。

 おれにそっくりな男、年齢は二十代の半ばのワイルドな青年って感じか。

 格好はマントを身につけてて、態度はとにかく偉そうだ。


「わーははははは、我こそはこの世を支配するバルタサル九世。愚民よ、我にひれふ――ブゲッ!」


 大仰な口上を言い出した青年に、少女姿のベロニカがつかつか近づいていき、ぽか、と頭を叩いた。


「ベロニカ?」

「なんとなくしつけた方がいいと思いましたの」

「そうだな、それは同感だ」


 その後、おれとベロニカはバルタサル九世を正座させて、懇々と説教をしてから返すのだった。

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