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未来からの刺客

「ベロニカ、ちょっといいか」


 ベロニカを探して、屋敷の中を歩き回った。

 リビングにやってきたところで彼女を見つけた。

 が。


「あら、ルシオ」

「あっ、お父さんだ」


 ベロニカと一緒にララがいた。


「ララ!? なんでここに」


 おれは『タイムシフト』を使った覚えはない、彼女はここにいるはずがないんだ。


「お父さんに送ってもらったの」

「おれ? いやおれは……」

「そうじゃなくて、あたしのお父さん」

「……ああ、未来のおれってことか」

「うん! あの後ね、ベロママに話をしたらちゃんとベロママに誤解を解きに行きなさいっていわれて、それでお父さんに送ってもらったの」

「……ごめんよく分からない」

「あたくしがララの事を誤解したのを解きに来たのですわ。ルシオの五人目の妻だってことを」

「あれか」


 たしかにベロニカはそう言ってたっけ。


「それはいいんだけど、納得したのか?」

「未来のあたくしからの伝言をもらいましたもの。あたくしでしか知らないような事を証拠に添えられれば納得せざるをえないですわ」

「……なるほど」


 人間誰しも他人では絶対に知らないような秘密が一つや二つはあるもので、未来のベロニカはそれをララに預けて、今のベロニカに言ったのか。


「お父さんにもあるよ。今でも半信半疑だった、ってお父さんが言ってた」

「ややっこしいな。未来のおれが言ったんだな」

「うん! でねでね、これを言ったら信じてもらえるって」

「どんなのだ?」

「えっとね、ソフトオンデマンド――」

「――良く来たわが娘よ。ゆっくりしていくがいい」


 食い気味でララのセリフを遮る。

 うん、ララはおれの娘だ、未来から来たおれの娘だ。

 少なくとも未来のおれと繋がってるのは確実だ。

 というか……未来のおれよ。

 今度呼び出してぶっ殺す。

 娘になんて事をいうんだお前は。


「ねえねえお父さん、ソフトオンデマンドってなに?」

「子供は知らなくていいことだ」

「お父さんだって子供じゃない」

「おれは大人だ、結婚してるから」


 そう、この世界じゃ年齢関係なく結婚出来る、そして結婚した人間は一人前の大人として見られる。

 つまりおれは大人で、見た目が八歳だろうとX指定的なものはオールオーケーなのだ。


「えー、お父さんズルイ」

「ズルくない」

「ルシオ、あたくしもそのソフト……なんとかのに興味はありますわ。あたくしも大人ですから、教えて下さいまし?」

「うっ……。そ、それは」

「それは?」

「男の夢だ!」

「男の夢?」

「男の夢だ!」


 いまいち納得出来ないって顔のベロニカに、おれはカウンターを放った。


「ベロニカこそ、ララから――未来のベロニカから何を言われたんだ?」

「え?」

「ベロニカも何かいわれたんだろ? 自分しか知らないようなことを」

「そ、それは……」

「それは?」

「……女の夢ですわ!」


 追い詰められたベロニカ、顔を真っ赤にして言い放った。


「女の夢か」

「女の夢ですわ」

「そうか」

「そうですわ!」


 ……なんとなくだけど、追求しない方がいいな。

 いや別にしたらこっちも追求されるという心配とかじゃなくて。

 こっちが追求されるとつらい内容だから、きっとベロニカも同じなんだろうなって思った。

 見つめ合う、互いの目からそれを読み取る。


「詮索は……」

「ああ、なしだ」


 と、合意した。

 それが誰も不幸にならない唯一の方法だろう。


「それじゃあたし帰るね」

「帰るって、未来にか」

「うん、今日の用事は済んだし。また来るね」

「ああ」


 頷き、ララに手を振った。

 ララは手を振りかえしてきた。体が徐々に透明になって、やがてきえた。


「嵐の様な子でしたわね」

「ああ、だれの子なんだろうな」

「知りませんの?」

「ああ、知らない。ただ四人の誰かの子だと思う」

「あら、五人目六人目の妻を作ってるかも知れませんわよ、未来のルシオは」

「それはない」

「なぜ?」

「ララのツインテール、髪留めに二つずつの宝石が使われた。みんなの指輪と同じ色だ。左はシルビアとナディアの、右はベロニカとバルタサルのヤツと同じ色だ」

「あら、よく見てますのね」

「気づいて五人目とか言ってくるのは反則だな」

「そうかしら」

「そうだ」

「そうかしら」


 同じ言葉をリピートしながら、おれの手をそっと握るベロニカ。

 お手々とお手々をつなぐ、おれと嫁達が一番気に入ってるスキンシップ。

 つないで、互いを見つめ合った。

 そうして見つめ合っていると――ドアがいきなり開け放たれる。


「お父さん、あたし帰るね」


 入って来たのは、さっき帰ったはずのララだった。


「ララ? お前帰ったはずじゃ?」

「あっ、あたし二回目だから」

「は? 二回目?」


 どういう事なのかと思ってると、ララの後ろから更にララが現われた。


「あたしは三回目のあたしだよ。終わったから帰るねー」

「四回目参上! さーて帰ってシルママのカレーをたべよっと」


 集まった三人のララ、同時に消えていなくなった。

 なんなんだこれは――と思っていたら。

 部屋の入り口にシルビア、ナディア、バルタサルが現われて。

 三人は頬を染めて、もじもじしながらこっちにやってきた。


「ルシオ様……」

「ルシオくん……」

「ルシオちゃん……」


 三人はおれの前に立って、上目遣いで見つめて来た。。


「どうやら」


 ベロニカがいった。


「同時に四人送り込まれたということですわね」


 ……なるほど。

 時間差で四回、同じ時間軸に来たって事か。

 そして四人の嫁に同時に何かを吹き込んだ。


「みんなも一緒ですのね」


 ベロニカがいって、三人が頷いた。

 どうやら、同じことを言われたみたいだ。

 何を言われたんだろう、気になる。

 それを聞こうとしたが、おれの顔から察したベロニカが。


「言いませんわよ」

「はい、言えないです」

「言えないね」

「ルシオちゃんをいつ好きになったのかだよー」


 三人は黙秘したが、バルタサルは空気読まずにけろっと告白した。


「「「ちょっと!」」」


 三人が同時に声をあげて、バルタサルはきょとんとした。

 ……いかん、これはいかん。

 まさかそう言うのだったとは。

 恥じらいながらおれをちらちら見つめる三人、一人だけニコニコ顔でお手々をつないでくるバルタサル。

 まずい、こっちまで恥ずかしくなってきた。

 そこに――ララが現われた!


「そうだ、お父さんからもう一つ。おれがみんなにプロポーズを決意した瞬間――」

「ソフトオンデマンド!!!」


 あまりの恥ずかしさに、大声をだしてララのセリフを遮った。

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