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小説なんか読めないおれでも世界最強

「ファイヤボール!」


 庭で魔導書を読んでるといきなり魔法が飛んできた!

 とっさにマジックシールドを張ってはじき飛ばす。


「敵か! ――ってナディアじゃないか」


「えへへー」


 八重歯がちらっと見える可愛い笑顔のナディア。今はじいた魔法を撃ってきたのは彼女だった。


 かざした手からぷすぷすと煙が出てて、もう片手に本を持ってる。


 手を下ろして、駆け寄ってきた。


「どうしたんだ。魔導書読めたのか?」


「うん! どうあたしの魔法は」


「びっくりした。すごかった。ファイヤボールって聞こえたけど、威力普通のヤツより強いんじゃないのか?」


「へへ、この魔導書のおかげだよ」


 そういって魔導書を俺に見せるナディア。


「そうか――あれ?」


 思わず魔導書を二度見した。


 ファイヤボールはおれも使える。それの魔導書も読んでる。


 読んだ魔導書は大抵覚えてるから覚えた違和感。


 その魔導書は、まったく見た事のない外見だった。


「おれが知ってるファイヤーボールの魔導書と違うな」


「あっ、気づいちゃった?」


「気づいちゃったって、どういう事だ?」


「あのね。これ、最近はやってる新・魔導書っていうんだ」


「新・魔導書?」


「うん。すごく読みやすくて、大抵の人は読めちゃうけど、その代わり読んでも一回しか魔法を使えないんだ」


「へえ、そんなのがあるんだ」


「うん! すっごく流行ってるんだ。みんな買ってるよ?」


「へーどれどれ、って」


 魔導書を受け取って、開いたおれは目を疑った。


 直後に、何となく納得した。


 新しい魔導書、そこに絵はなかった。


 まったく絵がなくて、文字がびっしり。


 ある意味おれが転生する前に持ってる魔導書のイメージより近いもの。


 それは……小説だった。


 文字だけで物語をつくる、小説だったのだ。


「どったのルシオくん?」


「え? ああいや、おれが普段読んでる魔導書と大分違うなって」


「そりゃそうだよ。だってみんな普通に読めるんだもん。ルシオくんが読んでるのと違うのは当たり前じゃん?」


「そうなるのか……ふむ」


 新・魔導書(しょうせつ)をぱらぱら最後までめくる。


 絵は一枚もない、全部文字だ。


「これだとみんなよめるのか?」


「うん。あたし、半日くらいかかったけど読めたよ」


「半日……小説だと妥当な速度だな」


「それでね、はいこれ」


 どこに隠し持ってたのか、ナディアはもう一冊の本をだして、おれに手渡した。


「なんだこれ」


「別の魔法。これを読んであたし達に使ってね?」


「たち?」


「シルヴィとベロちゃんとはっちゃん」


 嫁達のことか。


「じゃ、お願いね」


 ナディアはそう言ってパタパタ走って去っていった。


 おれの手元に魔導書だけが残った。


 これを読んで一回だけ使える魔法を嫁達に使えばいいのか。


 よし。


 おれは新・魔導書を開いた。


 びっしりつまってる字を読んでいった。


 ……。


 …………。


 ………………。


「だー!」


 本を投げ出した。


 読めるかこんなもん!

 小説なんて生まれてこの方読んだこともないわ!

 半ページだけで精神力ごっそり持ってかれたわ!

 いやいや、ナディアのおねだりだ。ちゃんと読んで魔法を覚えないと。


 本を開く。


 ……。


 …………。


 ………………。


「小説書く人とかしね!」


 本をまた投げ出した。


 半ページだけでやっぱり先に進まない。


 マジ読めない、小説とか全然読めない。


「くっ、まずいぞ。このままじゃ」


 ナディアの失望する顔が頭に浮かんだ、他の三人も同じだ。


 おねだりをかなえてやれない俺に失望する顔が。


 なんとかしなきゃ。しかしどうすればいい。


 なんの魔法なのかも分からない、そもそも覚えてるかどうかも。


 くっ……まずい。


 どうにかしないと、どうにか。


「旦那様」


「アマンダさん?」


 アマンダさんが現われた。


 いつも通りの無表情な顔に近いアマンダさん。


 彼女はおれに、一冊の本を差し出した。


「これは?」


「魔導書でございます」


「魔導書? なんの?」


「旦那様が持ってらっしゃる新・魔導書と同じものでございます」


「同じもの……?」


 魔導書を受け取ってページを開く。


 見慣れたコマ割り、全篇絵で構成される内容。


 実家の様な安心感――マンガだ!

 そして……一コマ目。


 おれがギリギリ読めた半ページの内容がその一コマ目と同じだった。


「これなら読めるぞ」


「それはようございました」


「ありがとうアマンダさん!」


「はい。ではわたしはこれで」


 アマンダさんはしずしずと頭を下げて、去っていった。


 なんでアマンダさんがこんなものをもってるのかは聞かなかった。


 だってアマンダさんだから。


 おれは小説を捨てて、マンガを読んで。


 覚えた魔法で、ナディアのおねだりをかなえてやった。

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