マンガを読んでるおれが世界最強
ミ・アミール郊外、街を一望できる小丘の上。
話を聞いて、国王の依頼を受けてきてみたけど、予想以上にヤバイ状況だった。
なぜなら丘の上から見える街は、兵が9分に民が1分、って感じだ。
人口がせいぜい百人ちょっとな街っていうか村っていうかなところに、それを遥かに上回る兵が駐屯してる。
いや、これはもう砦だな。
民よりも兵が多かったら実際は砦みたいなもんだ。
「兵士さんがいっぱいですね」
「うじゃうじゃいるね。あれ全部倒さなきゃいけないの?」
「そうしなければなりませんわね、放っておくと戦火が広まる原因にもなりかねませんし、火種は小さいときにつぶした方がいいですわ」
「すぴぃ……」
……。
おれのそばに四人がいた。
シルビア、ナディア、ベロニカ、バルタサル。
薬指に魔法の指輪をはめた、四人の幼妻。
おれはこう思った。
何故、ここにいる。
「どうしたんですかルシオ様。わたし達の事をじっと見つめて」
「なんでここにいるんだ?」
ストレートに疑問をぶつけることにした。
今回の件、国王から依頼されたのはおれだ。
2000人程度の兵、おれがぱぱっとやって、ぱぱっと終わらせるつもりだった。
それが全員くっついてきた。何故なのかこれが分からない。
「同行するのは当然ですわ。妻ですもの」
「しかし危ないぞ、今回のは」
「なにいってるのさ」
パンパン、とナディアに背中を叩かれる。
いつものように明るい表情で八重歯を覗かせながら笑う。
「もっと危ないことだってしたことあるじゃん。ルシオくんと一緒にさ」
「なんかやったっけ」
「その、一緒に魔王と戦ったことも……」
おずおずって感じで話すシルビア。
言われて、思い出す。
魔王バルタサル。おれを付け狙い、何かにつけては異空間に召喚して無理矢理戦いを挑んでくる元魔王。
何回か嫁達を巻き込んだこともある。
たしかに、あれに比べればちっとも危険じゃないな。
たかが2000人の兵、危険なんてあってないようなもんだ。
それでも対応を考え直さなきゃならん。
おれは頭の中で魔法を検索し直した。
大分前に五桁を越えた、マンガを読んで覚えた魔法を。
一万冊以上読んで覚えた様々な魔法の中からこの状況に適したものを探す。
そうしたんだが。
「じゃあちょっと行ってくるね」
ナディアはそう言って駆け出した。
「ちょっと行ってくるって、ナディアどうするつもりなんだ」
「変身」
薬指の指輪にちゅっ、ってキスをするナディア。
瞬間、指輪の宝石が光を放つ。ナディアの服が一瞬で消え、また一瞬で衣装に着替えた。
魔法少女としての衣装を纏うナディア。
「へ、変身」
「変身、ですわ」
シルビアベロニカも、ナディアに倣うように指輪にキスをして、魔法少女に変身をした。
三人ともちょっと前におれと契約して魔法少女になった。
いくつか魔法を組み合わせて、彼女達が結婚指輪にキスをすると魔法少女に変身して、おれの魔法を代行で一個使えるようになる。
「いってきます、ルシオ様」
「見ててねルシオくん!」
「あなたはそこでお茶でもすすってるといいですわ」
三人の魔法少女がミ・アミールに向かって飛んで行った。
しばらくして、三人の勇姿が見えて来る。炎と氷と風、それぞれの魔法を操って戦う三人の魔法少女を。
「すごいな……うわ、ベロニカ容赦ないな。あいつらお前の祖国の兵だろうに」
三人の前に兵士は次々倒されていった。遠くから見てるのもあってかまるでゲームの無双シーンに見えてしまう。
ぶっちゃけ、自分でやるのとは違う爽快感があった。
「すぴぃ……ふぇ?」
おれの隣でねてたバルタサルが起きた。
寝ぼけた目でまわりをきょろきょろしてから、おれを見てにへら、と笑う。
「おはよールシオちゃん」
「おはよう」
「あれ? みんなは?」
「あそこだ」
三人の魔法少女が飛んで行った先を指す。
バルタサルはそこを見て。
「なんか楽しそう」
「いってくるか?」
「バル、魔法は使えないから行ってもたのしめないんだよ?」
「それなら大丈夫だ、なんとかする」
「うーん。じゃあちょっと行ってくる」
四人目の幼妻、現魔王バルタサル八世がとたたたと走り出した。
おれが魔法をかけようとするとくしゃみをして魔法に誤作動を起こすから、彼女だけ契約して魔法少女になってない。
そんな彼女がシルビアのところにたどりついた。おれは自分にかかってる魔法を解いた。
シルビアが魔法を使い、バルタサルがそれに反応してくしゃみをした。
彼女は何故か、おれの魔法に反応してくしゃみをする。
それだけなら良いが、くしゃみ自体魔王の魔力を同時に放出するからかなりの破壊力を持つ。
それを普段は魔法を使って、まわりに被害が出ないようにおれに向けるようにした。
それを調整して、バルタサルの近くの兵士に向けるようにした。
無双キャラが一人増えた。
バルタサルはあっちこっちでくしゃみをして、兵士を蹴散らしていく。
四人の嫁が活躍する光景を眺めるおれ。
「『エアクッション』」
空気のソファーを作り出して、そこに座って、魔導書を読み出す。
まるでテレビを見ながら、CM中にマンガを読むような感覚で。
丘の上でおれは、マンガを読んで、応援をおくり続けた。
四人の嫁はおれの代理をして、マンガ一冊読み終えるまでの間で2000人の兵を一掃したのだった。
おかげさまで連載100話到達しました。
150話目指してがんばります!




