最初の家
「わたくし、土地と建造物の売買をさせて頂いてます、カルロス・ジェネと申します。この度はご用命頂きまして、誠にありがとうございます」
屋敷の応接間、一人の商人がおれに頭を下げていた。
「ルシオ・マルティンって言います。どうぞ」
カルロスを座らせた。
「マルティン家のご子息様の力になれる事は大変光栄なことと存じます。なんでもお申し付け下さい」
ものすごく下手に出られた、もはやへこへこしてるって言ってもいいくらいだ。
これからの事を考えると、ちょっと申し訳なかったりする。
「ごめんなさい、マルティン家として買うのじゃなくて、ぼくが自分で稼いだポケットマネーで買うんだ」
はじめてあう大人だから、おれは子供モードで話した。
「だから、すごく安い家しかかえないんだ。本当にごめんなさい」
「何をおっしゃいますか」
カルロスは満面の笑顔を浮かべたままいった。
「マルティン様のお手伝いできるなんて名誉の極みでございます。それに、今の話でますます感服いたしましたぞ」
「えっ、どうして?」
「ルシオ様はご自身で稼いだからとおっしゃいましたが、当方商売をはじめて三十年。八歳の子供――失礼、八歳の男の子が自分の稼ぎで家を買うなんて聞いた事もございません。さすがはマルティン様と言わざるを得ませんな」
……確かに、普通の八歳の子供が自分の稼ぎで家買うなんてあり得ないわな。
カルロスは色々と大げさにおだててくるけど、おだてるのに値する理由はちゃんとあるから、ちょっと気分良かった。
「さて、どのような物件をお探しですか」
「予算は500万セタ」
まずそれを伝えた。
それは譲れないラインだ。
ナディアで1000万使ってしまったから、マルティン家の援助を頼らないとなると、500万が出せるぎりぎりだ。
「なるほど」
「それと巨大なベッドを置ける部屋が一つ。それ以外は全部妥協するよ」
「巨大なベッドですか?」
「うん、大体これくらい」
おれは立ち上がって、部屋の中をぐるっと回って、大体の大きさを伝えた。
いまおれの部屋に置かれてるベッドのサイズだ。
おねしょがちなシルビアのために、ベッドだけは今まで通り大きいものにしたい。
「なるほど」
カルロスはあごを摘まんで、がんがえた。
「では、こういうのはどうでしょうか」
おれはカルロスに連れられて、実際に物件を見に行くことにした。
☆
「わー、すごい広い」
カルロスにつれてこられたのは、バルサの街の外れにある空き家だった。
一階しかない平屋で、かなり年季が入ってるのか、はっきり言ってぼろい。
台所とかトイレとか一通り揃ってるけど、とにかくぼろい。
だけどおれが要求した通り、あのベッドが丸ごと入るでっかい部屋があった。
一緒に来たシルビアとナディアが家の中に入って、あっちこっち見て回った。
玄関先に立ったまま、カルロスがおれに聞いてきた。
「いかがでしょう。正直極端すぎる気もいたしますが、条件に合致する事はするので」
「うん、いいかもしれない。これでいくら位なの?」
「400万セタ」
「予算よりちょっと安いね」
「ここが極端に安いのです、理由はご覧の通り」
だろうな、これだけぼろかったら安いのも納得だ。
「ここ以外ですと、ちょっと訳ありのようなものが増えてしまいます」
「訳あり?」
「霊が出るとか、前の住人が……だったり」
自殺とかか、そりゃ良くないな。
おれはいいけど、むしろその辺魔法でどうにかなるけど、シルビアが良くないな。
ヘタしたら毎日おねしょしそうだ。
おれは家の中を見た。
うん、いいかもしれない。
最初の物件としてはいいかもしれない。ここからスタートして、どんどんいい物件に住み替えていくのも楽しい気がする。
おれは二人の女の子に近づいて、聞いた。
「どう? シルビア、それにナディア」
「ルシオ様」
「ルシオくん」
「どう? ここは」
「わたしはルシオ様と一緒なら、どこでもいいです」
「そうか。ナディアは」
「ここ、落ち着く気がする」
「じゃあ決まりだな」
おれはカルロスの所に戻って、言った。
「ありがとうね、カルロスさん。ここ、買わせてもらうよ」
「お役に立てて何よりです。では早速契約の方に――」
☆
夜、早速魔法で運んで来たベッドの上に、シルビアとナディアとの三人で寝そべっていた。
「なんか静かだね」
シルビアが言った。
「この家にはおれたちしかいないからな。あとものが少ないから、余計にしーんってなるんだ」
「そうなんだ」
「ねえルシオ様、あしたになったらお部屋のお掃除しましょう」
「ああ、いいな」
「あそこにある部屋をご本の部屋にしましょう。そこにルシオ様のための魔導書をいっぱいおくの」
「いいな。じゃあその隣の部屋を衣装部屋にしよう。シルビアとナディアの衣装をたくさん詰め込むための部屋」
「わ、わたしのも?」
「ああ」
おれはナディアの手を取って、言った。
「シルビアといっしょに、いつも可愛らしい格好をしててくれ。おれの可愛いお嫁さん」
そういうと、ナディアは頬を染めた。
ナディアと手をつないで、シルビアとも手をつないで。
色々世間話をして、手をつないだまま寝た。
こうして、おれは最初の家を手に入れて、嫁達との新生活をはじめた。
明日から、ちょっと稼がないとな。
八歳で自分の稼ぎで家を買った男の子、と言うお話。