転生
目を覚ますと、全然知らない場所にいた。
どうやらおれはベッドの上に寝てるけど、寝てる場所がまったく知らない場所。
一人暮らしのかび臭い安アパートでも、実家で物置に化しているおれの部屋でもない。
広くて天井が高くて、やたら広いベッドが置かれてる部屋だ。
なんでここで寝てるんだ?
記憶をたどる、寝る前の記憶を。
たしか本屋にマンガを買いに行って、その帰り道で突っ込んできたトラックにはねられて――ってはねられて!?
おれは慌てて体を確認した。起き上がってベタベタ触った。
特に怪我はない、ないのだが。
体がおかしい。
張りのある肌に、プニっとした短い手足。
まるで子供、それも幼稚園くらいの子供って感じだ。
手を動かしてみた。動く。
足をバタバタしてみた、バタバタする。
グワシッ! は指が短すぎでできない。
とりあえずやろうとした通りに体は動く。
ってことは、このガキの姿がおれなのか?
どういう事だ?
最後の記憶が交通事故、目が覚めたら子供の体になってる。
これってもしかして……異世界転生?
「おはようございます、お坊ちゃま」
「え?」
声の方向を向いた。メイドが見えた。
ロングスカートにエプロン、萌え系じゃなくてちゃんとしたメイドだ。
メイドはおれの方に近づいてきて、ぺこりと頭を下げて、言った。
「おはようございます」
「お、おはよう?」
「失礼いたします」
メイドが服を脱がそうとしてきた。
「ちょ、ちょっと?」
「どうなさいましたか?」
「どうなさいましたかって……何をするんだ」
「なにって、いつも通りお坊ちゃまのお着替えを手伝わせて頂くのですが。なにかまずかったでしょうか。あっ、もしかしておねしょ――」
「そんなことはしてない!」
ヤバイ濡れ衣を着せられそうになったから、かぶってたシーツをぱっと広げた。
「でしたら、問題はないですよね」
「……うーん」
訳わからないうちに、とりあえずメイドに着替えさせられた。
髪をくしですかされて、パジャマを脱がされて別の服に着替えさせられた。
貴族っぽい服だ。
「失礼いたします」
同じ事をいって、メイドが部屋から出て行った。
やっぱり訳がわからなかった。
状況をもっと把握するために、おれは部屋を出た。
廊下を歩き回って、きょろきょろあれこれを見る。
いた場所は建物の二階だったので、階段から一階におりた。
一階も見て回る。どうやらちょっとした屋敷みたいだ。
一人のおじいさんを見つけた。じいさんと目が合った。
「ちゃんと起きれたのかルシオ、感心感心」
おじいさんはおれの頭を撫でた。
ルシオ……ってのはおれの名前か?
「えっと……」
「どうした、まだ眠いのか?」
「そうじゃないけど……ルシオって?」
「自分の名前を忘れたのかルシオ。やっぱりまだ寝ぼけてるようじゃな」
どうやら本当におれの名前らしかった。
おじいさんは愉快そうに笑う。
「ねえねえ、おじいさんはだれ?」
おじいさんに聞いた。コ○ンばりの子供モードを意識して。
「じいちゃんの顔をわすれたのか、んん?」
おじいさんはやっぱり楽しそうに言って、更におれの頭を撫でた。
このおじいさんがルシオの祖父ってことなんだな。
「どうやら本当に寝ぼけてるようじゃな。朝ご飯食べたら二度寝するといい。じいちゃんは書庫で本を読んでるから、昼くらいに遊ぼう」
「本?」
「本は好きか?」
おじいさんが聞いてきたけど、どう答えていいのかわからない。
だって、プロフィールの趣味欄に「読書」って書きながら、読んだものが全部マンガだから。
マンガは大好きだけど、「書庫」って所にマンガはないよな。
「よし、じいちゃんの書庫を案内してやろう」
じいさんはおれを抱き上げ、歩き出した。
そしてある部屋に入る。
「おお」
部屋の中は本棚ばかりで、本がぎっしりだ。
おじいさんはおれを下ろした。
「どうだ、すごいじゃろ。おじいちゃんが生涯かけてあつめた魔導書の数々じゃ。個人でこれほど集めてるのはなかなかないぞ」
「まどうしょ?」
聞き慣れない言葉が出た。
「うむ、魔法やスキルなどを記載した書物の事をいうのじゃ。読みほどけば魔法などを覚えられる魔法の書物、二重の意味でな。この部屋だけでこの屋敷の数個分の値打ちはあるのじゃ」
「そうなんだー」
またよく分からないけど、その魔導書ってのはものすごく高価なもので、読めば魔法とかスキルとかが使える様になるのか。
「すごいね」
「おじいちゃんは読みかけのヤツを読んでるから、ルシオも興味を持ったら好きなのを読んでいいぞ」
そう言って、おじいさんは部屋の一冊の本をとって、部屋の真ん中にあるロッキングチェアに座った。
それを開いて、うんうん唸る。
よっぽど難しいのか、ページを全然めくれてない。
魔導書ってのがどんな本なのか気になって、近づいて、チェアをよじ登ってのぞき込んだ。
「え? マンガ?」
おじいさんがうーんうーん唸りながら読んでいたのは、普通にマンガだった。