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異本昔話  作者: うどん
2/2

MOMOTARO

 僕は桃太郎。

この度、異民族討伐の旗頭に選ばれた。


 実は僕はこの国の遥か未来にある平成という年号からやって来た。

というか、その時代から昔々の時代へ転生したと言えばもっとわかりやすいだろうか?


 元は普通の一般的な日本人だった僕にこの時代は異質すぎた。

少し物事を語れば神童だと言われ、瞬く間に祭り上げられて鬼謀神算の将と名が広まり、

少し運動能力を発揮すれば、この時代には少ない手足の長い前世の通りの体つきに、

電気も何もない故に多くの肉体労働を熟した筋肉が他者に対して圧倒的なリーチで優越した。


 そうしている間に、そんな天才が郊外の老夫婦の年老いてからできた子供であるはずがない、

きっとどこかの高貴なる血統の落とし胤だと勝手に噂されるようになってしまった。

身投げした若い女性が川から流れてきたので子供ができない老夫婦の妻がそれを助けて、

旦那の子供を無理矢理産ませた後、殺して子供を奪った。

そしてその女性は名家の姫だと言う名誉棄損も良い所の酷い話ができていた。


 僕は勝手に貴族の世界に組み込まれるのが嫌だったから政略結婚はひたすらに断り続けた。

その様が何故か逆に評価されて、多くの娘さんやその親御さん達に以前以上に婚姻の話を送られるようになった。


 そんな中、それを妬む勢力と、その勢力を利用して僕の立場を貴族社会でも盤石にしようとする勢力の思惑により、

僕は異民族討伐大将軍に任命されてしまった。


 正直、戦争なんて経験があるわけもないし、やりたくない。

けれど誰もが僕に戦争に行けと言う。僕の事を好きな人も僕のことを嫌いな人も一様にいう事は同じだ。

しかしいかないと言う訳にはいかない。

どうせやるなら楽しくやろうと言ってくれる者もいるが、戦争アレルギーな近代日本に生まれた身としては、

戦争は楽しいとは思えない。けれどやるからには死にたくは無いので全力は尽くそう。


 そんな僕に与えられた戦力は3家の戦力。

一つは犬神(いぬがみ)家。古くから続く拝屋の一族であり、そのルーツは神職であることは有名だ。

僕の最大のスポンサーの一人であり、当主の妹との結婚を当主と妹両名から迫られている。

彼らは呪われた一族であり、多くの呪いを抱えて、多くの呪いを振りまく呪術師の家系だ。

当主は犬歯が牙の様に長く伸び、若くして全ての体毛が白髪になっている。

当主の妹も片目だけ目の色が違い、背中には文字の様な痣が付いていると当主から聞いている。

見た目は可愛いが結構気が強くて押しも強い。

…背中の痣については直接僕が見たわけではない事はこの際はっきりと言っておきたい。

―――――――――――――――いや、嘘です実は生で見ました。

でも仕方ない理由がある。犬神家に泊まった時に風呂場に乱入されて、

背中の痣を見せられたのは完全に不可抗力だと思うんだ。

それを「どう思います?」なんて言われたらどうとも思わないとか、綺麗な背中だとか褒めるしかないし、

白髪についても、婆みたいなどとはいえる筈も無く、美しい白雪の様だと褒めるのは間違っていないと思う。

そこから感激した風にこちらを向いて抱き着こうとしてきたあの流れは僕の性格と対応を理解した上での罠だと思うんだ。

勿論それ以降は未遂だったことをここに述べておきたい。

当然のぼせた事にして逃げ出したのはヘタレだからではない事は理解してもらいたい。

彼女の兄であり、当主であり、

僕の友でもある犬神喜一郎は関西弁で楽観主義な男だが、時折うすら寒い空気を感じさせることがある。


 その次は猿田彦(さるたひこ)家。

こちらも名家であり、内心は僕を排除したがっているグループのまとめ役だった。

とにかく目立ちたがり屋で血の気が多く気が強い男達が多い家で、

多くの家ともめ事を起こしては相手の家を潰している。

その当主の弟、猿田彦憤太は当主に忠誠を誓う懐刀であり、

今回の討伐に参加したことも機を見計らっては僕を暗殺しに来たのではないかと思っている。

気を休めてはならない。


 そして最後は新興勢力であり、単純な戦力としては前の2家を上回る、雉頓(きざしひた)家。

歴史こそ無いものの、その財力と実質的な発言力は貴族界最大と呼んでも差支えの無い物であり、

しかし、その歴史の無さを他家に突かれて発言を削がれることも多くある為に、

今回の参戦はその拍付と考えられる。犬神家や猿田彦家と違い、

継承権の低い分家の雉女家から物腰の柔らかな哀彦と言う男が指揮を執っていた。



 戦略としては3方向から攻勢を進めて、常に一方向を開ける事により意図的にその方向へ逃がして追い込む。

そして逃がす先にある海岸の先には大小様々な幾つもの島があるが、

その内一つに大きく、そしてそこそこの利便性がある島があった。

そしてそれ以外の島には僕直属の戦力が準備をしている。

最終的にはそれらの戦力で島に逃げた敵軍を取り囲んで兵糧攻めにする。

そういう作戦だった。



 転生者主人公へのご都合主義なのか、小規模の戦闘における戦法クラスの話から、

地域取得における戦術規模における話まで悉く上手くいった。

失敗なんて無かった。それらは単純に彼我の戦力差が圧倒的であり、

そしてこちらの個々の戦力が装備や栄養状態の全てにおいて勝っており、

こちらの知名度や作られた僕の神話的な評判、純粋日本人で無い敵方への悪評、

それによる周囲の地域への根回しによる相手の情報を売らせる情報収集や直接的な農民による攻撃などもあり、

負ける要素は一つも無かった。



 そして僕が考えたものの実行を断念した考えを掬い上げた喜一郎と、

策を更に効果的に仕上げる哀彦、そしてそれを完全に実行する墳太の首脳陣。

そして最も容赦の無く相手を恐慌状態に陥れた犬神軍。

最も広い地域をカバーした猿田彦軍、

最も長い進軍距離を任された雉頓軍。

それら3軍は求められる以上の成果を各地域で上げながら海側へと敵を追い詰めていった。


 敵、『鬼』と呼ばれる彼等は一体何か?

少なくとも人間ではあった。

決して化け物ではない。

だが彼らは日本人では無かった。

俗に言う渡来人と言う古来日本に渡ってきた人々であった。


 彼等は自分たちの国を追われたので、当初その知識と引き換えに追手達から守って貰う為に日本に留まったが、

次第にその勢力を強めて、終いには日本人たちに疎んじられ恐れられる一大勢力となった。

それが日本に居残ることを許さないと言う勢力がいた。

それが、――――――――――――――――――――――――朝廷。

三権全てを握るこの国の最高意思決定機関だ。

力を持つ者は一つでいい。まつろわぬものは全て滅ぼせ。

その命に全ての貴族が承服した。



 道中に危険が無かったわけじゃない。

少年兵が僕に奇襲を仕掛けてきた。

けれど、弓矢の様な飛び道具ならともかく、

栄養の劣った弱い筋力と、

この時代の日本人より手足が長いとはいえ、未来の日本人よりは遥に短いリーチで僕に致命傷は当てられず、

逆に僕にカウンターを受けた所で喜一郎に掴まった。


「おい糞餓鬼、お前の仲間の場所を吐け。」


「誰が言うもんかっ!!」


 相手の子供は異国風の見た目ながらこちらと同じ言語で喜一郎の要請を跳ね除けた。

その事に喜一郎は笑みを深くした。

勿論それは、相手が多くの情報を持つ有力者の子供である可能性を理解したからだ。


「桃さん。コイツ連れてくわ。

なーに、お喋りは得意分野やさかい。ぜーんぶ、

そうぜーんぶ聞きだしたるわ。」


 そう言って少年の両手を瞬く間に近くにあった石で潰すとどこかへ連れて行った。

あの煙を使うのだろうか? あの酒を使うのだろうか? あの巻物を使うのだろうか?

どちらにしろ少年に未来は無く、少年の守ろうとしたものは全て無残に終わるのは予想できた。


 彼が行う事が自軍の利益を生む以上、それを称賛せねばならないが、

その理性を僕の感情が否定して心が痛む。





 数時間後、喜一郎は敵民族の隠れ里の位置と、その規模を完全に把握して帰ってきた。

各将を集めた会議の場でそれは発表された。


「此処に隠れとるんは、女と子供と老人や病人。よーすんによわっちい戦えんのしかおらん。

ぱーっと、景気付けに散してしまおか。」


「はっ? 馬鹿なのか犬神の家の奴は。

無力な女子供を殺すなんて意味もないだろ。

そんな必要性は何処にあるっ!!

幾ら蹴散らせる相手が足りないからってそりゃねえ。

大将も雉頓も呆れてるだろ。

…おいこの馬鹿に2人も何とか言ってやれよ。」


 そんな猿田彦家当主弟に無言でいる僕に変わって、

雉頓家の分家雉女の哀彦が答えた。


「必要があるかという問いには、無いわけではないとしか言えませんが…。

…私は保留、犬神家は攻撃、猿田彦家は反対。

ですから全ては御大将に決めていただきましょう。」


 枠に嵌められた。3人の目が僕を捕える。

最早結論を出さなければならない。

無言で結論を先伸ばそうとするにも限界がある。

なので、希望的観測を込めて意見を出してみる事にした。


「この位置だと、進軍方向とは一致しないから進軍速度の低下とつながらないか?

各地域の軍との連携を崩すことになると思う。

そういう点については大丈夫か?」


 そんな僕の渾身の逃げの一手はよりによって他でもない猿田彦墳太によって崩された。


「大将。それは俺達の兵士を少々見縊ってはないか?

俺達の三家の何処の軍も優秀な兵士と、現場を任せれる将を用意できている。

だから問題はそこじゃない。あんたにとってこれが是か非か。それだけだ。」


 そう言って先程以上に強い視線が僕に向けられた。


「禍根は残すわけにはいかんのは聡明な桃さんならわかっとるやろ。

―――――――――せやから此処で皆殺しにせなあかん。」



 それがきっと正解なのだろう。

滅ぼしつくせれば、ばれることは無い。ばれた所でそんな恐ろしい勢力に立ち向かう者もいない。

しかし、身内における負い目となる。

喜一郎はそれを理解した上で泥を被ってくれている。

他でもない僕の為に、だ。



「――――――――――――――――――――――――――――――命令を下す。

見敵必殺だ。我らが敵を討ち祓え。

虫の音一つも響かないように一掃しろ。

女子供老若男女妊婦赤子病人、一切の区別も慈悲も無く討ち祓え。」


 結論を出した僕にそれぞれ三人が出した答えは、


「ようやった。それでこそ妹婿に相応しい男や。」


「見損なったわ。お前はそんな奴じゃないと思ったんだが俺の勘違いだったようだ。

…安心しろ。仕事はしっかりやってやる。」


「御令承りました。」


そして――――――――――――――――――――血の宴が日夜問わず続いた。





 その様な事はその後は起きず、敵の戦士だけを殺して行けた事は精神的には少し良かった。

途中で女性の敵将もいたが、彼女とは決着がつかず逃亡されて良かったと思えた。

敗北した彼女が止めを刺されるとしたら、きっと何もかもを奪い尽くされた後になった事だろうから。




 そして遂に敵を海に追い詰めた。

此処で僕達は敢えて進軍速度を急速に遅めて、彼らが離島に避難するのを待った。

彼等もやはり人の子で、逃がす順番は女子供と弱い者が最初だった。

そしてある程度の避難が進んだ時僕達は避難途中の敵軍を攻める事にした。


 逃げている味方の為に時間稼ぎをする為に、自分たちが生き残る気は無いのだろう。

彼等は背水にしてそれこそ鬼の様に戦った。彼らにとってはきっと僕達が鬼だという事は誰に言われずとわかっている。



 彼等を皆殺しにして、いよいよ本格的に敵を全滅させる手前と言う時、

僕達の軍はどの家の軍もかなり消耗はあった。だが、このままいけば余裕で勝てる事は幼子にも理解できた。

そんな余裕が余計な思考を生んだのか、それともなるべくしてそうなったのかは判らない。

合流した三軍の内、犬神軍と猿田彦軍がここに来て仲間割れを起こした。

犬神家は猿田彦家を粋がっている癖に臆病者と罵り、猿田彦家は犬神家は野犬の様に誇りも無いと馬鹿にした。

そして戦争が始まった。

ぶつかり合う二軍と、退避してそれを止める機会を伺う雉頓軍。

僕の直轄部隊は既に敵の退避した離島周辺の島に対比している為に使えなかった。


 事の正当性を手に入れる為か、僕はある晩に犬神家の勢力によって連れ出された。

猿田彦家が僕の身を狙っていると言っていた。確かに猿田彦軍の一人が僕を殺しに来ていたが、

明らかに状態が普通では無かった。それこそ何かに操られているように僕に刀を振り回して迫っては、

簡単に犬神家の軍の者に斬られていた。

犬神家も信用できるものかどうか…。

それが起きて数日後、猿田彦墳太が捕えられ、多くの犠牲者を出した内部戦争は終結した。


しかし―――――――――――――――――――――――



「ええ、今こそがチャンスです。

大将、犬神家、猿田彦家を全て滅ぼして雉頓が全てを握るのです。

大将を逃がした事は面倒でしたが、全員殺してから首を検知しましょう。

ええ、それでいい。」


 雉女哀彦が謀反を起こした。

思えば2軍の内部戦争も彼らが手引きしたのだろう。

そして僕の直轄軍も今は海の向こう。

僕達が敵軍に対してそうしようとしていたように、浜を制してしまえば、

僕の直轄軍も同じように兵糧攻めを受けて滅びる。


 これを理由に雉頓家を悪にして敵軍と共同戦線を張って友和を結べないか?

一瞬その様な考えが浮かんだが、それも無駄だとすぐに分かった。

そうなれば今度は朝廷に僕が滅ぼされる。


 先程まで争っていた2軍の内、犬神家の方は消耗が少なかった為か、すぐに雉頓家と戦う準備ができていた。

猿田彦軍の方は未だ混乱しているのか、動きが鈍かった。

そして雉頓家優勢で戦力がぶつかる中、遂に刺客が僕の所にやって来た。

喜一郎が初めて見る素でしまったと驚いた顔でいるのを見て、死ぬ間際だと言うのに少し得した気分になってしまった。

しかし僕は死ななかった。



――――――――――――――――――――――縄を抜けた墳太が僕を庇って刃を受けたからだ。


「なんで…?」


「お前は俺達の大将だ。んなことも忘れたのかクソッタレ…」



 暗殺者はすぐに逃げようとしたものの、刺さった刃を握りこんだ墳太によって行動が遅れ、

そこを喜一郎に斬られた。

呆然とする僕に変わって喜一郎が墳太の傷口に手当てをしているが、アレは誰が見ても無駄だった。

もう間に合わなかった。



 喜一郎は切り替えが早い男だ。

瀕死の墳太を抱き上げて犬神・猿田彦両軍の前に上がり、副官に暗殺者を引き摺らせて登場して、

動きの鈍い猿田彦軍と、猿田彦軍に警戒するあまり、時折機会を損じる犬神軍に喝を入れた。


「おい、猿田彦軍。わいはお前らの事もコイツの事も気に食わん。

んでもってお前らもそうやってのはようわかっとる。

コイツやってそうや。互い好かん奴やったし今でもそう思とる。

だが、こいつは自分のやるべきことをやった。

おまえらやてコイツに恥じる働きをしたくはないやろ? あっ?」


 猿田彦軍が静まり返る。


「おいてめえら、このわいの軍にしては動きが悪いじゃねえかよ。

横の猿の軍が怖いんか? そんな臆病もんうちの軍にはおらへんよな?

猿の軍に攻撃しながら鳥野郎の軍を攻撃する程余裕ある奴もおらんよな?

これ以降、コイツの軍に手を出した奴は、あのオカマ野郎の所の工作員だ。

構わず斬ってええ。ていうかわいが斬ったる。

てめえらに斬りかかってくるんは猿の所のやない。

卑怯者の工作員や。ええな。

…随分と静かやな。

―――――――――――――――――返事せんのは人形だけでええんやで。」



 暗に使えない奴は人を辞めさせるという、呪術師の発言に虚勢であろうと犬神軍の気合の声があちこちから上がる。

それにつられて猿田彦軍でも同様の声が上がった。

かくしてあっという間に士気が跳ね上がった両軍は瞬く間に勢力を塗り替えて、雉頓軍を壊滅した。



 そして、墳太の喪に服すことは本人の遺言で否定されたために、最終決戦に臨むことにした。

喜一郎に浜辺を任せて、僕は敵の本拠地、『鬼ヶ島』に進軍した。

といっても僕がすることはほとんどない。

敵の戦力は既に直轄部隊が乗り込んで壊滅させてある。

僕はその後で部隊が財宝をネコババしないように見張りに行くだけのお仕事だった。


 鬼ヶ島に何事も無く着いたとき、

僕はまだ少し争いの匂いが残っているのをみた。

断崖絶壁たるそこに向かうと案の定まだ戦争のロスタイムが続いていた。

先に逃げた敵民族の非戦闘員を庇う為に戦う、敵軍最後の戦力だった。


「我こそは、大将の娘。

女だからと言って油断をするな。我が軍最強の戦士なり。

悪鬼め、覚悟しろっ!!」


 そこに戦場で出会った彼女はいた。

彼女は直接僕に斬りかかってきたが、僕だってお飾りだけでここに来たわけじゃない。

僕達が戦い続けている横で、稲を刈るように彼女が庇ってきたものが刈り取られていった。

そして僕に追い詰められた彼女は後ろ足に最早大地を踏みしめていない事に気が付いた。

辛うじて片足だけで崖の先に立っていた。


「此処までか。一人でも多くの同胞を助けたかったがこれ最早叶う事能わず。

生きて悪鬼の辱めを受けることなかれ。さらばだ。」


 彼女は自ら崖を飛び下りて海へと消えた。

彼女と同じように多くの敵の生き残りが海に飛び込むか、海に突き落とされるか、

その場で自刃するか斬り殺された。



 そうして帰還した僕に待っていたのは高い地位と、莫大な財産だった。

『鬼』達の財産は全て朝廷に返還(・・)という事になった。

しかし犬神家と猿田彦家が大功者たる僕への褒美が必要だと朝廷に持ちかけてくれたのだ。

そして鬼ヶ島で接収した莫大な財産は朝廷に返されたものの、

雉頓家から剥奪された地位と財産を受け継ぐ事になった。

これは彼等残党を抑える旗頭になれという事だと思える。


 他にも犬神家当主と猿田彦家の当主の妹の婚姻が決まった。

雉頓家がいなくなった今、2大貴族の婚姻には制御できなくなる恐れがあると朝廷が難色を示したものの、

無事に話は纏まった。


 そして僕の所に一寸法師と仇名される背が低いが天下無双の豪傑であり、

未来の考え方が無ければ僕を遥かに超える先代の異民族討伐大将軍であった人や、

更にそれ以前に異民族討伐を成し遂げた人たちがやってきた。

表向きには自分達の後輩となった僕を祝福しに来てくれたようだ。

実際には力ある人気者となった引退した討伐軍大将が朝廷に潰されないための方法を教えに、

そしてその手段として武力集団として連合を作り、朝廷に手を出させないようになろうと話を持ちかけてきた。

彼等は言った。


「どうして地位も褒美も断ったんだ?

貰えるものは貰っておいても良いと思うぞ。お前はそれだけの働きをしたんだ。

我々だって貰った物以上の事は成し遂げてきた。お前にだってその代価を受け取る資格はある。」


 そうは言ってくれたが僕はもう決めた。

数日後、僕は都を去った。

様々な人が引きとめてくれたけれどもういいんだ。














 それからどれだけ歩いただろうか?

僕は見慣れたはずの、けれど長らく見ていなかった家の前に着いた。

家の前には老夫婦が僕を待っている。







「ただいま。」

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