第7話『贋作師の日常』
ほんとはこんなノリで書きたかったんや。
工房の中からカン、カン、カン……と金属を叩くような音が響いてくる。
それはシグマ・ブレイカーが“贋作”を作っている時の音であった。
「ふぅ……。やっぱり【フェイクマジック】を使わない方がしっくりくるな〜」
先代から受け継いだ力【フェイクマジック】。
それはあらゆる工程を無視し、材料の物質限界を操作し、思い描いた形を作るチートスキルである。
シグマはその力を誇りに思っているが、それは魔具以外の贋作作りでは極力使わないようにしていた。
「さて……この失敗作、誰に売りつけようかな」
何故ならシグマ自身の贋作師としての実力は、まだまだ未熟であるからだ。
彼はそのことを自覚している為、大事な仕事を請け負った時以外はチートスキルに頼らないとはっきり決めていた。
「うーん。ま、普通の武器としてなら優秀だし、武器屋にでも買い取ってもらうかな」
元々は魔剣の贋作を作ろうと試みていたのだが、どうも魔力回路の構成に不備があったようだ。これではただの名剣止まりである。
己の手の内にある出来損ないの剣を見て、シグマは一人溜息を吐いた。
「やれやれ。まだ明確なイメージが足りてないのかなぁ。先生、アンタは今の俺を見てどう思う? 少しは成長してるのかな?」
この世界に迷い込んだ時、手を差し伸べてくれた先代『リアルブレイカー』。
彼の姿を思い浮かべ、シグマは無意識のうちに微笑んでいた。
それは決して他人に見せることはない、親に甘える子供のような笑顔であった。
時間は正午過ぎ。定食屋『こまち』はいつものように賑やかな雰囲気に包まれていた。
シグマはご飯を食べる時、決まってこの店を利用している。
それは彼の好物と良く似た料理がこの定食屋のメニューに載っているからだ。
中に入ると、この店の看板娘アキナと目が合った。
「あ、シグマ君! ここ! ここ座って!」
「あはは……勘弁してくださいよ」
「もう! 敬語はやめてって言ってるでしょ!」
「あはは……勘弁してくれ」
「はい! 座って!」
シグマは有無を言わさずカウンター席に座らされ、当然のように隣に座るアキナに苦笑した。
依然この店に訪れた厄介事を解決して以来、何故か彼女に懐かれてしまっている。
悪戯好きな彼女とは出会った当時から色々と接することもあったが、最近はそれが過剰になり過ぎているのだ。
その為、アキナ目的でこの店に通っている客達からは随分と嫌われてしまった。
「皆の視線が何か痛いんだけど」
「えへへ! 気のせいだよ!」
「いや、絶対気のせいじゃないから」
そんなやり取りをしていると、突如シグマの背中に悪寒が走った。
((((――イチャイチャしてんじゃねーよ。殺すぞ!))))
「ほら! 絶対気のせいじゃない!」
「気のせいですよ」
アキナはにこりと微笑みながらシグマの肩にもたれかかった。
そんな過剰なスキンシップにシグマは辟易とした表情を見せる。
すると、見るもの全てを射殺すような視線がカウンターの向こう側から飛んできた。
「俺の娘がそんなに不満か?」
「いや、全然! むしろ嬉しいです!」
「本当!? じゃ、もっとくっ付いてもいい?」
「「「「それは駄目だ!」」」」
『こまち』の店主カズマのご機嫌を取ろうと全力で首を横に振ったのが仇となり、アキナは更なる密着を要求する。
その瞬間、店の中にいた男性陣が一斉に叫んだ。
こうしてシグマは騒々しい中、居心地の悪さ全開の環境で大好物の五目炒飯を注文するのだった。
夕方、シグマは素材集めの為に一旦自分の店に帰宅していた。
奥行きがあるリビングの両側にはそれぞれ漆黒の扉が設置されており、そのどちらも贋作師にとっては必須な場所に繋がっている。
そのうちの一つは『転移門』と呼ばれる魔具の扉であり、先代がマーキングしている場所なら何処にでも行ける力が宿っていた。
「さて、行きますかね」
漆黒の戦闘衣を羽織ったシグマは扉を開く。すると彼は光の中に吸い込まれ、とある目的地へと転移した。
そこは一言で表すなら迷宮。
通常ダンジョンと呼ばれる、魔物達の巣窟だ。
洞窟のような通路を進んでいくと、すぐに魔物と遭遇し、戦闘が始まる。
『ギャアアアア!』
『ギョオオオオオオ!』
緑色の小鬼や犬の頭をした人型の魔物がシグマに向かって襲い掛かってくる。
が、シグマは狼狽えることなく冷静に対処を始める。
「贋作魔具ナンバーその1【粉砕金槌】!」
先代が生み出した“本物を越えた贋作”の効果は絶大。
『ギャ!?』
『ゲェ!?』
軽く叩くだけで魔物達の骨が全て砕かれ、忽ち魔物は絶命した。
あっさりと戦闘を終わらせたシグマは、早速魔物から素材を剥ぎ取っていく。
魔物の牙や爪は武器の素材に使えるし、毛皮や骨は防具の素材に最適だ。
もっとも骨は粉末状になっているので、【フェイクマジック】を使わない限りは剣の打ち粉くらいにしか使えないのだが。
この調子でシグマは夜まで素材集めに取り掛かっていた。
こんな日々を繰り返している為、シグマは昼間以外にまともな食事と取ったことが無い。
店に帰りながら、シグマは考える。
「やっぱアキナに合鍵渡しておこうかな……」
あくまでもご飯の為に。
そんな安易な考えが後に大きな後悔を招くことなど、今のシグマには予想もできなかった。




