第8話『贋作師と武器屋』
終わりのつもりがもう一話。
この際、不定期でもいいか。
その日、シグマは工房の中を見直した。
そこには処分するのが面倒になって、放置しておいたままになっている失敗作の山があった。
剣、盾、篭手、脛当て……鎧以外の武装品が数え切れないほど転がっている。
「うっひゃあ……。すげー景色」
最近工房が狭く感じるようになった原因はやっぱりこれかと、シグマは半ば嘆息した。
明日どうにかするさ。ずっとそうやって先延ばしにしていた結果がこれなのだから、自業自得としか言いようがない。
とにかく、これ以上放っておくと工房を満足に利用できなくなる。
シグマは思い切って失敗作の処分を行うことにした。
「ざっけんなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
武器屋『レックスバスター』
その店では今、火急の大問題が発生していた。
「わ、悪い!? いやぁ……ほんと、面目ない」
「謝って済むなら勇者はいらないっつーの! 何なの? 在庫の補充忘れてたって馬鹿じゃないの!?」
「そう言われてもだな……。それに、客が今日来るわけでもないじゃ」
「来るに決まってるでしょ! 最近新しいダンジョンが見つかったって話聞いてないの!? 冒険者達は今大事な稼ぎ時なの! とっくに稼いだ奴は武器を新調しに来るだろうし、これから稼ぐ奴だって新種の魔物に備えて装備を充実させようって考えてるに決まってるじゃない!」
「ふ……ふええええええええええええええええん!」
「大の男が泣くんじゃねぇええええええええええええええええええええええええええええ!」
『レックスバスター』の店主、グラースに大激怒をしているのは娘のエリスだ。
赤いポニーテールが特徴の彼女はその髪の色如く、熱血な性格をしており、少し男らしいという評判を周りから頂いている。
今もその男らしさを発揮して、空っぽの棚を指差しては自分の父親に罵倒を浴びせていた。
しかしそれも仕方ない。武器を求める冒険者が押し寄せることはわかっているのに、その期待に応えられないとあっては武器屋の名折れだからだ。
基本的に『レックスバスター』では鍛冶屋で仕入れた武器のみを販売している。
その為、本来なら在庫が切れる前に鍛冶屋から新しい武器の製造を発注しなければならないのだ。
それなのにこの父親。
少し前に勇者が大量の武器を買っていってくれたことにご機嫌になって今の今まで仕事のことをほったらかしにしていたのだ。自業自得である。
筋骨隆々のマッチョが涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らしている姿がまたエリスの癇に障り、ますます酷くなる怒号が店の外まで響き渡る。
そんな時に奇跡が訪れるのだから、人生もまだ捨てたもんじゃない。
後に笑顔になったグラースはそう語ったそうだ。
「ごめんくださーい」
「ほら! どうすんのさ! 早速客が来ちゃったじゃない! ほら! 謝りなさいよ! 無様に土下座して謝るのよ!」
「ぶひぃい! ごめんなさぁああああああああああああああい!」
……これはどういう状況ですか?
さっきから女のヒステリックボイスが聞こえてくるなと思って店の中に入ってみたら、なんかSM展開が始まってました。……お邪魔だったのかな?
とにかくマッチョの土下座は見苦しい、というか暑苦しいので早々にやめてもらいたい。
俺は盛大にドン引きしながらも、必死に笑顔を取り繕ってグラースさん達に話しかけた。
「あのぉ……俺は客ってわけじゃないんですが」
俺の一言で何やら安堵する二人。
俺はわけが分からないままに話を続ける。
とにかくさっさと用事を済ませて家に帰ろうと思った。
「武器を買い取っていただきたいんですよ。勿論、そちらの言い値で構いませんから」
「……は?」
「武器? どこにあんの?」
おや、何か不親切な対応だな。まあ俺は手ぶらの状態だから仕方ないんだけどね。
娘さんの苛ついた声が怖かったので、俺はすぐにポケットから鍵を取り出した。
贋作魔具ナンバーその3【財宝宮の扉】。
これは異次元の倉庫のようなもので、原理は『星光の鍵』と同じだ。
何も無い空間に鍵穴が現れ、そこに鍵を差し込めば光の渦が現れる。俺はその光の渦に手を突っ込み、手当たり次第に失敗作を取り出した。
「……なんじゃこりゃあ!?」
「ちょっ!? まさかその鍵、魔具なの!? というか武器の量! 何これ多すぎでしょ!」
「まあまあ」
カウンターの上に乗り切れずいくつか床に零れ落ちた武器を見て、グラースさん達の顔は驚愕に染まっていた。
その気持ちはわかるんだけど、流石に自力でここまで運ぶのも大変だからね。仕方ないのさ。
しかし、グラースさんが驚いていたのはどうやら魔具のことじゃなかったらしい。
「この武器の品質……! なんて素晴らしいんだ! いつも鍛冶屋に頼む武器よりも凄いぜ!」
「うん。まるでお宝、フローラス級だよ。雑魚冒険者に売るのが勿体無いくらいだね」
「でもこんなの買い取れるほどの余裕が……」
俺は目を輝かせて武器の見定めをしている二人に冷や汗を掻いた。
うん。まあ確かに普通の武器としてならそれなりという自負はあるんだけどね? これ、一応魔具の贋作で失敗作だから、そんなに高い評価をされると罪悪感が伴うわけですよ。
だから、これは二人を気遣って言ったわけじゃない。
「なんなら一〇〇〇イェンでお譲りしますよ? 勿論単価じゃなくて、これ全体で一〇〇〇イェンです」
「はあああああああああああああああああああ!? お前、正気かぁあああああああああああ!?」
「お人よしすぎんだろアンタ! その男っぷりに思わず惚れるわ!」
「はああああああああああああああああああああ!!? お前は何処にもやらんぞぉおおおお!!」
「クソ親父は黙ってろ! ……ゴホン。あのぉ、私、エリスって言いますぅ。できれば貴方のお名前を教えてもらえませんかぁ?」
もう駄目だこいつら。早くなんとかしないと。
目を血走らせながらハンカチを噛み千切るグレースさんと、急にしおらしくなったエリスに俺は溜息を吐いた。
これ、全部俺が悪いわけじゃないよな? な?
もうどうにでもなれぇ! ……って感じで俺は素の態度で名前を明かした。
その際、突然猫かぶりしたエリスを見て同類扱いされたくないと思ってしまったことは秘密。
「俺はシグマだ。……なんでメモしてるんだ? そこに書いてある重要顧客って何のことだ!?」
「うふふふ。シグマさん、また来て下さいね? 用がなくても来て下さいね? ね?」
「何なのこの人。マジ怖い……」
こうして俺は武器屋『レックスバスター』の会員とやらに無理矢理登録させられた。
だって、断りきれなかったんだもん! 仕方ねーじゃん!
とにかく、エリスって娘には注意しておこう……。
シグマが店を去った後、数人の冒険者達が店に訪れてきた。
やはり新たなダンジョンに向けて装備を整えておきたいらしい。
そして彼らは店の棚に置かれた商品を見て……。
「「「な、なんじゃこりゃああああああああああああああ!」」」
そんじょそこらの武器屋ではお目にかかれない最高品質の武器に目を白黒させた。
それ以来、『レックスバスター』はたまに激レアアイテムが置かれるという噂が都市内に広まり、以前よりも店が繁盛するようになったそうだ。
そして男勝りだったエリスは少しだけ女らしくなり、時々冒険者達に告白されるようになったとか。
「私、身も心も全てシグマさんに捧げてるのでお付き合いできません!」
「ぐはぁあああああ!?」
「シグマって確かあの定食屋に通ってるあいつかぁ!?」
「またあいつなのか!!」
……シグマの評判が悪い意味で広まっていることを、本人はまだ知らない。
これ、ストーリーとしてはどうなんだろ?
自分では設定が分かってるから良いけど、支離滅裂になってたりしてませんかね?
※サブタイトルが『贋作師と鍛冶屋』になってたので直しました。




