毒舌彼女
彼女は異常なまでの毒舌だ。
「あのさぁ…この仕事頼んだのって一週間前だよね?こんな物如きで何を手こずってんの。バカなの?アホなの?死ぬの?」
切れ長の瞳を釣り上げて、眼鏡の奥から睨んでいる。
黒髪は長く前髪も目にかかる長さだが、それでもその前髪の隙間から覗く目には殺意が込められていた。
彼女に睨まれている女の子は、小さな体をさらに縮こまし萎縮してしまっている。
生徒会長の腕章が彼女の地位。
生徒会としての仕事をこなすスピードも、正確さも彼女に勝てる者はいない。
この毒舌さえなければ完璧だろう。
容姿もよければ頭もいい。
欠点はその口の悪さだけ。
彼女に聞こえないように溜息を吐く。
と、その瞬間彼女と目が合った。
先程までお説教を受けていた少女は逃げるように自分の席に戻り、新たな仕事に取り掛かっている。
ヤバイ…と俺は冷や汗ダラダラ。
今現在彼女の機嫌は最高潮に悪いだろう。
「何こっち見てるの。気持ち悪いわ」
ギロリと言う効果音がつきそうな勢いで睨まれ、暴言を吐かれた。
俺のHPは一発でゼロに。
ずーんと落ち込む俺。
隣の席の奴がポンッと肩を叩いたが放って置いてくれ。
まぁ、こんな風に口も目つきも悪い彼女だが生徒会長をやるだけあって、人望は厚い。
「失礼しまーす。生徒会長はいますかね?」
入って来たのは風紀委員長。
生徒会長と風紀委員長は激しく仲が悪い。
生徒会メンバーからは何で今来るんだよと言ったオーラがにじみ出る。
彼女がドンドン不機嫌になるではないか。
「……何か用?」
手元の書類から一瞬だけ目を離し、風紀委員長を見る彼女。
「次の生徒総会の議案書なんだが、これはあまりにも生徒の意見を取り入れ過ぎじゃないか?」
生徒会は生徒の味方。
風紀委員は秩序を守る。
その為この手の話し合いはしょっちゅうだ。
「……私達は生徒会よ。生徒のためにより良い学校生活を作るために活動してるわ。勿論、学業に支障が出ないように。縛ることが全てじゃないわ。自由を得てこそ、個人があり、人があり、学び舎として成り立つのではなくて?」
詰まることなくスラスラと自分の意見を述べる彼女。
そうだ。
彼女は確かに毒舌で、目つきと口が悪い。
だがそれは彼女自身がわかっていることで、彼女はそれを知ってなおも直そうとはしなかった。
それはこうして討論をするためだ。
彼女は紛れもなく自分の意思を持ち、それを歪みなく真っ直ぐに伝える術を持つ。
だから口が悪いという短所すらも含めて、信頼され人望が厚いのだ。
短所すらも長所に変えてしまいそうな毒舌。
俺は本日二度目の溜息を吐いた。
それは呆れと尊敬と感嘆が込められているんだろう。
本日も我らが毒舌生徒会長は好調のようだ。