第一話 ジオノークでの出会い
二日経ってやっと完成しました。前回は若干短かったんで今回は長めです。
ところで前から気になっていたんですけど、こういうネット小説って大体どのくらいの長さが読みやすいとかってありますか?短すぎるのはやっぱあれですけど、長すぎると逆に読むのが疲れるとか、てありますか? 二次創作書いてたときは一話がほとんど一万字超えばっかだったのでどうなのかな、と前々から気になっていたので。良ければ感想と一緒に意見お願いします。
シャンドゥラの砂漠、それは果てしなく広大だ。元々シャンドゥラは緑が少ない砂漠の世界だったが、百数十年前より他世界との交流が始まり、科学技術がシャンドゥラに浸透し始めてからは、その科学技術によって数少ない緑のオアシスは全て消滅、砂漠の気温も急上昇し、人が住むには過酷極まりない世界となっていた。
その様な過酷な環境のシャンドゥラの地方都市の一つ、『ジオノーク』の街を一人の少年が歩いていた。
年齢は十代半ば、背は同年代の男としては小柄な方だろう。顔は男にしてはかなり女顔で白い肌、頭に巻いているバンダナから僅かにはみ出ている金色の髪とこのシャンドゥラの人間ではない。服装は黒の長袖のTシャツにその上から黄色のチョッキをボタンを留めずに着ている。下はジーンズにブーツ、
少年は暫くジオノークの大通りを歩き、目的地である一つのビル――この街ではかなり大きい部類に入る――に入る。
ビルの入り口に入った少年は暫く周りをキョロキョロと見渡す。そして目当ての受付口を見つけると、そこに早足で駆け寄っていく。
「......いらっしゃい。ご用件は?」
受付口に少年が入ったのを認めた地元の人間らしい黒い肌の担当の人間が手に取っていた雑誌をデスクに置き面倒臭そうに少年を見ながらとりあえず形だけの接客をする。
「えっと、砂蒸気車の客室ってまだありますか?」
「砂蒸気車?」
砂蒸気車、それは砂漠のシャンドゥラの砂漠越えにおいて必要不可欠といってもいい交通手段である。シャンドゥラには元々『ドドルマ』と呼ばれる動物に乗って砂漠越えをするという手段があったが、他世界との交流で開発された砂蒸気車の登場により、砂漠越えはドドルマを用いた方法より遥かに安全で快適なものとなったのである。
「はい。『シャグラ』行きの便なんですけど......」
「シャグラねえ......」
少年は行き先を付け加えて担当に聞き返す。担当は相変わらず面倒そうな調子で散乱したデスクの上を漁りだす。
「四等客室が空いているが、それでいいか?」
「大丈夫です。料金は?」
「共通貨で80D、シャルク貨幣なら40S」
料金を聞いた少年はほっとした様子で財布を取出し言われた額の80Dを払う。シャンドゥラの様な辺境の世界では世界共通貨幣のデルク貨幣が使えない時があったりするのである。手元のシャンドゥラのシャルク貨幣はそれほど残っていなかったので助かった。
料金を確認した担当は乱暴にチケットの束を切り取り、少年の前に置く。チケットを受け取った少年はありがとうございます、と言って受付を離れる。少年がビルから出るのを認めた担当はやれやれと言った様子で雑誌を手に取り再び読みふけようとする。
「......シャグラ行きの砂蒸気車は空いているか?」
「............」
しかしそれを邪魔する客が一人、担当の前に立つ。担当は間をおかずにやってきた男の客に苛立ちを感じながら先程と同じながら若干苛立ちの混ざった様な対応をする。
「四等客室。共通貨で80D、シャンドゥラ貨幣で40S」
「............?」
先程よりやや雑な説明をする担当。男はそれに若干の疑問を抱くも特に気にすることなく80Dを出す。担当はそれを見てチケットを男に出す。
その男の容姿はかなり異様であった。先の客の少年同様白い肌で外界から来た人間だというのは分かる。しかしその服装は外界から来た人間であってもかなり異彩を放っている。全身黒ずくめの恰好。黒のコートに内側も黒のボディースーツ、コートの上から布をマントの様に巻いてはいるもののかなり暑苦しい恰好である。
「しかし、今日は外界の客が多い日だな。二人も来るとはな」
「二人?」
「応。お前さんのちょっと前に一人。背の小せえガキだったな」
「......そうか」
退屈だったからか、担当の人間が男にそう話をかける。男はそれを対して興味の無さそうに聞き流し、チケットを懐に入れる。
「しかも行き先まで同じと来たよ。シャグラなんかに何の用があるんだか?」
「シャグラ?」
しかし行き先が同じという話を聞いて僅かに男が反応する。それを見て担当も面白げに話を続ける。
「ああ。そのガキも同じシャグラ行きの砂蒸気車に乗ると来たもんだ。珍しいこともあるもんだ」
「......確かにな」
「しかしお前さん、あそこに何の用事だ? 故障中の次元扉以外何もないだろう」
この多くの世界において、世界と世界をつなぐ為の次元扉というものが存在する。これによって人々は多くの世界への行き来が可能になった。ここシャンドゥラにも当然次元扉は存在し、中央都市の『ダイゴロム』、地方都市『エレザス』『ドミニク』『ヴァンドム』そして先程話に上がったシャグラの四つの都市に次元扉は設置されている。しかし先日よりそのシャグラの次元扉は故障しており現在は修理中で復旧の目処は立っていないそうだ。
「......少し用事が、な」
言葉を若干濁しつつそう答える男。担当は少し訝しげな表情をするも、特に気にする様子もなく話を変える。
「ま、何にしても気をつけな。あそこら辺は獲得者の連中の巣みたいな場所だからな」
獲得者とはこのシャンドゥラに古くから存在する盗賊のことである。彼らは住処を持たず砂漠を転々と回る流浪の民であり、砂漠越えをする旅人から略奪行為を行いその日を生き続けている。呼び方が獲得者なのは、過酷な環境のシャンドゥラにおいて生き残る為に誰かから奪うのは悪ではなく、むしろ奪われる人間の方が悪という考えがあるからだ。
「......心に留めておく」
男はその言葉を最後にビルを出て行った。担当はそれを見た後、再び雑誌を手に取り、退屈そうに誌面に目を向けだした。
時は移り数時間後、砂蒸気車の停留港。その周辺には所狭しと露店が並んでいる。その一角に先程の少年が露店の干し肉などの保存食を物色していた。砂蒸気車の旅は数日程かかるが、生憎砂蒸気車には食品店などは存在しないので、搭乗前にはこうして数日分の食べ物を購入するのが通例である。
「おばさん、この干し肉三つとお水下さい!」
「あいよ! 全部で12S!」
恰幅の良い中年の女性店主は大きな声でそう告げる。少年は財布を取出し言われた額の料金を払おうと......
「あ......」
そこで少年は財布に残っているシャルク貨幣が足りないことに気付いた。言われた金額は12S、そして手元にあるのは10S。共通貨のデルクなら残っているがシャルク貨幣はその前にも色々必要なものを購入したせいで足りなくなっている。少し減らそうかな、と少年が迷っていると女性店主はニッと笑う。
「足りないならおまけしてやるよ」
「え? いいんですか?」
「いいわよいいわよ。アンタ、綺麗な顔しているしね。それに他の連中より礼儀正しいし」
なあ? と店主は近所の露店の人間に同意を求める。すると全員がおお! と笑いながら同意する。それを見た少年はありがとうございます、と笑顔を見せながら言う。
「そういやアンタ、外界の人間かい?」
そこで店主は少年の顔を見てそう問いかける。シャンドゥラの人間は空から降り注ぐ強い日の光で焼けた黒い肌が特徴だ。対して少年の肌は白。少し気になったのだろう。
「はい。『グリーンオアシス』って世界から来ました」
「『グリーンオアシス』? 聞いたことあるかい?」
グリーンオアシスと聞いて店主は不思議そうな顔をする。聞いたことがないの世界の様だ。店主は周りの人間に聞いてみるも、全員同じ反応である。と、そこで向かいの店の店主が、あ、と声を漏らす。
「そういえば前にここに来た旅芸人が言ってたな。確か緑でいっぱいの綺麗なところだって話だったな」
「はい! そうなんです!」
緑という単語を聞いて辺りはざわめき、知っている人がいて嬉しいのか少年の声が弾む。それを聞いて店主はいいわねぇ、とうっとりとした表情でそう漏らす。科学技術の使用によって50年程前に緑が完全に消えたシャンドゥラの人間にとって緑は憧れのものと言えるのだ。
「でもアンタ、なんでまたこんな砂漠だらけの世界になんかやってきたんだい?」
「ええ、まあ......少し探しものというか......」
店主にそう聞かれ、少年が答えようとするが、突然後ろが何やらざわめきだす。少年は後ろを振り返ると、大分柄の悪い連中を引き連れた二人組が露店を歩いていた。見たところこの街のゴロツキの様だ。二人はニヤニヤといやらしい笑いをしながら店主の店のところまでやってくる。
「ようおばちゃん! 随分シケた顔してんじゃないの? せっかく客が来たってのによ!」
「金も払わない様な奴は客って言わないよ! とっとと帰んな!」
背の高いモヒカンの一人が始めにそう切り出し、店主はそれに噛みつく。
ここで説明しておくとこの連中、この店に来ては金を踏み倒しているこの街で札付きのゴロツキである。他の店の人間の顔を見ると、やられているのはこの店だけではない様だ。
「んな冷たいこと言うなよな! お、うまそうな干し肉じゃねえか」
そう言って小太りのスキンヘッドが店の商品に手を出そうとするも、その前に店主が払いのける。
「汚い手で触るんじゃないわよ! このスナネズミ共が!」
「んだと、このクソババア!」
その言葉が頭に来たスキンヘッドは怒りで顔を赤くしながら拳を振り上げようとする。
「やめて下さい!」
しかし、スキンヘッドの前に少年が割り込んでくる。その目にはかすかな怒りを感じられる。目の前に現れた少年にスキンヘッドは一瞬呆然とするも、少年を睨めつける。
「坊主、邪魔だ! 痛い目にあいたくなかったらそこをどきな!」
スキンヘッドは決まり文句ともいえるその言葉を吐くも少年はどく様子はなく、それどころかスキンヘッドを睨めつける。
「嫌です。ぼくは......あなたの様な人が大嫌いです!」
「て、てめえ......この野郎!」
少年の言葉に怒りのボルテージが上がったスキンヘッドは再び拳を上げ、今度は少年に向けて振り下ろす。少年は微動だにせず只スキンヘッドを睨めつけるだけ。ゴロツキと少年を除くその場にいた全員が思わず息を飲んだ。
「ちょっといいか?」
しかし、その拳は少年に届くことはなかった。その直前に横から伸びてきた手がスキンヘッドの腕を掴んだのだ。
「な、なんだてめえ!」
「いや、買い物がしたいんだが......」
そう男は若干戸惑いながら答える。ちょうど先程例のビルで少年が出た後に現れ、少年と同じシャグラ行きの砂蒸気車のチケットを購入した男だ。それはともかく拳を止められたスキンヘッドは今度はその怒りを男にぶつけようとする。
「邪魔すんじゃねえ!」
「っ!」
スキンヘッドの拳が男に向けられる。しかし直前に男は体を反らしそれを避ける。空を切るだけだったその拳はその勢いのまま男の後ろの壁に思い切り飛んでいく。
「~~~~~!?」
あとはもうお分かりだろう。諸に壁に拳をぶつけたスキンヘッドは拳を抑え痛みで地面を転がりだす。それを見た周りの人間はドッと笑う。
「......大丈夫か?」
「っ! ......てめえ......ぶっ殺してやる!」
あまりの屈辱、そして男のその言葉に怒りの限界を突破したスキンヘッドは懐から拳銃を取出し、銃口を男に向ける。瞬間、場の空気は凍る。その様子を見てスキンヘッドはニヤリと笑う。この状況では誰も手が出せないだろう。
しかし、男は違った。
「はぁ......」
まるでまたか、といった感じの溜息を男はつく。
そして次の瞬間、男の右足が男の頭上まで上がると同時に、スキンヘッドの手から拳銃が吹き飛んだ。それが男がスキンヘッドの拳銃を蹴り飛ばしたと理解するまで少し時間がかかった。
「っ!?」
何が起こったのか理解できていないスキンヘッドは訳も分からず狼狽えてしまう。そこに間髪入れずに男が上がりきった右足をおろし、スキンヘッドの頭にかかと落としを決めた。顔をしかめてしまう様な鈍い音が一帯に響き、次の瞬間、スキンヘッドが気絶し、仰向けに倒れる。
「て、てめえ!」
それに残った連中が一斉に鉄パイプやらなんやらを手に持ち男に襲いかかるも、男はそれを軽々と避け、カウンターの要領で次々と掌底や肘打ちでゴロツキ共を倒していく。30秒もしない内に全てのゴロツキは倒されてしまった。
「す、すごい......」
その場にいた人間が呆気にとられる中、少年はその戦いぶりに思わずそう漏らす。
「粗方片付いたか、次は......」
「動くな!」
「っ!」
突然後ろから声が男の耳に入ってくる。声の聞こえたところに目を向けると女性店主銃を突きつけたモヒカンが必死の形相で男を睨めつける。どうやら男が大勢のゴロツキを相手にしている間、そこら辺に隠れてた様である。
「おばちゃん!」
店主が捕まっているのを見て少年は思わずそう叫ぶ。その様子を見ながらモヒカンはヒッヒッヒと笑いながら男にもう片方に手に握られた銃口を向ける。
「形勢逆転だな。このババアが殺されたくなかったら大人しく......」
「おばちゃん、この干し肉一つ」
「へ?」
突然男がそう口にしてモヒカンが呆気にとられるもつかの間、次の瞬間男が蹴り飛ばした干し肉――先の乱闘で入っていた籠から転げ落ちたのだろう――がモヒカンの顔に直撃する。
「うおっ!?」
ひるんだモヒカンの一瞬の隙をついて店主がモヒカンから逃げる。それに気づいたモヒカンが慌てて目を前に向けると、次の瞬間、一瞬で間合いを詰めた男がモヒカンの顔を掴むとそのまま壁に叩きつける。メリ、という嫌な音と共にモヒカンの顔が壁にめり込み、それを最後に乱闘が終了した。
「た、助かった~」
店主が思わずそう漏らし、それにつられて周りの取り巻きがふう、息を吐き場の空気が和らぐ。少年は店主のところまで駆け寄り、大丈夫ですか、と声をかけ腰が抜けているらしい店主を支える。その様子を見た男はその場を後にしようとする。
「あ、ちょっと! アンタ、何かお礼でも......」
そこでそれに気づいた店主が男に声をかける。しかし......
「お礼ならこいつで」
男が若干こもった声でそう呟き振り返る。その口には干し肉が加えられており、手には幾つかの干し肉と水の入ったボトルが。いつの間に持ったのだか......。あまりの早業に呆気にとられる一同を後に、それじゃ、と言い男はその場を去って行った。
あの騒動の後、少年は露店の一同と共に先程の騒動で散乱してしまった露店の片付けを手伝っていた。皆がいいよ、と言うものの、少年はどうしてもというので申し訳ない気持ちがありつつもこの気前のいい少年と共に片付けをしていた。
「しっかし、すごかったねぇ、あの兄ちゃん。あの数のゴロツキ共をあっさりと!」
「この街の用心棒であんな強いのがいたらなあ」
片付けをしつつ雑談をする一同。その話題は先程の男の話がほとんどである。
「なあ、あんちゃん。外界の人間って皆あんなに強いもんなのか?」
ふと片付けをしていた一人が少年に話しかける。少年はそれにうーん、と唸る。
「ぼくも喧嘩はそんなに見たことはないですけど、すごい強いと思いますよ、あの人」
「だよなぁ!」
「ゴロツキ共なんて目じゃないって感じだし!」
そこで再び場が湧き出す。少年はそれを笑いながら見ていたが、遠くから聞こえるアナウンスにはっとする。
「あ、あの、すいません! これからぼく、砂蒸気車に乗らないといけないんでこれで!」
「おお! 砂蒸気車に乗るんか!」
「じゃあ急ぎなさい! すぐ出ちまうぞ!」
挨拶もそこそこに少年は近くに置いていたバッグを肩にかけると一目散に走ろうとする。そこに店主が待ちな、と声をかける。
「なんですか?」
不思議そうな声を出す少年に店主は、はい、と言って巾着を渡す。中を見るとシャルク貨幣が大分入っている。それを見て少年は驚いてしまう。
「あんちゃん、金がなさそうだったしな」
「片付け、手伝ってくれたし」
「それにこのばっちゃんをかばおうとしたじゃないさ」
その場にいた全員がバラバラに言う。それを聞いて少年は目を潤ませてしまう。店主は少年に対してカラカラと笑うとその背中をドンと叩く。
「さあ! さっさと行きな! 砂蒸気車は待ってくれないぞ!」
「はい!」
店主の言葉に少年は元気よく答えると、その場を後に走り去っていった。あとに残った人々は頑張れよー、などと各々声をかけながら少年の後ろ姿を見ていた。
「あ、あの!」
「ん?」
露店での一騒動から数時間後、男は出航時刻になった砂蒸気車のタラップを通って乗り込もうとしていた。そこに先程の少年が現れた。
「......何か用か?」
「いえ、さっきはありがとうございました!」
少年はそう言って頭を下げる。それを見て男は不思議そうな顔をする。どうも先の一件のことを忘れている様である。最も男からすればいつものことだとして対して気にもかけていないだけなのだが。
「......別に。助けたつもりはない」
ようやく思い出した男は少年に対してそう告げる。男としては自分に降りかかってきた火の粉を振り払っただけのこと。そこに少年やあそこにいた人間を助けるつもりは全くなかった。結果的に助けたことになっただけである。
しかし少年はいいえ、と言って否定する。
「それでもぼくはありがとうと言いたいんです!」
少年はそう言って和らげな笑みを浮かべる。男はそれを見た後、何も言わずにタラップを乗り込もうとする。
「ああ! ちょっと待って下さいー!」
「......ん?」
それを見た少年は慌ててチケットを船員に見せてタラップに乗り込む。その様子を見た男は先程の販売所の担当の言葉を思い出す。
「お前、ひょっとしてシャグラに行くのか?」
「あ、はい。そうですよ」
それを聞いた男は若干何やら嫌な予感がしてきた。そしてそれは後々当たるのだが今は忘れておこう。
「じゃあ折角ですので。ぼくはリィナ。リィナ・プラント。宜しくお願いします」
「......ゼロ・エニッション」
名前を言われてその流れに流されてか、その男――ゼロも名前を言ってしまう。それを聞いて少年――リィナは、へー、と興味津々の様子でゼロを見る。
「じゃあ、ゼロさん。何かの縁ですし、宜しくお願いします」
「俺は宜しく言ってないぞ」
「え~! そんなこと言わないでくださいよ」
「そもそもお前が勝手に言っただけだろう」
「それはそうですけど......」
それでも何か言おうとしたところで、砂蒸気車の駆動炉が動き出す音が艦内部から響きだす。同時に下の方から「砂蒸気車、発進するぞー! まだ乗ってない奴は早く乗れー! うちは待ったりなんざしねえぞ!」と聞こえてくる。
「そろそろ出航......か」
「うわ~! ぼく、こんな大きな砂蒸気車に乗るの初めてなんですよ! ゼロさん、甲板に上がりましょう!」
「いや、俺は......」
「早く早く!」
「お、おい!」
断ろうとしたゼロにリィナはゼロのコートの袖を掴んで引っ張っていく。ゼロはそれに驚きながら、荒っぽいこともできず、ズルズルと引っ張られる。
幾つかの階段を上って二人は砂蒸気車の甲板に上がった。リィナはそのまま甲板の手すりにまで一直線に駆け出す。
「うわぁ......」
甲板からの景色にリィナは思わず感嘆の声を漏らす。これはリィナでなくてそうなるだろう。大型の砂蒸気車、その地上70m近くまである甲板から見える景色は素晴らしいものだ。このジオノークの街の端まで見えるのだ。無理もない。そんなリィナを横で見るゼロはふと砂蒸気車付近に集まる人影の中に先程の露店の人々が集まっていることに気が付いた。
「あ! さっきのおばちゃん達だ! やっほ~!」
同じくそれに気が付いたリィナは大声で叫びながら手を振る。そこでゼロとリィナに気付いた露店の人々は一斉に手を振り出す。それにリィナも先程より強く手を振りだす。それを見てゼロは思わず全く、と漏らしながら苦笑してしまう。
そして駆動炉の音が高まると、軽い振動の後に砂蒸気車がゆっくりとした――しかし段々とその速度が上がって行っている――動きで走り出す。それと同時に段々とジオノークの街が小粒のものとなり見えなくなっていく。リィナはそれを食い入る様に見続ける。
「ゼロさん......」
「ん?」
リィナの言葉にゼロが反応する。彼もまたこの景色に感動しているのか、先程よりも素直な反応を見せる。
「旅って出会いもあれば別れもあるんですね」
「......まあな」
寂しさの入ったリィナの声にゼロは若干の間を空けつつそう答える。
「分かっていても、やっぱり寂しいものですね......」
「......だけど」
「え?」
リィナはゼロが自分から話かけたことに驚いた。それはゼロ自身もそうである。気が付いたら口から言葉が出ていたのだ。ゼロはそのことに若干戸惑いながらも言葉を続ける。
「人は生きている限り、誰かと出会い、別れる。でもそれは永遠ではない。生きている限り、またどこかで出会えるさ」
「......そうですね」
ゼロの言葉をリィナは心の中で反復する。そしてそう呟き、ゼロに顔を向ける。そこには満面の笑顔があった。
「ありがとうございます、ゼロさん」
「......礼を言われる筋合いはない」
リィナはそう言い、ゼロに笑顔を向け続ける。対してゼロは無愛想に言葉を返し、その場を去りだす。
「あっ! 待って下さいよ! ゼロさん!」
「待つ筋合いはない。それから......」
一瞬遅れたリィナはゼロを呼び止めようとするが、ゼロは止まる様子はない......と思いきや突然立ち止まり、リィナの方に振り返ると、何かを投げ渡す。リィナはそれを両手で受け止めると、投げ飛ばされたものを見て固まってしまう。
「え......何でぼくの財布が......」
何故自分の財布をゼロが持っているのか、リィナはそれを聞こうとした時、ゼロが口を開く。
「あんまぼさっとしていると、その内身ぐるみ剥がされるぞ」
じゃあな、と言ってゼロが右手を挙げてその場を立ちさろうとする。掲げた右手にはリィナの財布からスッたのだろうデルク紙幣が数枚。それを見たリィナは怒りに体を震わせる。そしてゼロに向かって一言。
「ドロボーーー!!!! お金返してーーー!!!!」
そう叫びながらリィナはゼロを追いかけに走りだしたのだった。
こうして始まったシャンドゥラの砂漠越え。これから先、ゼロとリィナにどのような冒険が待ち受けているのか。それは誰にも分からない。
どうも。パクロスです。今日ヨドバシでワイアレスのマウスを購入したパクロスです。
今までのは有線だったんですけど、仕様上ACアダプターと干渉しててどうにも気になっていたのでこれはありがたいですね。
さて本格始動しました『ZERO戦記』。これからゼロとリィナはどんな旅を始めるのでしょうか。次回『砂漠の襲撃者』、お楽しみに。
P.S.最初はあとがきで用語説明しようと思ったんですけど、中々量が多いので、質問がありましたら感想の方でお願いします。その内に設定集でも作ろうと思いますので。