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きっと有名人は、こんなホテルとかに泊まっているに違いない。 Ⅲ

十六



 カバンをソファーの隅に置いてから、ど真ん中に座り一息つく。裸でも寒く感じない。そして暑くもなく、適温だ。ここって何の研究所だったんだろう、すごい技術力、さすが古代だ。


「さてと、ご飯ごっ飯~」


 先ほど見つけたやたらと大きな冷蔵庫を開けてみる。さっきはチラッとしか見なかったが、円柱形の他に四角い形をした何かの缶詰が整然と積まれていた。それを一つづつ取り出しテーブルの上に並べる。大きさはハードカバーの本二冊分くらいだろうか。結構な大きさだ。


 テーブル横のソファーに座り、缶詰を観察してみる。すると一つだけすぐに分かった事が一つ。


 それは、この缶プラスチックっぽいな。という事。


 指先で叩いてみると、コツコツと金属っぽくない音がしてので、何となくそう思った。


「賞味期限とか大丈夫なのかな……」


 四角い缶詰をグルグル回して、表記を探してみるがそれっぽいのは書いていなかった。それどころか、中身が何かすらも書いていない。何だか本当に食べ物かどうかも怪しいぞ。冷蔵庫に入っているのは食べ物だと思ったんだけどな。


 これで開けると、シュールストレミング級のブツが入っていたら、とりあえず全力でお引取り願おう。


「ふーむ、どうやって開けるんだろう」


 見た限りでは大きな缶詰なのだけど、指を引っ掛けるようなところが無い。では缶切りみたいなのが必要なのだろうか? とはいえ、お風呂といいトイレといいこの部屋といい、こんなに古代文明の技術満載なのに、缶詰だけ昭和に戻るなんてのも虚しい気がする。そもそも缶詰の素材が昭和ではない。


 色々と弄り回していると、缶詰の角の辺りに切れ込みのようなものが薄っすらと見えた。


「お……これは……こう……かな……む…………ぬぬぬ…………ほっ……ていやっ…………」


 見つけた切込みに爪を食い込ませようとしてみたり、親指を掛けて剥がそうとしてみたりしたけれどビクともしなかった。


「怪しいと思ったんだけどなぁ~」


 諦めかけて、切れ込みの辺りを抓まんだままブラブラさせる。


 カバンに詰め込んだ食料で済まそうかと思ってた時、切れ込みの部分が大きく外れて、缶詰がテーブルにゴトリと落っこちた。


「おお?」


 指先に残った一部と缶詰を交互に見つめる。どうやら一歩前進したようだ。


 落ちた缶詰を手に取り外れた部分を見てみると、もう一目瞭然だった。そこには指が一本通る程度のリングがあり、どう考えてもこれを引いてくださいと言わんばかりだ。


 なのでありがたく引かせてもらおう。


 ピンッとリングに繋がった棒が抜けると、缶詰の上部らしきところが明らかに浮き上がり、何やらいい匂いが漂ってきた。


「なんか、手榴弾みたい……」


 抜いたリングを見ながら、ふとそう思った。とはいえこれで、缶詰の開け方は分かった。そして、この匂いからして、食べれそうな予感がする。色んな意味で爆発しなくて良かった。


 この缶詰はまだ沢山あったので、暫らくは食事に困る事もなさそうだ。うん、正に至れり尽くせりだ。何かもう何処ぞのお嬢様にでもなった気分だ。

 深い森の中に住む深窓の令嬢、しかしてその正体は、森の中でひっそりと暮らす大魔導師。……いいね、この設定。


 缶詰を開くと、タレに漬かった肉っぽいものと、色とりどりの野菜っぽいものが入っていた。匂い的に当てはまる物は、すき焼きが近そうだ。


「どれどれ……」


 早速箸をつけようかと思った矢先、その箸が無い事に気づく。この際スプーンでもフォークでも爪楊枝でも最悪手づかみでもいいのだが、とりあえずキッチンを漁ってみよう。

 缶詰をテーブルに置いて、ソファーの背を跨いで後ろ辺りにあるキッチンへ赴く。


 ほとんど起伏が無く非常にすっきりした感のあるキッチンで、オシャレな店のカウンターのような造りになっており、ここで調理をしたらちょっとした板前気分を味わえそうだ。料理なんて大して出来ないけど。


 今回も同様に手当たり次第で棚を引き出していると、見事にフォークを発見することが出来た。ついでに、透明なプラスチックのコップを拝借して蛇口を捻り水を注ぐ。水の出し方は、バスルームのと同じだったので迷う事なく実行出来た。


 再びソファーを跨ぎ、座りながらテーブルにコップを置く。缶詰を手元に寄せて、中のものにフォークを刺して鼻先へ持ってくる。より近くで匂いチェックだ。


「ふんふん」


 やはりすき焼きだ。まごうことなきすき焼きだ。味はどうなのだろう。さすがの私も少し躊躇してしまうが思い切って、一欠けらほどかじってみる。


「……む! うまい!」


 缶詰とは思えぬほどの美味しさに、究極やら至高といった言葉が浮かんできたが口の中のものと一緒に飲み込んでおく。食感は肉に間違いない。味も、高級料亭のすき焼きといった感じだ。行った事ないけど。


 空腹のせいもあって瞬く間に平らげた。そしてもう一つに手を伸ばす。

 少し小さめの丸型の缶詰にはフルーツが入っていて、デザートまで頂く事が出来た。どこまでも至れり尽くせりだ。お蔭で、それなりにお腹が満たされ、心地良い満足感を得られた。

 コップに注いだ水の残りを飲み干してソファーにゴロリと寝っ転がり、うーんっと伸びをする。


「んんーーん、幸せだーー」


 目に入るのは何も無い真っ白な天井。目を泳がせて端から端まで確認するが、照明器具的なものは見つからない。それどころか影も無いので、やはり壁や床自体が光っているのだろうか。


「ふーむ、蛍光塗料の究極版とかかな」


 ぶっちゃけたところ、大して考えを巡らせる気は無い。なんせ古代文明の技術だ、きっと私なんかじゃ想像も付かないようなテクノロジー満載なのだろう。


「素晴らしきかな古代文明」


 ソファーの背もたれに右足を引っ掛けながら、ふと左手の親指と人差し指で脇腹をムニッと抓んでみる。ムニッと…………。


「…………食べてすぐ寝ると牛になる!」


 呪文の如く叫びソファーの上で仁王立ちになる。そう、太ってなどいない。それどころか今日はあんなに森の中を走り回って、魔法の特訓に明け暮れたんだ、むしろ痩せてもいいはず。


 両脇腹をムニッと抓んでみる。ムニムニッと…………。


「まだ許容範囲、まだ許容範囲」


 そもそも、脂肪の量でいったら、紗由里の方が多いはずだ。


 ここのボリュームが違うんだから……。両手にすっぽりと収まった胸を見つめながら思う。


 うん…………虚しいってことは分かってる……、自爆だって事は知っている、それでも私が勝っているところがあるんだって……信じさせて……。


 このままだと更にどん底になるので、早々に切り上げて何か別な事をしよう。


「さってとー、何しよっかな」


 何となく部屋を見渡してみる。とりあえずはスフィアに新しい魔法を登録するために、色々と効果内容を試行錯誤してみようと思っていたが、視線の先に本棚が入った事で、それに興味が移行する。


「おお、どんな本があるのかなー」


 ソファーから飛び降りて、丁度向い側に並んでいる本棚の前に立つ。立派な本棚で、これまた白い。ガラスのような透明の引き戸が付いており、その奥に様々な本が並んでいる。


 一通り流し見てみたけれど、マンガらしき本は無くてがっかりだ。だけれど沢山あった本の中で一つだけ、ふと目に留まったタイトルがあった。


「現象制御用解説書?」


 他のハードカバーの本と一緒に並び、立派な装丁だ。パッと見た感じでは特に何て事は無さそうだけれど、私の持っているスフィアは、ハティが言うには現象を制御するためのものだとか言っていた。その二つの単語が並んでいるので少し気になるところだ。

 一瞬、そういうタイトルの小説か何かとも思ったけれど中を開けてみると、それは説明書のようだった。


 そしてこれは、スフィアの説明書みたいだ。「現象制御用解説書」と銀色の文字で書いてある表紙をめくると目次があり、生体認証やパスワード、登録方法といった事が書かれている。ハティに教えてもらった事を本にしたようなものだろうか。


「うーん、分厚いなぁ、これ」


 最後のページを見てみると、二五六とあった。説明書でこんなにあるなんてケータイ以上じゃないかしらん。一体どんな事が書かれているんだろう。


 とりあえず最初の方をめくると、生体認証、登録についてと題して沢山の文字が並んでいた。ちょっと面倒くさいのと、ハティに教えてもらった事なので飛ばしながら読んでいくと、気になる一文が目に入った。


「えっと何々……これで名前を音声入力すれば、認証第一段階終了となります……?」



 第一段階?



 この表記からすると第二、第三もあるのだろうか。どういう事だろう。ちょっと興味が出てきたのでそのままソファーへ戻り、寝っ転がりながら続きに目を通す事にした。


 生体認証第一段階という項目から読み直してみるが、ここはハティに教えられたところの復習程度にしかならなかったので、その次へ進む。

 ページをパラパラとめくっていくと第二段階、第三段階、第四段階とある事が確認できた。


「ふむ……」


 一通り読もうとしたが、これがまた長い。生体認証だけで八十ページはある。それも見た限りでは、私はまだ一段階目しか終わらせていないらしい。


「全四段階か……」


 魔法が使えるようになる不思議な球体スフィア。一段階であれだけの魔法が使えたのだ、それなら全段階終了させたらどうなるのだろうか。きっともっとすごい感じになるのだろう。なんせあと三段階だ、三段階。変身だって三段階までいくと、それはもうすごい事になる。もう、大魔導師誕生確定と言っても過言ではないだろう。


「くふふふふ」


 想像してたらもう堪らなくなってきた。これはもう、最後までやりきるしかないだろう!


 思い立ったが即行動。早速、第二段階目から認証開始だ。

 カバンからスフィアを取り出すと、説明書の項目、生体認証第二段階を開いた。

すずめの魔法がこの世界の常識を超える第一歩です。


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