小丸小丸金小丸。ナメ。
新入社員と、小丸さん』
【舞台:観光地のお土産屋さん兼食堂『おいしい
よ』・厨房】
「今日からお世話になります!新人の山田です!」
初出勤の朝。私が元気よく厨房のドアを開けると、そこには内股でポツンと突っ立っている白髪交じりの男一一小丸さんがいた。
挨拶をしても、小丸さんはこちらを微塵も振り向かない。それどころか、猛烈な勢いでキャベツを刻み始めた。
「トントントントン豚トントン、ナメ」
(•・・・・・なにそのリズム。あと今切ってるの、100%キャベツだけど)
私が呆然と立ち尽くしていると、横から店長が慌てて私の肩をガシッと掴んだ。
店長は小丸さんからサッと目を逸らし、限界まで声を潜めて囁く。
「・・・・・・まぁ、あの人は『背景』だと思って。次、行こうか」
新人の挨拶を「背景だから気にするな」で済ませる店長。この職場、ヤバいかもしれない。
その時、小丸さんがピタッとキャベツを刻む手を止めた。
ズレた眼鏡を、指先でクイッと上げる。
「ひゃいっ!」
店長が情けない声を上げて、垂直に30センチほど跳び上がった。
「ほ、ほら!次は表のお土産コーナーのスタッフに挨拶しに行こう!ほら、行くよぉ!」
店長は私を盾にするようにして、ものすごいスピードで厨房から逃げ出そうとする。
しかし、その背中に向かって、地を這うような声が響いた。
「・・・・・・・よろしく、ナメ」
ピキッと店長の動きが止まる。
振り返ると、小丸さんはただ内股のまま、包丁を握ってこちらをじっと見つめていた。




