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ep1. 日向実縁はボロボロ

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。


ある一人の魔人に捧ぐ。

平成24年7月頃、わたしは彼と出会った。



その頃のわたしは17歳で都内にある出版社k(ケイ)社が発行する某週刊少年誌f(エフ)にて、新人賞に投稿して一度は落選しながらも、二度目で佳作を受賞した。思えばその頃が人生で一番楽しかった出来事かもしれない。彼と出会う5ヶ月前の3月上旬に初めて編集部を訪れた時は、気分が高揚して見るもの全てが眩しく見えたのをよく覚えている。当時担当になったタナカさん(仮名)は勤続20年のベテラン編集者で関わった作品は軒並みに大ヒットを起こしている。(その中には僕の好きな作品も含まれていたが最近、担当作から外れたらしい。)【理由は後述する】


タナカさん(仮名)が僕と初めて出会い発した言葉は、


「日向くんに特大の花火を見せてあげるから、全力でぼくを信頼して欲しい!!」

「これまで培った経験値、全て注ぎ込むから!!」

「だからキミも全信頼をおいてほしい!!」


なぜここまで情熱的かつ協力的なのかと聞いたら出版業界から引退するから、最後に見どころのあるキミを選んだとのことだった。僕は嬉しかった。その期待に応えるために、僕は挑んだ。でも・・・・・・・・・・・・・今、ここから記憶を掘り起こし、思い出すのは気が滅入るものだが、受賞から8ヶ月後、目標である新連載に向けたネームには届かなかった。その時、とにかくよく言われたことは、


絵は良い、話も、だが、キャラクターに心がない。人物を生きているようにイキイキさせないとダメだ。身近なものでもいい人間観察しろ、とそのために僕は山手線をぐるぐるぐるぐる回っていろんな人を観察したり、高校の特に話したことのないクラスメイトに何気ない世間話を振ったりした。時には因縁つけられかけたり、時には気味悪がれたりしたが、僕なりに毎月50p(ページ)1本、完成させて送っても、ボツを繰り返した。


もう何度目だろうか、今は眩しかった編集部もこの打ち合わせの場ですら灰色に染まり、濁り、窓越しから見える向かいの高層ビルから通りに目線を降ろすと吸い込まれそうになることもある。この道は・・・このプロの漫画家になるというこの道は、僕には向いていないという一種の警告なのだろうか?でも、それでも僕は─────────────────


「日向くん!!」

タナカさん(仮名)は、疲労と切迫の詰まった形相と声色で僕に迫った。


「真剣に真面目に答えて欲しい!!キミは本気でこの主人公がバズると考えているのかな!!?」


僕が描いたネームは、呪いをかけられた友達の代わりに主人公が肩代わりして、呪いをかけた悪魔的存在と戦うことになる王道バトルを兼ね揃えたローファンタジー物だった。


「ハイ自身あります!」

僕も疲れが溜まっていたが、見せぬように相手のテンポに合わせた。


「今まで見てきた様々な人間模様から汲み取ってシンプルですが、優しさにグッとくるものがありまして・・・」

「実際にこーいうことがありました」

「駅構内で複雑な線路図に迷う人や具合が悪くなって困っている人を助けてくれた人達を見て」

 「この世の中はまだ終わったわけじゃない。僕も見習って貢献できる何かになりたいって思ったんですよ」「だから次作は、優しい主人公がいいと」


その間タナカさん(仮名)は、ぐったりしたような、生気をなくしたような表情で俯いていた。その顔は寝不足によるものなのか、やけに青白かった。


「苦しくなるってわかっていても背負ってしまう。見ていると痛ましさと辛いものを感じてしまいますが、でもその人のことが気になってしまう。気づいたら(そば)にいるだけで勇気を与えてくれる。そんなキャラクターを僕は」


「外れ!!ちょい期待し過ぎたかもしれませんね・・・古臭さに気づかないなんて・・・」


タナカさん(仮名)は急に生気を取り戻したように、話を切って僕に突っかかった。

  

「そんなの誰も求めていないよ!?」

「いい!?いまの時代に求められているものはだね・・・!!」


「過剰な暴力にエロという名のスパイス、さッ!!!」


肩を上げずにすぐ切り替えた僕は。


「マジですか!?でも少年誌じゃ厳しいんじゃありませんか?」


「制約とかありますもんねー」


「それに世間への配慮とかも」


と言いつつさらに真っ二つに切るタナカさん(仮名)


「・・・・・・あのねぇ日向くん」

「ド底辺から這い上がるというのは・・・・・・なんでも出来ないといけませんよ!!!」


「おっしゃる意味お分かり頂けますかな!!?」


ハイ と愛想良く頷く僕。


どうしちゃったんだろうこんなこと言う人じゃなかった・・・じゃない人だと思っていたのに・・・(決して幻滅したわけじゃない。担当は僕にとって師と仰ぐ、神様のような人であって、新人の僕が意見なんてとんでもなかった。むしろ失礼のないように相手の要望に100%応えたかった。)


「日向くんってどこ住まい?」 


えっ?


「おっと都内の外れた一軒家で家族3人暮らし、でしたね」


「どうしてですか?」どうして僕の家族構成知ってるんですか?教えましたっけ?


「なぁに、スパイスのわかっていない日向くんに資料用DVD送ってあげようと、思ってね」


冷えついてくる打ち合わせの空気。


「遠慮しないで存分に借りたまえ!!ぼくの大好きな暴力動画、映画にアダルト・・・」


「厳しいですね〜!?優しさって古臭いですか?」

いくら心から尊敬していても、急ブレーキを踏むが如く話題を逸らしたくなることもある。


あるよね?


だけどタナカさん(仮名)は止まらなかった。


「う〜ん。その度量は認めるけどね。キミの秘めた特殊性癖をみんなの前で見せびらかしてもなんとも思わないタフガイとは、今日!!初めて!!知ったよ!!」


僕は二度目の愕然と不快感を腹の底で感じながらも即座にポーカーフェイスで蓋をした。得意なのだ、ポーカーフェイス。そしてすぐさま


「誤解ですよ〜」僕は弁明するために仕方なく彼の事を持ち出した。

「実は最近知り合った・・・友達というか」


タナカさん(仮名)はキョトンとして「友達?・・・あれ?いなかったよね!?いつも1人ぼっちで本を読んで・・・あら申し訳ない。失言だったね!!」


なぜそれも知っているのかは置いといて話を続ける僕。


「最近知り合ったばかりで、実は・・・その主人公のモデルになった人なんです!」


「今すぐ付き合いをやめなさい」タナカさん(仮名)は短く冷淡に、そして嘲笑うかのように言った。


「もしもし!?正気はありますか?変態とお付き合いするって伺ったのですが!!」


「だってそうでしょ!?自分を犠牲にして他人のために働くなんて・・・十中八九ろくな死に方しませんね!!リアリティがない!!時代じゃない!!現実にはいません!!」


「いいですか?人間といい全ての動物は自分より劣った相手でもハッキリ物事を言わないで、遠目で陰口を言い合う陰湿で小狡い(こずるい)弱虫なんですよ!!」


「肩書きだけはご立派!!でも・・・巧く取り繕っているだけで、み〜んな同類!!」


「ぼく達はね、日向くん。そんな弱虫共を慰める為に、破壊と暴力とエロスを包容させた芸術作品を(えが)かなくちゃならないのですよ!!」


僕「そうなんですか〜」


この人は一体何を言っているのかわからないけれど


『でも』

感情には出さないで、僕は小さな抵抗を頭の中で念じ続けた。


 でも僕の心から離れられないのです。その人の、彼の姿が!いつも見知らぬ人を助けようとしています。いつもです。今も! タナカさん(仮名)は気づかないでしょう。言っても信じないどころか存在すら知らないでしょう。だって僕以外の人間には、全く見えていないのだから。僕はいま地上から20階建ての8階、編集部近くの打ち合わせブースに座っている。打ち合わせはいつも大きい窓ガラスから高層ビルが見えるテーブル席でおこなわれその窓越しから、彼が見えるし、彼も見ている。

 

 彼の髪色は灰色で、両目の間に前髪を垂らし自然に整っている。両耳の上からは猫の爪に似たような分厚い(ぶあつい)角を2本生やし、色は黒く少し紫がかっていてとても硬い。まるで黒曜石のようだった。上半身は紫調(しちょう)で、ボタンで留める大きめのパーカーを身に纏い、胸元から腹にかけてはギザギザした葉っぱのような装飾を金で施されている。下半身は、緑調(りょくちょう)のぶかぶかしたズボンを穿き、靴はパーカーと同じく紫調(しちょう)のロングブーツで、装飾は、葉っぱの葉脈の部分だけを切り取り、張りつけた(よう)で金で施されていて、穿き口は外側に(とが)っていても、全体的にゆるふわな印象を受ける。

 

 彼は僕と同じ目線の高さ、つまり地上から8階まで24m(メートル)を宙で浮いている。鳥のように翼が生えているわけでも、ロケットを背負っているわけでもない。彼は背中、両腕から、クリーム色の植物の根っこを触手のように操り周囲の空間、僕のいる出版社から向かいのビルまで左右上下斜めに(人通り、車道はもちろん避けて)張り巡らされている。なぜかというと彼の前には、同じく宙に浮かび根っこに、がんじがらめにされている大型トラック2台分くらいありそうな巨大な蜘蛛の形をした怪物を僕のいる出版社、もといビルに近づけさせないように食い止めているからだ。


 その怪物がなんなのか僕にはまだわからなかった。ただわかるのは怪物が僕を狙い襲いかかってくるということだけ。蜘蛛のような虫類(ちゅうるい)だけじゃない、時には同じサイズの鳥類、時には爬虫類が、いつ何時も僕を狙って来る。その度に彼は、僕の代わりに戦い、守ってくれるのだ。


 彼の名前は、ヒタル。種族名は魔人。魔人・ヒタルと呼んだ。ヒタルは魔人界・・・説明すると、僕達のいる人間世界と同じ空間にありながら異なる空間・・・表裏一体の・・・・・・まあ別世界から来た見た目少年風の生き物だ。とにかくなんで僕は、こんな状況下に陥ったのか、どこから何が変わり始めたのか、今の僕にはまだわからなかった。怪物がなぜ僕を襲うのか、ヒタルが何者なのか、謎を解くよりも、ましては担当編集者に振り回されても・・・・・・僕は漫画家になりたかった。 



約束を叶えるために
















































ああこの時の僕は、まだ弱虫だな。


 


 

 


 




















最後まで読んでいただきありがとうございました!!感想など頂けたら嬉しいです!!

2話目は完成次第投稿予定です!!(投稿時期不明)

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