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第3話



 夜。家のドアを開くと、俺は固まった。 

 

「薫く~ん、おかえり~。遅かったね、何してたの?私は2時間前には帰ってきて、薫君の為に夕食の準備してたんだよ?」


 これだ。家に帰るなり奈々に抱きつかれて、俺の女性恐怖症と言うヘタレ病が発動。

 意識はある、だが体が硬直する。


「ねえ薫君、私今日からここで薫君と一緒に住むことになったから」


 俺から離れて、手をモジモジしながら話す奈々。

 てか、奈々が今日から俺と一緒にこの家で住む? 


「ちょ、ちょっと待て奈々。は?住むって……え?」


 俺は奈々の言った言葉が今一理解できなかった。いや、理解はできているのだがその事実を素直に受け止めたくなかった。


「お母さんの許可はもう貰ってるの。あ、今は婦人会に行ってるって。だから夕食は二人っきりで食べれるね♪」

 

 すごくうれしそうな表情を俺に見せる奈々。

 奈々の言うお母さんとは、奈々の母親の事だろうか? 違うな。俺の母さんの事を言っているのであろう。あの時からこいつは母さんの事をお母さんと言ってたから、たぶんそうだろう。

 だがちょと待て、母さんは俺が女性恐怖症って事は知ってるよな? いいや、一番理解してくれているはずだ。なのに奈々を(うち)に住まわせるのを許可した? 

 何故だ。


「ほら、早く。薫君」

「う、うわ!」


 奈々に腕を掴まれた瞬間に、思わず叫んでしまった。

 しかし奈々は気にしない。固まった俺を無理矢理引きずってリビングへと連行する。


「薫君が女性恐怖症っての言うのは知ってるよ。お母さんからさっき聞いた。でも私はそんなの気にしないから安心してね?」


 ね?じゃない!

 奈々は気にしなくても、俺がダメになるんだから安心なんてできるか!

  

 リビングに入ると、やたらと良い匂いが俺の鼻を刺激する。だが、奈々に掴まれている事によって俺の頭は今にもシャットダウンしそうだ。

 

「ほら、薫君。座って座って」


 腕から離れたかと思うと、今度は背中を押されて無理矢理にも近いが、席に着かされた。

 ふと視線だけを横に移すと、俺の席の隣にあるはずのないイスが一つあった。

 この家は、俺と母さんの二人で暮らしている。よって、イスは二つのはず。 だが今は俺の目の前に一つ。そして隣に一つ。計三つのイスがあった。

 

(本気でこの家に住むきかよ……)


 俺を席に着かせるなり、奈々は俺の隣のあるはずのないイスに座る。その距離僅か60cm。

 ダメだ……風邪を引いた訳でもないのに体の震えが止まらない。寒気がする。

 

「はい、薫君。あ~ん」

「な……むぐっ!」


 テーブルに並べられている豪華な夕食。その中から、野菜炒めを少々箸で掴んで俺の口に運んでくる奈々。

 これは、普通の男子ならば願ってもないぐらいの嬉しい事なのだろう。だが、俺には拷問以外の何者でもない……

 奈々に静止を呼びかけようとしたが、時はすでに遅かった。これも、無理矢理に俺の口を開かせねじこむようにして口の中に、少し焦げ目のついた野菜炒めを放り込まれた。


「おいしい?ねえ、薫君。おいしい?お母さんと一緒に作ったんだよ?」


 おいしい。おいしいのだろうが、何故か今一味が分からなかった。奈々と言う女性に対する恐怖。その事によって俺は味覚までおかしくなったのだろうか?

 だが、ここでおいしいと言わなかったらどうなるのだろうか?

 想像したくもない……


「おい……し――むぐぐッ!」


 おいしいと言おうとした瞬間に、何かを口に再度放り込まれた。 

 一瞬息が詰まるかと思ったが、なんとかゴクリと唾と一緒に飲み込んだ。しかし、何を食わされたんだ?


「薫君。ハンバーグの味はどう? これはね、お母さんから聞いた薫君の大好物だからって、私が一から一生懸命作ったの!だからおいしいでしょ?おいしくない訳ないよね?」


 どうやらさっき口の中に放り込まれた、料理はハンバーグだったようだ。確かに俺の大好物だ。だが、今、この状況で味なんて分かる別けがない。

 更に言えば、食感すら分からなかったから何を食べたのかすら分からなかった。

 これでおいしいと聞かれても、なんとも言えない。

 

「ねえ……おいしい?」

「っ!!」


 さっきまでニコニコだった奈々の表情が一変した。

 鋭く、俺の瞳を抉るかのような視線。俺の座っているイスに手を置き、ゆっくりと近づいてくる。


「お、おいしい……」

「そっか~。よかった~。薫君にそう言ってもらえるなんて、私凄くうれしいよ。ほら、まだいっぱいあるからジャンジャン食べてね♪」


 俺から離れて、ニコニコの表情に戻る奈々。 さっきの怖いくらいに冷え切っていた時とは別人だ。



「全部食べてくれたんだ。嬉しいな、も~」


 そう言って奈々は真っ赤なエプロンを纏い、ルンルン気分で俺が食べ終えた食器を次々と洗っていく。俺はと言うと、ソファーで屍となっていた。

 帰ってきていきなり女に抱きつかれ、そして僅か60cmの距離で「あ~ん」なんて言う、危険な行為。 昼間の保健室での事も合わせると、正直もう体力も気力も0.6しか残っていないだろう。

  

「お風呂もう入れてあるから、入ったら?薫君」


 お、気が利くじゃないか……今もこう言った、気が利く所も残っているもんだな。本当、こうなる前は優しくて気が利く、かわいい女の子だったのに……。あの時は奈々の事が好きだった、でもその好きが奈々を変えた。


 俺は、近くに多端であった洗濯物から着替えを取り風呂場へと向かった。





「は~。何で、俺は奈々がこの家に住むことに対してこうまで、否定しないのだろうか?」


 入浴剤で、白く濁った湯船に映る自分の顔を見ながら呟く。

 否定はしているのだろう。今すぐにでも、奈々をこの家から追い出したい気持ちはある。だが、追い出せない……女性恐怖症。そして、何よりその原因である奈々が――怖い。

 なのにどこか、家に住むことになった奈々を受けれている俺。


「俺は、まだ……あいつの事が、好き……なのか?」

 

 だから、あいつがこの家に住むことを全力で拒否しない。また、昔みたいに一緒に居たい。そんな事を心のどこかで、無意識に思っているのか?

 分からない……


 ――バシャバシャ。 風呂の湯で顔をこすりつけるようにして洗う。さっき洗った髪が、ダランと俺の視界を覆う。

 

「伸びたな……」


 どうでもいい事を呟く。本当にふと思ったことを口にしたにすぎない。

 だが、その呟きと同時にガラッと、浴室のドアが開く音が聞こえた。


「な、な……!?」


 入ってきたのは奈々だった。タオルで体を覆い、隠しているが、普通入ってくるか!?

 それに、俺は奈々と違って全裸だ。ギリギリ湯につかっている事によって見えてはいないが、無理だ!

 ただでさえ女がダメなのに、こんなハプニングは御免だ。


「何で出ようとするの? 恥ずかしいの?」

「当たり前だ!」

「何で?昔はよく一緒に入ってたのに」

「む、昔は……あれだ!とにかく俺は出る!」


 そう言って、俺は手すりに掛けてあったタオルを腰に巻き、浴室を出ようとした。もう限界だ。さっきから奈々に対してビビッてだけど、我慢してきた。だけど、もう無理だ。 

 しかし、それを奈々が許しはしなかった……


「何で、私から逃げるの……」

「ッ!!」


 俺の背に抱きついてくる奈々。一瞬にして、俺は自由を奪われた……。


(逃げている訳じゃない。ただ、怖いんだ……女が怖い。でも、奈々に対してはそれだけじゃない。 ――また、お前を壊してしまいそうで……)


 でも、やっぱりこれは――逃げているのだろうか? 


 奈々の心臓の鼓動がドクン、ドクンと分かる。 背に当たる二つの大きな膨らみ。 耳元から聞こえる奈々の呼吸。 髪から落ちた水滴がピチャンと響く音。

 俺の停止と同時に、何もかもが停止したかのように、静まり返っていた。

 奈々は、俺に抱きついていた手を更にぎゅっと締め付ける。だが、不思議と痛くはなかった。 


「薫君……好きだよ……」


 一瞬。一瞬だが、その言葉を聞いた瞬間に体の震えが止まった。奈々に対して抱いていた恐怖が、頭の中から消えてクリアになた。

 だが、クリアになったと同時に、俺は昼間と同様に闇に落ちていった。



 次に眼を覚ました時には、ベットの上だった。


「そういや、俺……風呂で奈々に抱きつかれて、そんでなんか……」

 

 今一頭がシャキッとしない。

 

「zzz」

「わあ!?」


 ビックリした~。本気で焦った。 

 隣で、俺と一緒の布団に潜り込んでいる奈々がいた。これは、誰でも驚くだろう。そして、俺はまたまたまた固まった。

 密着。腕は、風呂場で見たときも思ったが、以外に大きい奈々の胸に抱え込まれ、頭は俺の肩に、足は奈々の両足に挟まれ……色々とやばい。

 流石の俺も、恐怖の中にどこかピンク色の感じが頭の中を、五分の2がしめていた。

 俺は驚きの声を発するのと同時に、体が飛び跳ねてしまった。 だが、それでも起きなかった奈々に何故かホッとする俺。

 ふとベットの横の棚に置いてある時計を見る。 針は約3時25分を指していた。


 ――ダラダラ。 冷や汗が体を流れていく。 やばい、また意識が遠のいていく……。

 

 部屋は真っ暗。そして、隣には俺の天敵が密着している。これで俺が恐怖を感じない筈はない。 


 ――ガチャ。 部屋のドアを開かれる音がした。それと、同時にパッと部屋の電気がつけられる。


「薫、どうかしたの?」


 部屋に入ってきたのは、母さんだった。どうやら、俺の叫び(?)に気づいて様子を見に来たらしい。


「か、かあ、ん。ヘル、ぷ」


 途切れ途切れの俺の助けに、母さんはウフフと微笑み、俺を抱き起こす。

 それでも俺から離れない奈々。


「奈々ちゃん、本当に薫の事が好きなのね」

「そ、そう……なんだけどさ」


 不思議と、俺は母さんに対しては恐怖を感じない。 カウンセリングの先生が言うには、安心できるからとかなんとか言っていた。

 

「それよりさ、なんで奈々が(うち)に住むことに……」


 今の光景を第三者が見たらどう思うだろう?

 体の動かない俺を、支えている母。そして、その俺に抱きついて寝ている奈々。う~ん。


「昨日ね、奈々ちゃんの両親から電話がかかってきたのよ」


 母さんと奈々の両親は、昔からの友達。だから近所に住んでいた俺と奈々も自然と仲がよかった。 風呂とか一緒に入ったり……おっと、いかんいかん。

 奈々の両親からかかってきた電話の内容は、簡単に説明すると、


 奈々が一人暮らしするのは心配だから、預かってくれ。

 ちょっと略しすぎたかもしれないが、まあこんな感じだそうだ。

 それを、母さんはOKした。


「なんで俺が女性恐怖症って事分かっててそんな事……」

「女性恐怖症だからよ。奈々ちゃんと一緒に暮らして、貴方のそれが治るかもってね」


 30超えたおばさんが、何をそんなにかわい子ぶってんだか。 まあ、20代後半にしか見えてないからいいけどさ……。


「あっそ、まあとにかく奈々をどうにかしてくれ」

「え~、いいじゃない。これからは一緒に寝れば。あ、エッチな事は程々にね?」

「んな事するかー!」


 俺が叫んだと同時に、パッと俺を支えていた手を離してさっさと電気を消して部屋を出て行く俺の親。

 あんな事普通、実の母親が言いますか?

 

「てか、母さんが居なくなってからどうしてか、また体の震えが止まらないんだが……やべ、また落ちる」


 そして俺はまたまたまた意識を失った。






まずは更新が遅くなってすみません。


薫と二人っきりと言う事で、ヤンデレは少し控えましたが、どうでした?

 

作者的にはこれからちょっと、まあ色々とあるんですが、今回はこう言ったものも書きたかったものでして。


まあ、気軽に感想などを頂ければ嬉しいです。 


今度の更新・・・何時だろう? 

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