㉒ 変わらぬ態度の彼女。優と和奏の忘れ物。『優が帰ったら、すぐ鍵しめるから安心して帰って?』
無事、ランジェリーショップを発見した僕たち。
色とりどりの下着に囲まれ気まずいが、和奏から離れて見ているのもおかしいため、意を決する。
「え……ブラジャーってこんなにするの……??」
値札を見て驚愕する。
ブラジャーとショーツがセットになっており、二万円は軽く超えている。
「あたしの場合、サイズも大きいから、その分、値段も上がっちゃうのよ……」
「……これなら、無理に買わなくても、コート羽織ってれば、ノーブラでいいんじゃ……?」
「優、あなた変態なの……? 実は最近、サイズがすこし大きくなったみたいでね、新しいのが欲しかったところだったから、ちょうどよかったの」
「……そ、そう? ならよかった……」
店員さんに事情を話して、購入後、試着室でブラを身につける和奏。とりあえずこれで一安心だろう。
「なんだかんだ迷惑かけちゃったわね……このあとどうする……?」
時計を見るとすでに十六時を回っている。
「和奏の家でゆっくり話でもしない?」
「そうね、ちょっと疲れたわ……」
いくら映画を楽しんだとはいえ、暴漢に襲われかけたり、服が濡れてハプニングになってしまった。
くつろげる自宅のほうがいいだろう。
駅に向かって歩き出した。
◆◆◆◆
和奏のマンションに戻った僕たちはリビングのソファに並んで座り、映画の感想会第2回戦を開始した。
ローテーブルに映画のパンフレットや、僕が買った文庫本を並べ、楽しく話をした。
──やがて、和奏の親友、凛の話になる。
「凛とはじめて話をしたのは、中一の頃。水泳の春大会に出場した凛の応援に行った時だった。その時、接戦の末、惜しくも二位になった凛が悔しさで泣いちゃってね。あたしも一緒になって泣いちゃったの。それが凛と仲良くなったきっかけ。夏の大会ではさらに練習を重ねて一位に輝いて、あたしも一緒になって喜んだわ……」
◆◆◆◆
和奏との話に夢中になって、気付くと窓の外は真っ暗になっていた。
時計を見ると、いつの間にか十八時近く。
遅くなるとまずいからと、和奏の部屋を辞する。
しかし、乗り込んだエレベーターが下降しはじめたタイミングで、和奏の家に買ったばかりの文庫本を置き忘れたことに気付く。
1階に到着し、再度和奏の自宅、マンションの最上階へと取って返す。
ピンポーーン……。
部屋のチャイムを鳴らす。
──応答がない。
不安を覚え、ノブに手を掛けると、ガチャリと扉があいた。
(鍵かけてないなんて、不用心だな……)
そう思いながら、いったんリビングに入る。
しかし和奏の姿は見えない。
(やっぱりまだ部屋かな……?)
和奏の部屋の扉をノックする。
──やはり反応がない。
(……もし、体調が悪くて倒れていたりしたら……?)
心配になり、勝手に入るのはよくないとは思いつつ、扉を開ける。
「……和奏ー、はいるよーー……?」
部屋の中に入る。
彼女の姿は見えなかった。
テーブルの上に、僕の買った文庫本が見えた。
とりあえずそれだけを手に取り、部屋から出るため立ち上がった。
──カタリ。
背後から聞こえた物音。
「……和奏?」
咄嗟に振り返る。すると、
背後にいた和奏と目が合った。
「和奏、どこにも居ないから探したんだよ……って?!」
「──優。戻ってたの? あ、もしかして鍵あいてた……? やっぱりオートロックじゃないと危ないかしら……」
──普段と変わらぬ口調の彼女。
しかし、そこにいるのは、見慣れたいつもとは全く違うその姿だった。
──彼女の全身。
風呂場で服を脱ぎ、バスタオルも巻かずに部屋へと戻ってきたのだろうか。
──その美しい身体を覆い隠すものをまったく身に着けていない。
何も身につけていない、
一糸纏わぬ、和奏の姿……。
──ドクンッ!
一気に心拍数が跳ねあがる。
「わっ、和奏……!」
「優、急に戻ってきて、どうしたの?」
あっけらかんとした彼女の声。
「きっ、今日買った本忘れちゃって……」
「あっ! そうそう。あした渡そうと思って、そこのテーブルに置いたのよ。あったでしょう?」
「あ、あった……、けど。わ、和奏は……」
「あたし? あたしは、お風呂入ろうとして服全部脱いだところで、着替えとかバスタオルとか忘れてたことに気が付いてね。取りに来たのよ」
和奏が、姿見に映る自身の裸体を見て、大して困っていないような困り顔をした。
僕の目の前を通る彼女。
チェストの前で、僕に背中を向けてしゃがむ。
「雨降りそうだったから、傘なかったら持って行ってね」
和奏がしゃがんだままこちらを振り返り、彼女から慌てて目を逸らした。
「優が帰ったら、すぐ鍵しめるから安心して帰って?」
僕はその声を聞き終わるや否や、和奏の部屋から走り出る。
マンションのエントランスを抜け、しばらく走っていると、雨が降っていたことに気付く。
傘は借りてこなかった。
──ずぶ濡れの体。そのままトボトボと家路についた。




