㉑ 黒のブラウスが似合う和奏。倒れ込んだ胸元。『…………見えた?』
映画の感想会もひと通り終え、映画館から直結するビル内へと移動する。
(暑いな……)
ビル内は暖房の効きがいいのか、コートを着ていると汗をかいてくるほどだ。
とりあえず脱いで手持ちの紙袋にしまう。
和奏も暑いのか、手のひらをパタパタさせ、汗をかいた顔をあおいでいる。
「……和奏、汗かいてるけど、コート脱がなくて大丈夫……?」
「そ、そうね……」
すこし迷った様子をするものの、コートを脱いで、黒のブラウス姿になった。
両胸のあたりに手を当てて、そわそわしはじめる。
その様子に違和感を覚えたものの、黒のブラウスは上品な雰囲気の和奏にぴったりだ。
「やっぱりそのブラウス、和奏にすごく似合ってるよ」
「そ、そう? ありがとう……」
素直な気持ちで褒めたものの、落ち着かなそうな様子の和奏。
すると、彼女の横をおじさんが通り過ぎた。
驚いたように、和奏の肩がびくりと跳ねる。
急いでスマホを取り出した和奏は、画面を見つつ、周囲を見回す。
──ドスン!
和奏の足元。駆けてきた小さな子供が、彼女にぶつかった。そのまま走り去っていく。
彼女は、スマホに気を取られていたのもあり、バランスを崩して床に倒れこんだ。
「痛ッ……!」
慌てて受け身をとる和奏。
腕を地につけ、這うような姿勢になった。
「和奏、大丈夫……!?」
彼女の前にしゃがんで、手を差し伸べる。
……ふと、和奏の胸元に視線が行った。
──四つん這いのような格好の彼女。
胸元が大きく開いて、黒ブラウスの中身が見えそうになった。
「あっ……!」
和奏が、急いで自らのパックリと開いた胸元に気付いて、手で押さえた。
「…………見えた?」
「い、いやなにも……」
「ふぅん……? あなたなら見てもいいけど……」
「えっ……」
和奏は立ち上がると、あたりを見回し、他に誰も見ていないことを確認する。
「……実は、セーターにコーヒーが掛かった時、インナーとブラジャーもビチャビチャになっててね……流石に、下着の替えなんて持ってなかったから、仕方なく、コートを羽織って凌いでたの……」
「え……?! なら、早く言ってくれればいいのに……!」
「気を遣わせちゃうかなと思ってね……、ごめんなさい……」
「いや、謝ることじゃないから……、それより、早くどこかで、替えの下着買わないと……!」
「……それだけど、ちょうどスマホでお店を見つけたところだったのよ。ついてきてくれる?」
スマホに表示されたランジェリーショップの地図を見せられる。
「たぶん、あっちのほうだと思うんだけど……」
「分かった、行こう……ただ、怖いからやっぱりコート着よ?」
「そ、そうね……さすがにブラウス一枚はまずいわよね……」
改めてコートを羽織る和奏。
そそくさとその場をあとにし、ランジェリーショップに向かうのだった。




