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罰ゲームで黒髪清楚な高嶺の花に告白した僕は、百合属性だったカノジョに女装させられて、誰にもヒミツの関係になった。  作者: きたみ詩亜


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⑱ 駅前ビルの書店。ふたりの愛の逃避行。『やめてもらえませんかっっ……?』

 和奏のマンション最寄り駅から、二十分ほど私鉄に揺られる。途中、モノレールに乗り換え、終着駅で降りた。

 

「このあたりは、あたしもよく来るから案内するわね?」


 僕の手をとる和奏。彼女の優しい体温が手越しに伝わってくる。

 ──すこし気恥ずかしい感情が湧いてきた。


「……じゃあ、行こっか!」


 気恥ずかしさを打ち消すように明るい声を出す僕。

 色付くポブラの並木道。

 スカートを翻し、僕たちは走り出す。


◆◆◆◆


 映画館に向かおうとしたものの、上映にはまだ早いため、駅前の商業ビルで時間をつぶすことになった。

 アパレルショップの前を通り過ぎた和奏。しかし、慌てて引き返すと、店の前で足を止める。

 セール中の、黒のブラウスをじっと見つめ、「うーん……」と思案している。


「そのブラウス買うの?」

「そうね……でもやっぱり荷物になっちゃうから今はやめておこうかしら……」


 値札を見ると、かなり安くなっているようだ……この値段ならすぐに売り切れてしまうかもしれない。


「僕が持つから買いなよ」

「そんな……悪いわ」

「でも、僕もこの服、ちょっと着てみたいから……」


 自分で言ってみて恥ずかしくなる。


「そ、そう? なら、せっかくだし、買っちゃおうかしら」


 和奏の顔に、パァーッと笑みが咲いた。


◆◆◆◆


 ブラウスの会計を終え、ホクホク顔の和奏と僕。エスカレーターでビル内を移動していると、榎伊國屋えのくにや書店の看板が目に入る。


「ねえ、和奏……本屋見てもいい?」

「いいわよ。あたしも見たいわ」


 推理物のコーナーで、平積みされている文庫本を手に取る。ラノベのようなイラストが描かれたその表紙。

 

「それ買うの……?」


 和奏が表紙を覗き込む。


「うん。『名探偵ドッペルゲンガー・じゅう』っていうシリーズでね。自分の分身、つまりドッペルゲンガーを生み出す銃で分身を作って、潜入捜査や、おとりにして謎を解いていくんだ」

「すごいわね……それで?」

「主人公は裏街で探偵事務所を営む、度減どへる源賀げんが。その落ちぶれた見た目とは裏腹に、実は切れ者でね。どんな謎でもドッペルゲンガーで解決しちゃうんだ。とっても息の長いシリーズでね、僕たちが小学校に入学したくらいの頃から毎月発売されてるんだ」

「優、プレゼン上手ね! あたしも読みたくなってきちゃった」

「あははっ。プレゼン関係なく面白いんだけどね。今度貸すよ」


 本屋では珍しいがセルフレジがあったので、そこで会計を済ませる。

 僕の部屋の本棚には、百巻以上続くこのシリーズがずらりと並んでいる。


 今度は、コミックスのコーナーへと向かうと、見覚えのあるイラストが目に入った。

『岬トライ&アングル』の原作コミックだ。

 上下巻が映画化記念の特装カバーになっている。


「あっ! このカバーのバージョン、買い逃してたのよ」


 上下巻を左右に並べると、先ほど見せてもらった映画のチラシのイラストになるようだ。

 和奏が上下巻を手に取る。


「あたしもセルフレジで買ってくるわね」

 

 ひとりコミックコーナーに残る僕。

 帯には『累計二十万部突破の人気作、ついに待望の映画化!』と書かれている。


 ストーリーは、主人公のみさきが、親友である触愛ふれあから恋愛対象として想いを告げられるところからはじまる。 

 だが、岬は部活で後輩の女子、三隅みすみが好き。

 なのに、触愛ふれあに誘われると、欲望に逆らえず、一夜の関係を持ってしまう。

 しかし、最終的には、後輩女子、三隅みすみと結ばれる、というのが話の大枠。

 あらすじだけ聞くと、なかなかな展開の作品だが、涙あり、笑いありの感動大作だ。


  「ちょっ……やめてもらえませんかっっ……?」


 ──不意に聞こえた、和奏の怯える声。


 店の外に視線を向ける。

 見知らぬ男に手首を摑まれ、怯える和奏の姿が目に入った。


 ──ちょうど店員や警備員の姿は見当たらず、他の客も見て見ぬふり。


「俺たちと、イイコトしようよぉ〜〜?」


 逃げようとする和奏へと食い下がる男たち。


 (──和奏があぶない……!!)


 足が勝手に動き、和奏の元へと駆け出した。


 「──そっ、その子っ、あたしの友達なんですけど……っっ!!」

 

 男たちの前へと躍り出た僕。

 声で男とバレるかと思いつつも、スカートの裾を握りしめ、大きな声で言った。


「……お友達ぃ? へー……声ガラガラなわりに、可愛い顔してるじゃん。ちょーどいいから、四人で遊ぼーよ」


  男の視線が、僕の顔から爪先までを、なめるように動く。  

 ──彼らの目の色が変わったのを、如実に感じた。


 (——このままだと本当にアブない……!)


 流石にこのままでは男たちから逃げられないと悟り、周囲をぐるりと見回す。


 ……すると、遠くからやってく来る人影が目に入った。


「……あっ! 警備員さん、こっち!」


 奥から向かってくる人に手を振り、大声で叫ぶ。


「……ハッタリこいてんじゃねーよ──ってマジかッ!?」


 巡回中の警備員が急いでこちらに走ってくる。

 僕はその隙をついて和奏の手を掴む。


「──和奏、こっちだ! 走るよ……!」

  

「わ、わかったわ……!」


 必死に逃げる僕と和奏。

 さながら、愛の逃避行のようなそのひと幕。

 

(──こんな時間が永遠に続けばいいのに……)


 そんな自分勝手な妄想に足をもつれさせつつ、僕たちは男たちから離れた遠い場所へと、ひた走るのだった。

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