⑯ 寂しげな凛。気まずげな和奏。『最近、バタバタしちゃって……』
月曜日。
下町でのデートからは十日ほどが経過していた。
一昨日に行くはずだった土曜日のデートは、僕の都合でドタキャンした上に、妹の琥珀の面倒まで和奏に頼んでしまった。
◆◆◆◆
昼休み、教室。
本日、航汰は休みだったため、僕はひとり、自席にてコンビニで買ったおにぎりを食べていた。
和奏と凛の会話。ふたりと席が近い僕の耳に漏れ聞こえてくる。
凛が、和奏に寂しげな目を向けていた。
「──和奏、最近土曜日、忙しいの……?」
「……ごめんなさい、凛。最近、バタバタしちゃって……」
すこし気まずけな和奏。
申し訳なさもあってか、凛を優しくギュッと抱きしめる。
「和奏……」
凛は、そんな和奏の名前を弱々しく呼ぶだけだった。
「あっ……!」
しかし、和奏は急におなかを押さえる。
「……ごめん、凛。お手洗い……」
「うん、分かった……」
和奏が出て行ってから数分。トイレに行こうかと廊下に出ると、トイレから戻ってきた和奏と鉢合わせする。
隅に移動して話そうとするが、手で制された。
「ここでいいわ……」
「和奏、体調大丈夫……?」
苦しそうな和奏が心配になり、思わず訊ねる。
「……ごめんなさい。あたし、二日目が重いから……薬も飲んでるのだけど、なかなか効かなくてね……」
顔色のすぐれない彼女。
何も考えずに聞いてしまった男子の僕。
「ご、ごめん、ヘンなこと聞いちゃって……」
「いえ……体調気遣ってくれてありがとう……女の子なら毎月あるものだから、気にしなくて大丈夫よ……」
デリケートな話題に無遠慮に触れてしまった僕に、優しく答えてくれる和奏。
──女装したからって、ほんとうに女の子の気持ちは分からないんだな……。
デリカシーのなさに、心のなかで呆れてしまう。
◆◆◆◆
教室へと戻ると、和奏からレインが来た。
彼女のほうを見ると、先ほどより顔色がよくなっていた。
『優、もう落ち着いたから心配しないでね……』
『ううん、こちらこそ……もしよかったら、次の土曜日は、凛と遊んであげたら? 僕は全然いつでもいいから』
『大丈夫。日曜のスイミングがたまたま中止になったみたいで、その日に凛と遊ぶ約束したから……気にかけてくれてありがとう」
『そうなんだ、よかった』
『……ねえ、今度の土曜日、映画に行かない? あたしのお気に入りの作品の劇場版がやるのよ。その時は調子も万全だと思うわ』
『うん、いいよ』
『ありがとう! また連絡するわね」
(映画って何見るんだろう……)
スマホを鞄の奥に仕舞う。
──楽しみに週末を待つことにした。




