番外編.ⅰ 和奏×琥珀 琥珀のお留守番。和奏の一番大事なドレス。
Side.亜桜和奏
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都内マンション一室。両親が海外赴任中のため、今はあたし、亜桜和奏ひとりで住んでいる部屋。
その玄関先に、同級生の男の子と、その妹さんが立っている。
男の子──あたしの恋人、殿村優。
そして、彼の手をぎゅっと掴む、優の妹、琥珀ちゃん。
彼女は頭の上で少し伸びた髪をちょんまげに結っている。優に似て可愛いらしい。
「……ごめん。今日の予定、ドタキャンの上に、妹のことまで頼んじゃって……」
「いいのよ。他に預かってくれる人もいないのでしょう?」
「うん……ちょっとバタバタするから、戻りは夜の八時くらいになっちゃうと思う」
「分かったわ、任せておいて」
「……いいか、琥珀。和奏お姉ちゃんに迷惑かけちゃ駄目だからな?」
「はーい!」
◆◆◆◆
あたしの部屋に、琥珀ちゃんとふたり。
「これ着てみない?」
あたしが昔着ていた、フリルがたくさんついた淡いブルーのお気に入りのドレスをクローゼットから取り出して、琥珀ちゃんに見せる。
「いぃの……?」
琥珀ちゃんが、あたしのドレスにキラキラと目を輝かせる。
「もちろんよ……」
昔、お母さんが買ってきてくれたそのドレス。安物だからと言っていたけれど、今のあたしには、これがすごく高かったであろうことが分かってしまう。
琥珀ちゃんに着させてあげる。
ドレスを身に纏った琥珀ちゃん。
──すっっごく、彼女に似合っていた。
姿見で全身を見せてあげると、琥珀ちゃんは1回転して、にこーっと、顔を綻ばせた。
「……あたし、お姫さまになったみたい……っ!!」
鏡の中に映る自分の姿に、目を輝かせる。
「〜〜っ、琥珀ちゃん、かわいい〜〜〜〜っっ」
思わず抱きついて、ほおずりしちゃう!
「和奏お姉ちゃん、苦しいよぅ〜〜……」
腕の中の、あたしの大事なドレスを着た琥珀ちゃん。
──あたしにはもう小さくて着ることのできない大切な洋服の姿を、しっかりと目に焼き付けた。
◆◆◆◆
琥珀ちゃんとふたりで、お夕食をとったあと。琥珀ちゃんをお風呂に入れてあげる。
「和奏お姉ちゃん、おっぱい大きい……」
「琥珀ちゃんも、もう少ししたら、大きくなるわよ……」
「琥珀のお母さん、おっぱい小さいからなぁ……」
「……きっと大丈夫よ」
「だといいなぁ……」
◇◆◆◇
「遅くなってごめん!」
玄関に立つ優。夜9時近くになり戻ってきた。
「お疲れ様……、気にしなくていいわよ……。」
「琥珀は……?」
「あたしの部屋で寝てるわ。疲れちゃったみたい」
「……分かった。起こさないよう、おぶって帰るよ」
「あっ、優。これ琥珀ちゃんにプレゼント」
優に、テープで封をした紙袋をひとつ差し出す。
持つと、ちょっとだけ腕に重みを感じる。
「もらっちゃっていいの?……中身は……」
「ヒミツよ。…………琥珀ちゃんに開けてもらってね。優が先に見たら絶交だから」
◆◆◆◆
地元の駅、鐘ヶ淵駅で降り、琥珀をおんぶしながら家路を進む。
琥珀が僕の背中で大きなあくびをして目を覚ました。きちんと僕の右手には和奏から預かった袋を下げている。
「ここは……?」
「もう家に着くところだよ」
「……和奏お姉ちゃんのとこ、もっと一緒いたかった……」
「また今度な……、でも、お姉ちゃんのこと、お母さんたちには内緒だからな……?」
「うーーん、わかった……」
◆◆◆◆
翌朝。
目を覚ました琥珀。
ちょっと、ボーッとしている。
「和奏お姉ちゃんが、琥珀に、って」
和奏から託された袋を渡す。
彼女との約束どおり、中は見ていない。
琥珀がテープをビリビリと破り、袋の中をそっと覗きこむ。
僕が後ろから覗くも、何が入っているかは見えない。
「……何が入ってたの?」
琥珀が振り向く。
にやーーっと笑い、
「ナイショーーーっ!」
とびきりの笑顔を僕に向けてくるのだった。




