⑬ 和奏とのプリクラ。しあわせな時間。『今撮ったプリクラも大事にノートに貼るんだから……』
駅前へと戻りしばらく歩いていると、古い外装のゲームセンターがあった。
ガラス越しに中を覗くと、昭和末期から平成初期で時が止まったような店内。
筐体のモニタ内で忙しなく動くドットキャラ。ファミポン時代のアーケードゲームだろうか……?
おそるおそる、店内へと入ってみる。
店内には、さまざまなゲームサウンドが渾然一体となっており、騒がしい。
見渡すと、大型の筐体がいくつも並んでいた。
『バーチャルファイト』という、一昔前の3D格闘ゲームや、『ハングオフ』という、バイク筐体に乗ってプレイするという、ある意味ダイナミックなゲームなどに目を引かれた。
ただ、流石にスカートでバイクは無謀だろう。自身の足元。フレアスカートに包まれた両足を見る。
どうも、最新のゲーム機は置いていないようで、比較的新しい機種でも、僕たちが生まれた頃のゲームで止まっているらしい。
「あ! 優、あっち」
和奏が、『ドラムの達人』筐体の奥を指差す。
視線を向けると、上部を布で隠された縦長の筐体があった。
──プリクラだ。
九十年代末期のタイプらしく、すこし時代を感じる。
値段は三百円。令和のプリクラ相場は知らないが、物価高の昨今、リーズナブルと言えるだろう。
「撮りましょうよ?」
「うーん……」
これまで女の子の知り合いなんていなかった僕。プリクラなんて撮ったことはない。
それに、最近は、男性のみでのプリクラは、盗撮やナンパ防止などのため禁止されているらしい。
まぁ、禁止されてなくても、航汰とプリクラなんて撮りたくないけど……。
「あたし、プリクラ好きでね、……ほら、凛と撮ったり、クラス委員長の恩田さんとかともよく撮るのよ」
和奏がポーチからプリクラノートを取り出し、凛や恩田と撮ったプリクラを見せてくる。
プリクラの仕切り内に入ると、和奏がハートのフレームを選択。そして、流れるように、和奏が腕を絡めてくる。
──ぶにゅりと伝わる、柔らかな感触。
む、胸が当たってる……!
何度か味わってしまっている、まだ慣れないその感触。
動揺を悟られまいと、なんとか笑顔を作ろうとする。
『はい、チーズ……!』
機械音声。パシャリ。
『できあがるまで、ちょっとまっててね』
待つことしばし。
──カタン。
取り出し口の蓋を開き、小さな写真を手に取ってみる。
──ちいさなプリクラに写るふたりの姿。
僕の腕にしがみつき、眩しい笑顔を浮かべる和奏。
それとは対照的に、彼女に密着され、困り笑顔を浮かべる僕。
「なんかヘン……」
思わず溜息が漏れる。
「あら、かわいいじゃない……凛みたいで」
──和奏に抱きつかれ、困り顔を浮かべる凛の顔が頭に思い浮かぶ。
「……それ、褒め言葉?」
「もちろんよ……今撮ったプリクラも大事にノートに貼るんだからっ!」
そう言って、口元に笑みを浮かべる和奏。
「あはっ、そっか……!」
思わず僕の口からも笑いが漏れる。
──和奏といると、何だかホントに楽しいな……。




