表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罰ゲームで黒髪清楚な高嶺の花に告白した僕は、百合属性だったカノジョに女装させられて、誰にもヒミツの関係になった。  作者: きたみ詩亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/21

① 玉砕覚悟の罰ゲーム。高嶺に咲いた百合の花。『僕なんて、ふられて当然だからなぁ……』

 十月中旬。とある昼休みの賑やかな教室。

 そんな教室内とは打って変わって、窓の外は薄曇りの空。強風にあおられた落ち葉が、校庭の上を舞っていく。


「はあ……」


 思わず漏れた溜息。

 僕──殿村とのむらゆうは、机の上に置かれたスマホへと視線を向ける。真っ黒な画面に映る僕の顔。

 ──もともと冴えないその顔が、本日の空模様のように曇っていた。


「大丈夫か、優……?」

「航汰……」


 こちらへ申し訳なさそうな表情を向けてくる、親友の相田あいだ航汰こうた

 ──航汰は、身長百七十五、すらりとした細身に、アイドル並みのルックス。

 さらに、成績は学年一位を誇る秀才という爽やか系インテリイケメンだ。


 僕の元気がない理由。

 ──それは、今から二十分ほど前に遡る……。


◇◇◇◇


「──なぁ、このゲームやってみないか?」


 親友の航汰からの提案。

 昼食後、退屈していた僕と航汰含めた男子四人は、スマホの最新パーティーゲームをプレイすることになった。

 まずは、性別、年齢等を入力し、無料登録。

 百種類以上あるミニゲームの中から、適当なゲームを選択。今回僕たちが選んだのは、徐々に膨らむ風船を順番に回していき、破裂時に手元にあった人が負け、というゲームだ。

 なお負けた人には、登録時に入力した情報を元に、自動で罰ゲームが指定されるという地味に嫌な機能が含まれていた。

 ──早速、風船を回していく僕たち。膨らむ風船に緊迫する面々。

 僕の操作するキャラから、隣の航汰のアバターに風船を渡そうとした。その瞬間。


 ──パンッ!!


「あっ……!」


 画面上には、割れた風船と、気絶した僕のアバター。


『優さんへの罰ゲームです:同じ学年の美人に、校舎裏で告白する』


 スマホの画面に表示された、その罰ゲーム。

 ──僕の頭には、とある『清楚美人』の顔が思い浮かんでいた……。


◇◇◇◇


「……なぁ、俺が代わりに告ろうか? 元はと言えば俺が原因だし……」

「いや、僕が負けたんだから、気にしなくていいよ……もう、告白相手も決まってるし……」

「──もしかして、美人な上に、クラス委員長も務めてる、恩田おんだか?」

「いや、亜桜あさくらさんだよ。罰ゲームで告白なんて悪いけど……」

「……黒髪清楚で人気の亜桜あさくら和奏わかなか。美人な上に、バストはEカップの九十一センチ。まさに、高嶺に咲く一輪の花ってやつだな」


 航汰の言うとおり、高嶺の花である亜桜。

 しかも、僕と亜桜の関わりは、これまでほとんど無い。

 昨年、高一だった頃、グループワークで一緒になった際、たまたまレインの連絡先を交換した程度の仲だ。


 ──対して、僕、殿村優の外見は、パッとしない。

 千円カットのショートヘアに、身長も百六十センチ程度。

 そして、格好いいとは言えない平凡な顔立ち。小さな頃は女の子にもよく間違われた、よく言えば中性的な顔。

 イケメンとは程遠く、あえて褒めるなら可愛い寄り……本当に良く言えば、だが。

 そんな僕は、当然、異性との恋愛経験はこれまで一度もない。


「──俺が聞いたところだと、これまで、サッカー部のエースや、バスケ部部長とか錚々たる面々が告白しては、こっぴどくふられてるらしいぞ」


 亜桜の席へと視線を向ける。

 彼女は、親友の持月もちづきりんとおしゃべりに興じていた。


「……凛、ほっぺにご飯粒ついてるわよ? 取ってあげるわね」

「え……ありがとう、和奏……!」


 ──持月凛は、つり目にウルフカットが特徴の少女。

 身長は百五十ほどと小柄。

 胸も、巨乳の亜桜とは対照的に小振り。

 しかし、特徴的なつり目で睨みを利かし、周囲の男子を威圧している。

 ある意味、告白クラッシャーの亜桜とは双璧を成していた。

 ──実は、水泳部期待のホープであり、水泳部でも、スイミングスクールでも練習に励んでいるらしい。

 しかし、そんな威圧的な彼女だが、亜桜にはとても懐いている。

 ふたりの関係を、バカップルなんて呼ぶ人もいるくらいだ。

 

「──まあ、僕なんて、振られて当然だからなぁ……」


 スマホのレインを立ち上げ、『放課後、校舎裏に来てほしい』と、亜桜にメッセージを送る。

 彼女のスマホが僕からのレインの着信をうけて光るが、亜桜はそのままスルーした。


「……優、告白頑張れよ」

「ありがと……航汰」


 僕は、航汰の言葉に、力なく礼を返すのみだった。


◆◆◆◆


 放課後、校舎裏。

 レインには既読しか付かなかったため、本当に来てくれるか分からない。


 ──彼女を待つこと約一時間。


 ヒュうぅーー……!


「さ、寒っ……!」


 流石に、もう来ないのでは……? 


 ──そう思った刹那。


「殿村くん……」

「あ、亜桜さん……!」


 目の前に現れた彼女──亜桜和奏。

 美しい百合の花を思わせる、大和撫子然とした佇まい。

 背は僕よりも数センチ低いが、ぴしりと伸びた背筋に、実際よりも高く見える。

 秋風に舞い上がる、腰まで伸びたサラサラの黒髪。

 折り目正しく身に着けられた学校指定の黒のセーラー服。九十一センチあるという、大きく膨らんだふたつの胸。

 首元には、学年を示す赤いリボンが鮮やかに映える。


「──亜桜さん、ごめん。急に呼び出したりして」

「いえ……こちらこそ、レインに返事もできずに、遅くなってごめんなさいね。持月さんが、なかなか離してくれなくて……それで、あたしに何の用かしら……?」


 若干緊張を帯びた声音。

 ──薄々、何を言われるかは察しているのかもしれない……。


「あ、亜桜さん……! 僕と付き合ってください……っ」

「──ごめんなさい。あなたとは付き合えないの……」


 ──予想通りの答え。

 しかし、こちらを気遣うような、躊躇いがちな断りの言葉に多少救われる。


「……わ、分かった。突然ヘンなこと言ってゴメンね………!」


 ──振られると分かりきっていたが、やはり辛くなる気持ちをグッと堪え、この場をあとにしようと歩き出す。


「──待って!」

「え、な、何……??」


 ──僕に近づく亜桜。驚いている僕の顔を、彼女が上目遣いに見つめている。


「……ちょっと付いて来てもらえるかしら……?」


 ──僕の手へを取り、歩き出す亜桜。

 彼女の柔らかな手のひらから伝わる感触。

 これから何かがはじまる。そんな予感がした……。


◆◆◆◆


 亜桜に手を掴まれたまま、ふたりで校門を抜ける。


「ね、ねぇ……誰かに見られるよ……??」

「今は誰も居ないから大丈夫よ……バスが来てるから急いで!」


 停車中のバス停へとダッシュして乗車。後方の席にふたり並んで腰かける。


「…………」


 無言の亜桜。

 彼女は文庫本を取り出して読み始めてしまったので、僕はすることがない。


 ──バスに乗り込んでから二十分ほど。タワーマンションが前方に見える。


「──ここで降りるわよ」


 先ほどのタワーマンションの横で停車。バスを降りると、彼女は一直線にタワーマンションのエントランスへと入っていく。


「亜桜さん、ここって……」

「あたしの住んでるマンションよ。最上階がうちの部屋だから……」


 エレベーターに乗り込むと、数十秒で最上階へと到着。共有通路を進むと、一番端にある部屋の前で立ち止まる。

 バッグから鍵を取り出し、扉を開ける。

 ──部屋の中は真っ暗だった。


「入って……?」

「お、お邪魔します……っ!」

「今、家族いないから、安心していいわよ……」

「え……?!」


 ──その言葉に、心臓が一拍、ドクンと跳ねる。

 廊下を進み、突き当たり。

【wakana】と書かれたルームプレートのかけられた部屋。


「あたしの部屋よ……入って?」

 

 緊張しつつも、彼女の私室へと足を踏み入れる。

 部屋に漂う甘い香り。

 白を基調に揃えられた、ベッドや本棚、ローテーブル等の調度類。


「ちょっと、この本読んで待っててもらえるかしら……?」


 本棚から本を二冊取り出し渡される。

 そのまま部屋から出ていってしまう亜桜。


「どうしよう……?」


 先ほど渡された本に目を落とす。

 ──タイトルは、『みさきトライ&アングル』。上下巻になっており、上巻の表紙には、ふたりの少女のイラストが描かれていた。


「読んでみるか……」


 登場キャラは、主人公のみさきと、親友の、触愛ふれあ

 ──普通の少女マンガかと思って読んでいたら、岬と触愛がキスをしたり、ベッドの上で抱き合ったりするシーンが出てくる。


「百合……?」


 亜桜って、こういう百合系のマンガが好きなのかな……?


 ──シャーー……。


 扉を隔てた先から、シャワーらしき水音が聞こえてくる。


「……えっ?! シャワー浴びるの??」


 同級生のシャワーを浴びる音。

 ドキドキしつつも、気を紛らすよう、とりあえず目の前のマンガに集中する。


「…………!」


 ──何気なく読みはじめたものの。

 アッと言う間に、作品の世界に引き込まれていた。

 女の子同士の恋の駆け引き。

 予想外の展開の連続に続きが気になり、時間を忘れてページをめくる。

 ──ふと、気付くと、下巻の最終ページまで来ていた。

 ヒロインたち、女の子同士のすさまじい恋愛模様。その儚く切ない感傷。

 読み終えたばかりの僕の胸が、ドキドキしている……!

 ふと、腕時計を見ると、読みはじめてからすでに一時間半ほどが経過していた。


「えっ?! もう、こんな時間……!?」

「お待たせ……」


 ちょうど、部屋着に着替えた亜桜が部屋に戻ってきた。右手には紙袋を携えている。

 ──上はグレーのトレーナー、下は紺のスウェットパンツ。湯上がりの、まだ乾ききっていないサラサラの長い黒髪に、火照る身体から香るシャンプーの匂い。


「お待たせしちゃって、ごめんなさいね……」

「だ、大丈夫……」

「……あら? もしかして、もう読み終わったのかしら?」


 亜桜が、僕の手に握られたマンガへと目を向ける。


「う、うん……なんだか夢中で読んじゃった……」

「そう、いいわよね……女の子同士の恋。──ねぇ、殿村くん、なんであたしに告白しようと思ったの……?」

「え……」


 ──罰ゲームだなんて言えるわけがない……。

  

「やっぱり、みんなと同じく、あたしの胸が大きいから、とか……?」

「……ち、違うよ……! ──何だか、優しそうな雰囲気の人だなって、前から思ってたから……」


 ──彼女に対して抱いていた感情。

 優しそうな雰囲気……嘘ではない。

 本気でそう思っていた。


「そう……? あのね、殿村くん。ちょっと大事な話、聞いてくれるかしら……?」


 真剣なまなざしの亜桜の顔。


「……う、うん。聞くよ……」

「──ありがとう。あたしね、小学五年生の頃、はじめて好きな人ができたの……すごく可愛い、女の子だった……でもね、その子は普通に男の子が好きだったし、同性愛は苦手だった……あなたも、告白した相手が同性愛者だなんて、やっぱり嫌かしら……?」

「……いや、そんなことはない。引く必要もないよ……」


 ──僕には彼女の、その真摯な気持ちを否定することはできない。

 誰かを好きになる、恋慕を抱くというのは、性別に捕らわれない、真摯な感情だと思う。

 目の前の彼女に告げたのは、僕の素直な気持ちだ。


「……そんな風に言ってくれるなんて思わなかったわ……ありがとう、殿村くん。で、もしよかったらなんだけどね……」


 言い淀む亜桜。

 意を決したように、傍の紙袋から『何か』を取り出すと、ローテーブルの上に並べはじめた。


「あのね……これ着てみてくれないかしら……??」


 テーブルの上には、畳まれた衣類の山が出来ていた。スカートやブレザー、ブラジャーに、小さなリボンのついたショーツ……。


「えっ、これって……!」

「そう……女の子モノの、制服や下着よ……」

「これを、僕が……??」

「……ねぇ、殿村くん。あなた、なかなか、可愛らしい顔してるわよね……? 昔、あたしが好きだった子みたいに……」

「……ッッ!」


 亜桜が、僕の顔に、そっと手を這わせた。

 ──くすぐったくも、得も言われぬ感覚が全身を走り抜ける。


「──あたし、なんだかあなたのこと気に入っちゃったわ……ねぇ? あなたも、可愛いらしい姿に『変身』してみましょうよ……?」

「……わ、分かった……」


 蠱惑げな彼女の声音。

 圧倒された僕は、思わず頷いてしまう。

 ──これから、どうなっちゃうんだろう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ