魔法少女というジャンルの確立 第3話:変身という名の願望
作者のかつをです。
第十六章の第3話をお届けします。
「変身」の元祖、『ひみつのアッコちゃん』。
戦うための変身ではなく、大人への憧れを叶えるための変身。
それは高度経済成長期の日本において、女性の社会進出を予感させるような、希望に満ちた魔法でした。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
コスメショップの鏡の前で、若い女性がリップを塗り、自分の顔を確認している。「よし、これで仕事モード」。メイクは、現代の女性にとって一種の「変身」だ。なりたい自分になり、社会という戦場へ出て行くための武装。その「変身」への憧れを、子供たちに最初に植え付けたのは、間違いなく一つのアニメ作品だった。
私たちは、「変身して強くなる」という概念をアニメの定番として知っている。
しかし、その変身が「戦うため」ではなく、「大人になるため」の魔法として描かれた物語があったことを、知る者は少ない。
『魔法使いサリー』の成功から3年後の1969年。
東映動画は、次なる魔法少女アニメの企画に着手していた。
原作は、赤塚不二夫の『ひみつのアッコちゃん』。
サリーちゃんは、魔法の国から来たお姫様だった。つまり、最初から特別な存在だった。
しかし、今回のアッコちゃんは違う。
彼女は、ごく普通の小学生の女の子だ。鏡の精から魔法のコンパクトをもらい、後天的に魔法を使えるようになる。
そして、その魔法の使い方も革命的だった。
「テクマクマヤコン テクマクマヤコン」
呪文を唱えて彼女がするのは、空を飛ぶことでも、物を出すことでもない。
「変身」だ。
お医者さん、スチュワーデス、婦人警官、あるいは動物。
彼女は、なりたい姿になれるのだ。
当時の女の子たちにとって、「早く大人になりたい」という願望は切実だった。
美しい服を着て、社会で活躍する大人の女性。
アッコちゃんの魔法は、その願望をストレートに叶えるものだった。
企画会議では、スタッフたちの熱い議論が交わされた。
「ただ変身して遊ぶだけじゃダメだ」
「大人の姿に変身することで、大人の世界の苦労や責任を知る。そういう社会勉強のドラマにしよう」
アッコちゃんは変身することで、子供の視点では見えない社会の裏側や、働くことの尊さを学んでいく。
例えば、婦人警官に変身して交通整理の大変さを知る。
看護師に変身して、命の重みに触れる。
それは、単なるファンタジーを超えた、極めて教育的で、かつ夢のある「お仕事体験」の物語だった。
そして、この作品が生み出した最大の発明品が「コンパクト」だった。
スポンサーの玩具メーカーは、劇中に登場するコンパクトを模したおもちゃを発売した。
鏡がついた、ピンク色のプラスチックの小箱。
これが、爆発的に売れた。
女の子たちは、そのコンパクトを覗き込み、自分の顔を映しながら呪文を唱えた。
「テクマクマヤコン……」
鏡の中の自分は、いつもの自分とは違う、何にでもなれる可能性を秘めたヒロインに見えたはずだ。
『ひみつのアッコちゃん』は、魔法少女アニメに「変身アイテム」という最強のビジネスモデルを持ち込んだ。
そして何より、女の子たちに「変身すれば、私は何にだってなれる」という、未来への無限の希望を与えたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「テクマクマヤコン」という呪文は、「テクニカル・マジック・マイ・コンパクト」の略語風に作られたという説もありますが、その語感の良さは天才的でした。
さて、魔法少女は「異邦人」から「変身する普通の子」へと進化しました。
次は、そこに「戦い」と「ライバル」という要素が加わります。
次回、「戦うだけじゃない」。
ちょっと大人で、スパイシーな魔女っ子の登場です。
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