魔法少女というジャンルの確立 第1話:女の子が見たいもの
作者のかつをです。
本日より、第十六章「プリンセスたちの魔法 ~魔法少女というジャンルの確立~」の連載を開始します。
今回の主役は、女の子たちの夢を形にした「魔法少女アニメ」。
「アニメは男の子のもの」という常識を覆し、少女たちのための新しいエンターテイメントを切り拓いたクリエイターたちの物語です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
日曜日の朝。リビングのテレビの前で、小さな女の子が変身アイテムのおもちゃを握りしめて踊っている。画面の中では、フリルとリボンを纏った戦うヒロインたちが、華麗なアクションで敵を浄化していく。その横で、母親もまた懐かしそうな目で画面を見つめている。「ママの時は、月に代わってあの子が戦っていたのよ」。
「魔法少女」。それは日本のアニメが生んだ、世界に誇る独自のヒロイン像だ。
私たちは、女の子が主人公のアニメが当たり前に放送されていることを知っている。
しかし、かつてアニメーションが「男の子だけのもの」だと信じられていた時代があったことを知る者は少ない。
物語の始まりは1960年代半ば。
『鉄腕アトム』のヒットにより、テレビアニメは子供たちの娯楽の王様となっていた。しかし、そのラインナップを埋め尽くしていたのは、ロボット、宇宙人、スポーツ根性ものばかり。視聴者のターゲットは明確に「男の子」に絞られていた。
「女の子はアニメなんて見ない。ままごとや人形で遊ぶのが好きなんだ」
それが、当時のスポンサーやテレビ局の常識だった。
しかし、その常識に疑問を抱く男たちがいた。
東映動画の企画部である。
彼らは、アメリカで大ヒットしていたあるテレビドラマに注目していた。
『奥さまは魔女』。
普通の人間社会で暮らす魔女が、魔法を使って日常の騒動を解決するシチュエーション・コメディだ。このドラマは日本でも放送され、大人だけでなく子供たち、特に女の子たちに絶大な人気を博していた。
「女の子だって、テレビの前で夢を見たいはずだ」
「魔法使いの女の子が主人公のアニメを作れば、間違いなく当たる」
東映動画のプロデューサーたちは、この未開拓の市場に可能性を感じていた。
しかし、前例がない。ロボットも怪獣も出てこないアニメが、果たして商業的に成立するのか。
彼らは原作となる漫画を探した。そして、一人の巨匠にたどり着く。
『鉄人28号』で男の子たちを熱狂させていた、横山光輝である。
彼が少女漫画誌で連載していた『魔法使いサニー』。魔法の国から人間界にやってきたおてんばな王女様の物語。
「これだ。これをアニメにするんだ」
企画は動き出した。
しかし、それは単に「男の子向け」を「女の子向け」に変えるだけの作業ではなかった。
女の子たちが本当に見たいものは何なのか。
戦いなのか、恋なのか、それとも素敵なドレスなのか。
男ばかりのスタッフたちは、頭を抱えながら、未知の領域である「乙女心」という迷宮へと足を踏み入れていった。
それは、日本アニメの歴史に、初めて「プリンセス」が舞い降りる準備が整った瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十六章、第一話いかがでしたでしょうか。
『奥さまは魔女』の影響は、日本の魔法少女アニメの成立に決定的な役割を果たしました。日常の中に魔法があるという設定は、ここから生まれたのです。
さて、企画は動き出しました。
しかし、最初のアニメ化には、商標登録という意外な壁が立ちはだかります。
次回、「魔法の国から来たサリー」。
伝説の第一作目が、いよいよお茶の間に登場します。
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